新たな地へ
翌日
ザーザーと降り注ぐ雨の中のアルシャラ。
雨音が響く昼下がりの交易所でランハルは商談を行っている。
「ランハル様、これでいかがでしょうか?」
「もう一声願えませんかな?」
相手の示した数字に顔を渋くするランハル。
「うーん、さすがにこれ以上は…」
「そうですか、ではこれで手を打ちましょう」
「ありがとうございます」
妥協し、商談を終える。
「それでは品物は貸倉庫へ運ばせていただきますね」
「わかりました、それではよろしくお願いします」
予定を確認し、代金を小切手で支払う。
傘をさして交易所を出ると、次に向かうのは冒険者ギルド。
立派な門構えの建物の扉を開ければ視界に映るのは冒険者と呼ばれる日雇い労働者たちの姿。
「こんにちは、素材を買いたいのですが、よろしいですか?」
「はい、承ります」
ランハルの要望に受付嬢が確認のため奥へと向かう。
しばらくしてリストをランハルの目前で開く。
「こちらが現在販売している品目でございます」
「ほう、これはこれは」
並べられた品目を目で辿る。
周辺で自生している植物やスライムなどの弱いモンスターの素材をはじめ、レッドウルフの牙や毛皮などの相当な実力者でないと入手出来ない希少な素材などが羅列されている。
「いやはや、ここのギルドは良い冒険者に恵まれていますな」
充実した素材の品目に喜ぶランハル。
ふと、リストに薬が並んでいることに気が付く。
「冒険者以外にも薬も売り始めたんですか?」
「終戦で軍需品が余るようになりましたからね。市場に出回るようになったので部外者の方にも売るようになったんです」
「そうでしたか」
「それで、いかがされますか?」
「レッドウルフの牙を四本お願いいたします。それと、傷薬を五十、内服薬を二十ほどこちらの倉庫へ」
「かしこまりました」
代金を払い、所望の品を運ばせるランハル。
ギルドを後にすると、貸倉庫へと向かう。
「お二方、お待たせいたしました」
待機していた二人に挨拶を済ませる。
ふと、コノハの背負っている黒い太刀に目が行く。
「コノハ様、その得物は?」
「黒天刀」
それだけを答える。
「この馬鹿、「呪われたい」とか言って妖刀を買ったのよ。
なんでも邪龍の力を宿した刀だとか」
「じゃ、邪龍の力を宿した刀でございますか」
リラの言葉に一歩退く。
「邪龍かどうかはともかく、この刀からは確かに禍々しい力を感じるわ」
「ああ、背中越しにゾクゾクと感じる」
「・・・・・」
コノハの不気味な姿にさらに三歩下がる。
「それで、どうする?代わりの護衛はいくらでもいると思うけど…」
「と、とりあえずよろしくお願いいたします」
ハハハと愛想笑いしながら護衛の続行を依頼。
交易の手続きを済ませて門を通り抜ける。
「そういえば、これからどこへ行くのかしら?
この方向に大きな街はないはずよね?」
地図を見ながらそう尋ねるリラ。
「恩人がいるんですよ」
「恩人?」
「以前、賊に襲われた時に助けていただいたんです。
「見返りは無用」と言われたのですが、どうしても恩を返したくて」
当時のことを振り返りながら、斜路を進む。
「…その恩人がどうして山の中へ?」
視界の遠くに山岳が映る中、リラが続ける。
「詳しくは現地の村で…」
「そう、ところでその村の名前は?」
「アルジャーノ鉱山村でございます」
リラの問いに返すランハル。
小休憩をはさみながら進むこと五時間程、雨上がりの道を歩く一行の視界に大きな関門が映る。
人工的に切り開かれた山の間に建造された、石レンガの関門。
「あれが村の入り口かしら?」
「いえ、村へと続く山道の通行を管理する関門です。
実は、これから向かう村は金鉱で栄えた場所でして、賊徒などの危険な存在の侵入を防ぐために道の途中に関門を設けたそうです。
といっても、今は無人ですが」
「…何故だ?」
不自然な状況に、コノハが問いかける。
「金鉱石が枯渇したことで、村の価値がなくなってしまったからです。
その上戦争で守備兵を前線に送った結果このようなことに…」
「そうだったのね。この辺には行く機会がなかったから知らなかったわ」
夕日を背に進む一行。
関門には誰もおらず、不気味な静けさに満ちている。
石レンガは風雨で朽ち始めており、一切手入れがされていないことが窺える。
「今日はここで夜を過ごしましょう。
よろしいですか?」
ランハルの提案に、二人は承諾する。




