第1話「眠れば、君に会える」
■エピソード(第1話)
雨の夜だった。
街は静かで、音だけが遠くに沈んでいる。
主人公・夜守 恒一は、ベッドの中で天井を見つめていた。
「また、何も起きなかった一日だったな」
そう呟く。
特別なことなんて、何もない人生。
ただ眠って、起きて、繰り返すだけの日々。
目を閉じる。
疲れているわけじゃない。
でも、逃げるように眠りに落ちた。
その瞬間だった。
世界が“音を失った”。
雨の音が消える。
部屋の輪郭が溶ける。
気づけば、そこは白い空間だった。
何もないはずの場所。
でも、そこには“誰か”がいた。
少女だった。
白い髪。
静かに揺れる瞳。
そして、裸足。
「……やっと来た」
彼女は、最初から彼を知っているように言った。
夜守は後ずさる。
「ここは……夢か?」
少女は首を振る。
「夢でもあり、現実でもある場所」
「あなたが眠ると、ここが開くの」
夜守は言葉を失う。
少女は少しだけ笑った。
でも、その笑顔はどこか寂しい。
「私はね」
「あなたの眠りでしか存在できない」
その言葉に、胸の奥がざわつく。
「……名前は?」
夜守がようやく絞り出す。
少女は少し困ったように笑う。
「まだないの」
「あなたが何度も眠るたびに、少しずつ変わるから」
空間が揺れ始める。
白い世界に、ひびが入る。
少女は一歩近づく。
そして、届かない距離で止まる。
「お願い」
「次に眠るときも、ここに来て」
世界が崩れ始める。
白が黒に変わる。
少女の声だけが残る。
「私は、あなたの眠りで生きてる」
目が覚める。
天井。
部屋。
雨の音。
いつもの世界。
ただ一つ違う。
枕元に、白い花びらが落ちていた。
夜守 恒一は、それをじっと見つめる。
「……夢じゃないのか」
外では、まだ雨が降っていた。
そして彼はまだ知らない。
自分の“眠り”が、世界を変え始めていることを。




