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幹隆はカメラ写りを気にしない(後)

「二十二階……二十一階」


 非常用階段を文字通り飛び降りる勢いで幹隆は降りていく。その間に対策本部となっている大型トレーラーでは監視カメラ映像の確認が進められていく。


「通山、わかったぞ。六階のここに奴らがいる。それと……」

「なるほど。村田、わかったか?」

「すみま……電波……悪く……こえ……せ……」

「……七階で止まれ」

「り……解」


 とりあえずいきなりテロリスト集団の集まっているところに飛び込むのだけは止めておき、もう少し状況把握をしなければなるまい。通山が突入の準備をしている部隊と連携しようと立ち上がりかけたとき、それ(・・)は起こった。

 ドムッと通り過ぎようとした非常階段の扉が吹き飛んだ。


「ぬわっ」


 十二階。無人は確認されていないが、狐火の探知には反応が……


「ん?」


 ちょっとおかしなところを感じ、「マズい」と判断。

 扉が吹き飛んだと同時にまき散らされた粉塵に紛れ、十一階に転がり出ると、すぐに扉を閉める。直後、階段を飛び降りてくる重い音。


 狐火の探知の反応が薄いのはなぜだ?そんな疑問が頭をよぎるが、すぐ首を振って追い出す。今は何が起こったかを正確に把握し、対処すべきだ。そう思った瞬間、デカい衝撃音と同時に扉の中央が膨らみ、バキンと蝶番が外れて吹っ飛んだ。

 ちょっとあり得ない出来事――幹隆ならできるが――に距離を置くべく後ろに跳んだ直後、さっきまで幹隆がいたところにドンッと何かが打ち込まれ、床が僅かにへこんだ。


「……フン、カンのいい奴だ」


 そう言って粉塵の中、床に刺さった右腕を引き抜きながらゆっくりと男が歩み出てきた。


「ええ……何これ」


 見た目をひと言で言い表すなら、ゴツいロ○コップ。頭部は普通に人間のままでゴーグル付きのヘルメットを装着しているのが違いと言えるだろうか。そして特徴的なのは先程まで床に突き刺さっていた右腕。正確には突き刺さっていたのは腕ではなく、腕から生えた鈍い光を放つ、杭のようなもの。


「まさか……日本人男子の七割以上が憧れる、パイルバンカー装備かよ」

「ほう、コイツの良さがわかるか?」


 誇らしげに杭の射出機構をなでる男に思わず微笑みを返してしまう。


「そうだな。ソイツについて一晩語り明かしてもいいぜ」

「フム……魅力的な提案だが、そんな時間はとれそうにない。物理的に語り合うしかなさそうだな」

「やれやれ、互いに難儀な立場だね」


 直後、男が踏み込んできて、右腕を振るうのを跳んで避けると壁がズドンと撃ち抜かれる。


「すっげえ威力」

「当然だ。コイツには……っと、言葉よりも直接味わった方がいい……ぜ!」


 言って左腕が振るわれると、バッと網が射出されて広がった。あれに捕まったら、動きが阻害されてしまうと、慌てて飛び退こうとして


「くっ!」


 廊下の突き当たりに追い込まれていて逃げ場がなく、網に絡め取られてしまう。もちろん、こんな網、幹隆にかかれば引きちぎるのは容易い。が、それでもホンの僅か、動きが阻害されてしまうのは避けようがない。

 とにかく脱出だと絡みついた網に指を引っかけてブチッと引きちぎった瞬間、男の右拳がみぞおちに叩き込まれ、同時に肘の辺りで、ボンッと破裂音と同時に煙が上がり、腕についた杭が打ち出される。


「くっ」


 瞬間的に男の右腕を掴み、吹き飛ばされないようになんとか踏ん張って耐える。ダメージよりもこのまま壁ごとぶち抜かれて外に放り出される方がマズい。


「ぬ……これを耐えるか」

「頑丈さには自信があるんでね!」


 そして右腕を掴んだ手に力を込めるとバキッと折れた。


「ぬおっ!」


 慌てて男が飛び退いたが、ここで逃がすとロクなことにならないと踏み込んで左足を掴み、握りつぶすとこちらもバキッと折れた。

 そう、手足に纏っている金属製の装甲が割れたのではなく、中身ごと折れた(・・・・・・・)のだ。血の一滴も流さずに。


「手足が機械?いや、手足だけじゃないな?」

「ご明察!」


 無事な左手が突き出され、ドムッという爆発音と同時に握りしめた拳が打ち出され、慌てて避ける。

 そして背後でドガンッと壁が砕かれる音。


「まさかのロケットパンチかよ」

「夢があっていいだろっ!」


 右膝を曲げるとガシャッと音がして太ももが開き銃口が幹隆に向けられる。


「うおっ!」


 ダダダッと銃声が響き、とっさにガードした両腕に弾丸が――実際にはそのまま弾丸がひしゃげて落ちるのだが――突き刺さる感触。すぐにガードの下から男の右足首を確認し、スパンッと足払い。膝から下を刈り取ると、両手足を失った男がドスンと床に落ちる。


「クソッ、噂には聞いていたが、こんなに強いのかよ」

「どんな噂か知らんが、お前こそ何だよ……機械は手足だけじゃないな?」

「ククッ……まあな」


 狐火の探知で見た感じで言うと、この男はみぞおちの辺りから下は全部機械のように見える。つまり、頭部と生命維持に必要な最低限の内臓以外はだいたい機械になっていると言うことか。

 そして頭部も脳を始めとする神経系に顔の表情を作る最小限の組織以外は機械化されているようだ。


「一体どうやってこんな」

「喋ると思うか?」

「だろうな……ハア。課長、聞こえてますか?」

「あ、ああ……」


 課長の声が疲れて聞こえるのは、幹隆のボディカメラの映像――言うまでも無く高速で動いていたため、ぶれまくっている――で目眩がしていたせいであるが、それどころではなくなった。


「お前みたいのがまだいるんだな?」

「まあ……な」

「一応確認だ。お前の残り(・・)、爆発物はあるか?」

「教えると思うか?」

「ハア……じゃあ、質問を変える。そこから動けるか?」

「……無理だな」


 動けるならとっくに動いているだろうからこの言葉は信用していいだろう。


「課長、とりあえずコイツはここにこのまま残します」

「わかった」


 返事と同時に先ほど男に吹き飛ばされた扉に向かおうとして、足を止める。


「お前、名は?」

「ルゴラス」

「そうか」


 無線から「ルゴラスと名乗る男の確保だ!急げ!」という声が聞こえたのを確認すると、非常階段へ飛び込み、踊り場から踊り場へ飛び移るように高速で下りていった。




「ルゴラスがやられたようだな」

「フン、俺たちと同じようにせっかく機械化に成功したというのに、強化改造を拒むからこうなるんだ」

「そうだな。アイツは俺たち三人の中で最弱。やられるのも当然ということ」

「むしろ俺たちのように強化すべきという証明ができたと見なせるだろうな」


 クククと笑う先ほどのルゴラスよりもゴツい姿の男二人と、会話の内容にドン引きしているらしい周囲の男たち。そしてそんなむさ苦しい空間へドンッと扉を蹴り開けて入っていく幹隆。


「貴様!いつの間に?!」

「いつの間にって……お前らが馬鹿笑いしている間?」

「おのれ!」

「お前ら、撃て!」

「お、おう!」

「クソッ!」


 やや大柄な方が檄を飛ばすと周りの男たちが慌てて銃を構える。が、幹隆にはいちいちそんなのを待つ義理は無いので、トントンッとゴツい男二人に向けて跳ぶ。

 コイツらを押さえればあとは雑魚。特にデカい方は間違いなくこの中で最強だろう。狐火の生命反応も一番弱い(・・・・)し。


「フンッ!」

「っとぉ……足癖の悪い……ぬおっ!」


 蹴り込んだ足を掴もうとした腕を蹴り飛ばすが、一瞬早く反応されて避けられた。


「その位は出来そうだよな」


 二人とも目を機械化しているし、当然その先、脳に至るところにも色々手を入れているだろうから、普通の人間よりも反射神経は鋭いはず。

 もっとも、それは幹隆とて同じ。


「食らえ!」

「うわっと」


 小柄な方が右手首を外して何かをぶっ放したので慌てて避けると、デカい方に足を掴まれた。


「ナイスだデリック、これで終いにしてやるぜ!」


 そのまま床に叩きつけ……いや、そのまま床にめり込んだ。


「効かねえよ!」

「頑丈だな!」


 掴んでいた手を反対の足で蹴り壊そうとしたが逃げられたが、とりあえず距離はとれる。


「おっと、逃がさねえよ!」


 いつの間に後ろへ回り込んだのかデリックと呼ばれていた小柄な方に羽交い締めにされた。


「よし、押さえとけよ!」

「おう!」


 デカい方が構え、一気に踏み込んできて右の正拳突きを幹隆に放つ。が、一瞬早くデリックの足を蹴り砕き、無理矢理身体を回転させる。

 すると当然、デカい方の拳はデリックの身体を貫く。


「がっ……おいおい、グレアス、これはちょっとシャレにならねえ」

「振りほどかれるお前が悪い!」


 腕が突き刺さったまま、デリックを振り回し、幹隆を殴りつける。


「ぶっ!お前、仲間だろ?」

「仲間かどうかは役に立つかどうかで判断だ!」


 吹っ飛ばされて一回転しながら着地して指摘したところ、どうやらそういうこと、らしい。


「グレアス!俺は仲間だろうが!」

「ああ、そうだな。いい鈍器だ」


 突き刺さった拳でそのまま背骨を掴み、デリックを振り回してくるので慌てて距離をとる。振り回されてるむさ苦しい男に殴られるのはたまったものではない。


「動くんじゃねえ!すばしこい奴め!」

「止まれと言われて止まる奴って見たことないんだが?」

「うるせえ!」


 いい感じに頭に血が上っているな。周りの男たちも暴風雨のように暴れ回るグレアスを前にどうやって手を出すべきか戸惑っているようだからこれ、行けるだろ。


「ええい!ならばこうだ!」


 ブンッとデリックを放り投げてきたのを転がりながら避けると、予想していたらしく先回りして、


 ドガン!


「ぐはっ!」


 逃げ回りながらあちこちに設置した狐火の火球に触れて爆発。吹っ飛んだ先でさらに爆発してさらに吹っ飛び……


 ダダダッ


「っと!」

「チッ、隙ありと思ったんだが」


 だいぶひどい姿になったデリックがそれでも諦めなかったのか、右腕で撃ってきた。


「なかなかしぶとい……うわっ!」

「ふはははは!捕まえたぞ」


 撃たれても痛くはないが、身につけている物がボロボロにされるのを嫌って避けようとした先にグレアスがいた。


「ぐっ!離せ!」

「ははははは!お前はここで死ぬんだ!」


 ガッチリ抱え込んだ状態でゆっくりとグレアスは廊下へ出る。

 ちなみに絵的には狐耳美少女をむさ苦しいオッサンが抱きすくめているのだから、充分すぎるほどに事案である。


「この……ん?」

「ククク、気付いたか?」

「お前、まさか?!」


 グレアスの体内から何か機械的なキーンと言う音、そして温度上昇。


「自爆?!」

「ふはははは!」


 直後、ビル全体が震えるような爆発。


「く……グレアス、自爆するならもう少し離れてからに……」

「うるせえよ」


 よろよろと出てきて文句を言うデリックに、美術室の胸像のようになったグレアスが答える。


「よく生きているな」

「こんなんで死ぬつもりはねえよ。オラ、さっさと本部へ連絡しろ」

「わかっ……お、おい」

「ああ?」


 デリックがふと視線を向けた――グレアスからは死角になって見えない辺り――先を見て動きを止める。


「ったく……ちょっとびっくりしたぞ」

「な……何で……生きて……」

「あーあ、これ、直せるのか?」


 直径五、六メートルが完全に抉り取られた様子を見ながら全身ボロボロ――と言っても、着ている物だけで本人は全くの無傷だ――の幹隆がぼやく。


「げ、カメラも吹っ飛んでる」


 まあいいか、確かFBIの備品だし、謝るのは課長だし、と気を取り直してオッサンたちに向き直る。もっとも、肝心のカメラ映像は幹隆の動きが速すぎて何が何だかさっぱりわからないため、何の役にも立っていなかったと後で指摘された。


「さてと……まだやるか?」

「いや参ったね。俺たちはもうこれ以上は無理だ。降参する」

「俺たちってのはそっちの部屋にいる連中もか?」

「そうだ。突入してきた全員、降参する」

「……だそうです、課長」


 予備の無線を引っ張り出して報告すると、向こうは大騒ぎだ。


「あと五分もしないうちにここまで部隊が来る。武装解除しろ」

「いや、意味は無いね」

「は?」

「俺たちの役目はここまで、イヤ、正確に言うと、役割は果たした」

「どういう意味だ?」

「あのな、俺たちの役割は、ここにいる各国の大使や首脳をどうにかするんじゃなく、単に釘付けにすることだったのさ」「は?」

「時間だ……いや、もうあと一分かそこらで、ここは終わる」

「何を言って……」

「アメリカが極秘に開発中と言われている「神の杖」」


 人工衛星から強靱な素材でできた杭のような物を落とすだけという単純な兵器だが、地下百メートルまで貫通するとか。が、都市伝説のような話だ。


「噂レベルだろ?」

「俺たちの組織は開発に成功し、ここで試運転だ」

「クソ!」


 デリックを蹴り飛ばしてこちらも胸像状態にして、無線に向けて怒鳴る。


「課長!」

「ああ、今、空軍のレーダーが捉えた。残り三十秒……退避する」

「だあああああっ!」


 すぐそばの窓を割り、外へ飛び出すと両手足をフルに使って壁面を駆け上がる。その視線の先に、確かにいくつかの光の点が見えた。


「うおおおおおお!」


 駆け上がる勢いでそのまま屋上の縁を蹴り目一杯ジャンプ。


「狐火の収納!」




「そうか。わかった」


 幹隆が神の杖もどきを収納後、武装した部隊が突入。体を機械化しているわけでもない普通の武装しただけのテロリストが適うわけもなくあっさり投降したところで日本のSPは大使らを連れて引き上げた。そして、その後の話が来たのだが、あまり芳しくなかったのは通山の表情でわかる。


「とりあえず村田が空から降ってきたのも、空から降ってきた()を収納したのも、映画の撮影ということでごまかしたそうだ」

「そんなのでごまかせるんですか?」

「ハリウッドがしばらく忙しくなるらしい……と、それは余談な。例の機械化された三人も、他の武装集団も全員死んだそうだ」

「は?」

「タイマーで体内に毒を注入する機械をつけていたようでな、全員一斉に、だとさ」

「口封じってことですか」

「そもそも全員生きて帰るつもりもなかった……つまり使い捨てられたんだろうな」


 彼らが何に殉じたのか、背後関係すらつかめないまま事件は終了。気がかりと言えば、


「体をどうやってあんな機械にしたんだ?」

「そうだな。米軍ですら開発できていない代物だ」

「まさか……」


 幹隆は自分のスマホを出して、連絡先を開く。


「須藤啓太……と」

「村田?」

「おう。一つ聞きたいんだが……お前、また何かロクでもないもの作った?」

また(・・)って……まあ、色々作ってるぞ」

「サイボーグとか?」

「義肢装具は開発してるけど、実用レベル……スマン、実は半年くらい前にハッキングされて……な」


 背後関係が明らかになるまで、平穏は訪れないのだろうと、全員がため息をついたのだった。


相変わらず……タイトルと内容が微妙に合わないな……

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