聖女
王城の一室。
尖塔に設けられた王女の部屋にクランのすすり泣く声が響く。
贈られた宝玉が邪龍を封じていた代物だったという、信じていた仲間から伝えられた衝撃の事実。
国のためと思い、大好きな祖父の追放に加担しただけでも心が張り裂けそうだったのに、その上で邪龍の宝玉を路銀として手渡してしまった。
もしこれで祖父の身に何があったとしたら、どう償えばいいのか…
雨上がりの夕日に照らされるクランの心中を、焦燥と後悔が暴風のようにを駆け巡る。
「入るぞ、クラン」
扉が開き、クランと同じ青色の髪の男が部屋に入る。
「お父様…」
涙を拭って父であるローランに振り向く。
「話は陛下から聞いた。
お前は悪くない。何一つな」
それだけ言って娘を抱きしめる父親。
本来ならば次代の国王になるはずだったが、より良い国の未来のために民からの信望の厚いアルトロに王位を譲った。
「お父様、私はどうすれば…」
「お前はお前のするべきことをしろ。
大丈夫、邪龍なんてのはおとぎ話だ。そんなものは存在しない」
髪をなでながら、優しい口調で娘を落ち着かせる。
「些細な出来事が言い伝えられていくうちに誇張されていくなんてよくある話だ。
心配はいらない」
「ぐすん…」
父の優しい言葉に、クランはようやく落ち着きを取り戻す。
「クラン様、よろしいでしょうか?」
ローランの後ろから、従者が頃合いを見計らって入室する。
「何かしら、ジューラ」
「は、晩餐会の時間が迫ってきております。
準備をお願いいたします」
「もうそんな時間なのね、すぐに向かうわ」
乱れた髪を整え、泣きはらした顔を化粧で誤魔化すと、晩餐会用の衣服に着替えて会場へと向かう。
娘の部屋で一人残されたローラン。
椅子に座り静かに回顧する。
生まれつき持っていた能力もといスキル『聖女』を持つクラン。
寡兵しか出さない父に代わって国民のために軍医として戦地に赴き、冒険者で編成された義勇軍の兵士たちの傷を癒していた。
彼女のスキルの存在が発覚したのは十二歳の誕生日。
悠久の時を生きるとされる竜人の老女が王城に訪ねてきた。
顔を見るだけで人が分かると謳う怪しげな女ではあったが、彼女はデモンストレーションと称して門番をはじめ、王宮の関係者の経歴を的確に言い当てた。
そして教えてもらったスキルという不思議な能力の存在。
曰く、クランは今の時代では非常に珍しいスキル持ちであり、『聖女』には災いを事前に察知し、封じる力があるという。
スキルとか何を言っているのか当時は全くわからなかったが、今思えば確かにクランが参加したあとの義勇軍兵士の損耗率がやけに低かった。
戦場においては魔帝軍の伏兵に誰よりも早く察知し、王都侵攻の兆候にも気が付いた。
おかげで義勇軍は魔帝を打ち破るに至り、世界に平和をもたらした。
だが、親としてはそんな力なんかよりも、ただただ健やかに育ってくれたほうが嬉しい。




