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エピローグのプロローグ

「……」


 暗闇の中、宗像灯弥は目を覚ます。

 体を動かすと鈍痛が走る。おぼろげに、何かに蹴られた記憶がよみがえる。


「あれは、誰だったっけな」


 記憶の混濁は続いている。全身の痛みは自分が何かに敗北したことを伝えていたが、不思議と気分は悪くなかった。不透明な安心感。ともするとこれは、思い出さないほうがいい記憶なのかもしれない。


 ガタンと唐突に地面が揺れ、灯弥は再び痛みに顔をしかめる。手探りで四方を探ると、冷たくざらついた感触だ。定期的な振動と騒音からも、移動するトラックか何かの中にいるらしい。


「ボスの予防接種、予約しとかないと」


 つぶやきが漏れる。しかし、それが何を表す言葉なのかは理解できない。靄がかかった脳内に拒絶され、灯弥は思考の無駄を悟る。


 どれくらい経っただろうか。騒音が止み、唐突に静寂は破られる。


「おはよう。ここが終点だ」


 暗闇の中から重く、不快な声が響く。四方の壁に反射され、声質も発生源も分からない。けれども荷台が開かれた形跡はない。目を凝らすと、かろうじて人の形をした影が見えた。いつの間に現れたのだろう、影は正面に渦巻いている。


「誰だ?」


 問いを口にはしたが、その正体にはすでに察しがついていた。闇を呑み込む闇。異能犯罪者に末路を与える、冷酷無比の報復機関。


「……フリークハイドか」


 未だ消えない記憶の濃霧。けれども罪を訴える心が予感するのは、自業自得の代行者。吐き捨てる宗像に対し、闇は渦を巻くように蠢動し、屈折した笑い声で場を満たす。


「あれは紛い物だ。我々とは異なる」


 世界そのものへの憎しみが満ちた響き。灯弥は自身の精神から望みが少しずつ削られていく感触を受ける。


「俺を殺しにでも来たのか」


 右手を構える。しかし自分の力が思い出せない。虚空をつかむ灯弥の手は、まといつく闇によって力なく落ちていく。


「敗者の命に価値などない。だが幸運にも、お前にはまだ役割がある」


 その言葉は、命令というよりも救いの言葉として響いた。役割をこなせばこの男と会わずに済む、解放してくれる。そんな淡い希望。


「役割はただ一つ。伝言だ」

「伝言?」

「何もしなくていい。ただ、封筒としての役割を果たしてもらうだけだ」

「何を――」


 直後、影の腕が揺らぎ、暗中に鈍い悲鳴が響く。灯弥が意識を失うのに、時間はいらなかった。


 笑う虚構に、無の爪痕を。何もかもを失い沈黙する灯弥に対し、影は淡々と告げる。


「我々は『The rEND』。ただの『引き裂き魔』だ」


 どこか終末にも似た響きの言葉のみを残し、闇は空間を引き払うように姿を消した。

一章終わり。テーマは常識。探偵嫌いの探偵役が事件に頭を抱えつつ前に進む話です。超能力を主題とするためミステリとしてはかなり緩めですが、その分人物の心情や世界観の構築に力を入れた作品になっています。

なお、基本的には毎日更新しますが、ノンストップだと味気ないので章と章の間は追加で三日時間を空ける予定です。

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