近衛兵団、団長グレゴール
王城にある訓練所。
王国中から選び抜かれた精鋭たちが掛け声とともに威勢よく剣を振る。
「ご覧ください、あれらがアルガン王国随一の精鋭達です」
アルトロに従い、視線を向ける来賓たち。
視界に映る誰もがよそ見することなく、ただただ訓練に明け暮れている。
「これは陛下!」
こちらに気付くや、団長となったグレゴールが近づいて一礼する。
「これはグレゴール様、お目に掛けられて光栄でございます」
筋骨隆々な肉体にふさわしい大剣を背負う彼に、ローレンスは恭しく接する。
「これは諸侯団の皆様、使節団の方々、ようこそいらっしゃいました」
スキンヘッドを陽光に照らしながら、荒くれの見た目からは似つかわしくない口調で挨拶するグレゴール。
「いやはや、流石は王国一の精鋭。剣筋に一切の乱れがありませぬな」
「ありがとうございます。といってもあくまで先代の団長から引き継いだ兵達ですが」
あくまでも謙虚に応えるグレゴール。
不意に、ダラッドの外務大臣であるシーラが口を開く。
「失礼ながら、私の知るグレゴール様のイメージと大きく異なりますね。物語では手が付けられないほどの荒くれものだと書かれておりましたが…」
そう言ってアルトロたちの冒険譚の一部が記された『勇者戦記』と書かれた本を取り出す。
「余が冒険者ギルドで彼と出会ったときはまさにその通りでした。
飲んだくれで、自分勝手でろくでなし。
それが彼の第一印象でした」
「ははは…」
公然の事実とはいえ、戦友でもあるアルトロに黒歴史を暴露されたことに乾いた笑いを漏らす。
「あのときは、自分の強さに驕っておりました。自分に勝てないものはなく、金も女もすべてが思いのままだと」
「新人冒険者だった余に対して、彼は力試しと称して一騎打ちを持ちかけてきました。返り討ちにしましたが」
「それは物語の通りなんですね。陛下の冒険譚は作家によって大きく脚色されておりますので、失礼ながら、これもそうなのかと…」
「あの時の一撃は今でも覚えております」
額をさすりながら、当時のことを回顧する。
「ところでグレゴール様、私と手合わせを願えますかな?」
剣の柄に手を掛けながら、ローレンスがそう持ち掛ける。
「ローレンス伯、申し訳ありませんがそういうのは―――」
「許可する。思う存分に刃を交えるといい」
グレゴの言葉をさえぎって許可を出すアルトロ。
直後に魔法道具を行使して両人の体を強化する。
「陛下のお許しをいただけたことです、胸をお借りいたしますぞ、グレゴール様!」
「やれやれ」
大剣を引き抜くグレゴール。
ローレンスも飾り気のない剣を引き抜き、刃を陽光にきらめかせる。
「行きますぞ!」
剣を構えて接近、跳躍して刃を振り下ろす。
ローレンスの放つ渾身の兜割。
体重を乗せて繰り出されたそれをグレゴールは足を動かすことなく大剣で振り払う。
ガキィン!
剣戟の音が響く。
得物ごと弾かれたローレンスは空中で体勢を立て直して着地、バックステップで距離を取る。
「会心の一撃を軽々と振り払うとは、やりますな」
再び構え直すローレンス。
今度はまっすぐに接近する。
「ふん!」
大上段に構えた大剣を右手で振り下ろし、敷かれたレンガを砕く。
直前、ローレンスは右に回避し、グレゴールの脇腹に突きかかる。
「おっと」
剣を手放して脇に迫る刃を腕甲で振り払うと、隙を晒したローレンスの懐に接近。
逆手で引き抜いたナイフを相手の眉間に突き付けた。
「そこまで」
勝敗が決したことを悟り、アルトロが声を放つ。
「私の負け、という事ですか」
剣を鞘に納め、グレゴールに一礼。
対するグレゴールも対戦相手に敬意を示す。
「いかがでしたか、ローレンス伯」
「いやはや、お見事でございました。さすがは大戦士様です」
「彼の強さには、何度も窮地を救われました。その強さは今後の王国の戦力の要になってゆくことでしょう」
グレゴールの武威を誇らしく自慢するアルトロ。
国威の一端を見せつける目的で訪れた訓練所ではあるが、ローレンス伯の『協力』もありことのほか上手く行ったことに笑みをこぼす。




