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九十九番目の夢(99th Dream)  作者: 毛利秋王
第一章【生まれながらの罪人】
9/99

9th Dream







しかし、僕は一体どうしたのだろう?

『夢だと思っていたのが、実は、現実だった……?』

身に覚えのない恐怖に、全身が支配される感覚に襲われた。

僕以外は誰も居ない自分の部屋で、僕は迫りくる闇と戦っていた。

これまでに見た夢を確認しようと、夢日記を手にした。町村先生に言われてから、その日に見た夢を出来るだけ正確に記録していたが、ページを捲りながら僕は奇妙なことを考え始めた。

『……そういえば、ここに書いてある以前の夢って、どんなのを見ていたんだっけ……?』

物心ついた頃に毎晩見ていた、地獄の鬼に裁かれようとしている夢。大人になってからその夢を再び見るようになり、そして、ここに記録している通り、今までに8つの夢を僕は見ている。

しかし、“その間”には、一体どんな夢を見ていたのだろう?

僕は自身の記憶を辿り、必死に思い出そうとした。だが、ひとつも思い出せない。それほど重要なものでもなく、目覚めた途端すぐに忘れていただけなのだろうか。それはあり得ることだし、思い出す必要も無いのかもしれない。

『ただ……、胸につっかえるような、この気持ち悪い感覚は何なんだ? 僕は何か、大切なことを忘れている気がする』


職場に復帰して二週間が経った。処方している薬には副作用で睡眠効果があるため、日中も睡魔に襲われることが多々あった。そして、夜は眠ろうとしても、得体の知れない何かと対峙したくないのか、薬を服用しても僕の両目はなかなか閉じようとしてくれなかった。

安眠できない日がまた続いた。そのせいで常に頭がぼんやりとして、たまに今が夢か現実なのかの区別もつかなくなることもあった。


職場では今までにないミスをするようになっていった。焼き上がったばかりの大量のパンが入ったカートを派手に転倒させてしまい、全て1からやり直さなければならなくなり、余計な仕事を増やしてしまった。そんなことがたった一週間で二度もあった。

他にも、同僚からさり気なく嫌味を言われた際に、普段感じていることがストレートに口をついて出てしまい、あわや殴り合いにまで発展しそうになった。以前の僕なら何を言われても気にしないようにしていたはずなのに、今はほんの少し神経を逆撫でされることを言われただけでも逆上し、頭に血が上った。僕の目が血走っていたらしく、それまで以上に皆が僕を避けるようになっていった。

昼休憩時、また佐々木主任に呼ばれた。

「落ち着くまで、もう少し家で安静にしていろ」

主任は僕になだめ聞かせるように言った。

「千野は有給休暇がまだだいぶ余っているんだから、この機会に消化してしまえ。三日に一度か一週間に一度でいいから、時々、様子を聞かせてくれ」

主任のその言葉に苛立ちを隠せず、僕は扉を勢いよく閉めて部屋を出ていった。ドアが壊れるのではないかというほどの大きな音が社内の廊下に鳴り響いた。


あの後、どうやって家に帰ったのだろう……?

思い出そうとするも、どうしても思い出せなかった。

気が付くと、僕は自分の部屋のベッドに横たわっていた。部屋の中は真っ暗で、既に夜中になっているらしい。最近、夜の闇がやけに怖く感じてしまう僕がいた。

起き上がろうとすると、頭に割れるような激痛が走った。額に手を当てると、ぬるっとした鈍い感触があった。掌を目の前へやると、そこに大量の血がこびりついていた。もう一度、二度、三度と額に手を当て、その度に目で確認する。暗くて分かりにくいが、間違いなく、僕の額から今も血が流れ続けていた。


暗闇の中、壁時計に目をやった。針は午前二時を指していた。

暫くの間、僕はその針を眺めていた。闇の中、僕の身体は動けずにいた。

すると、時計の針は反対回りに勢いよく回り始めた。

逆回転する針と共に、僕の記憶も(さかのぼ)っていくのを感じた。





怒りに身を任せ、知らない男を殴っている。

男は抵抗し、揉み合いになり、落ちていた煉瓦で僕に殴りかかる。

僕の額から大量の血が流れる。と同時に、男は持っていた煉瓦を地面に落とす。

頭を抱えうずくまる僕を見て男は動揺し、その場に立ち尽くしている。

僕は落ちた煉瓦を拾い、ゆらりと立ち上がる。


両手を上げ、許しを乞う男へ向かい、僕は、手にした煉瓦を振り下ろした。








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