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【14】再会と頼み事

 規定数のボイズンワスプ討伐後もキッカ林道で戦闘を続け、ギルドに成功報告を終えて帰路に着く。

 木漏れ日の火蜥蜴亭に戻る頃には午後七時を過ぎ、空には哀愁を漂わせる夕闇が優しく手を差し伸べ始めていた。


「どうしたんだい。そんなにやつれて」

「実はですね」


 前回と同じテーブル席へと案内され、マリーはギルド依頼を受けてボイズンワスプ狩りを行ったことを話す。

 おすすめだと言われた依頼は鳥肌が立つような相手であり、不平不満をギルド職員に言おうものなら、


『では、次回以降は候補から外させて頂きます』


 とにこやかに対応され、後列が待っているのをいいことにそれ以上何も言わせて貰えなかった。

 まさに不完全燃焼の一言に尽きる。

 マリーはぐだー、っとテーブルの上に力なく突っ伏して、横目で女将を見上げた。


「女将さんもひどいと思いません?」

「嬢ちゃん達も立派な冒険者の仲間入りってわけだな」


 そこへ聞き耳を立てていたのか、後ろのテーブル席に座る冒険者の男が会話の輪に加わる。


「ありゃあ、冒険者ギルドあそこなりの優しさってやつさ」


 襲い掛かる恐怖心から逃げず、いかにして自然体で戦えるのかを意識させて今後の心構えとさせる。

 ボイズンワスプの攻撃は単調であり、適度な状態異常攻撃も行うため、絡め手を経験するには程よい練習相手といえた。

 また、二人以上でのパーティであれば対処もしやすい。

 毒蜂の討伐依頼は不人気クエストなどではなく、ギルドがあらかじめ用意した新人用の練習クエストだという。


「世の中にはあんな虫っけらより気持ち悪いのがうじゃうじゃいるんだ。あれぐらいの蜂で腰が引けるようなら、冒険者なんて辞めておくこったな」


 ガハハと声を荒げて男は酒を飲みなおす。

 背中をこちらに向けると、冒険者仲間との歓談に戻っていった。


「お前もあの頃は頼りなかったな!」

「ウードン、痛てぇって。肩を叩くな、ったく……新人ルーキーにまで絡んで、飲みすぎだぞ」

「……むぅ……」

「あれでもあんた達のことを気にかけてはいるんだよ」


 女将の言う通り、辛辣さもまた優しさということなんだろう。

 頭ではわかっていても納得がいかず、厨房へと戻っていく女将の背中を見つめながら、マリーは下唇を突き出して不満顔を表現する。


「これでも食べて元気だしな」


 少しの間を空けて、眼前へと並べられる料理の数々。今日は焼き料理とサラダの二種のようだ。


「わぁっ、今日もまた美味しそうです」

「お嬢ちゃんの方が反応いいじゃないか。反応のない人に食べてもらっても嬉しくないし、こっちは取り下げちゃおうかね」

「食べます、食べますから!」


 軽い茶番を交わして、女将に活をいれてもらう。

 運ばれてきた料理の断面はじゃがいもとひき肉が重なりあい、表面をチーズでカリッと焦がし焼かれていた。

 香ばしい匂いにぐぅ、と腹の虫が空腹を告げる。

 嫌な想いで胸の中がもやもやとしながらも、訴えかけてくる本能にはどうやら敵わないらしい。


 せっかくの食事時なのだ。

 暗い気持ちで食していたら味まで悪くなってしまう。

 そう思い込むことにして、マリーは「いただきます」と一礼して口へと放り込んだ。

 噛みしめるようにして味わい、二口三口と匙を進める。


「脂っこいかと思ったけどそうでもない?」

「なんだか優しい味です。……ってアロマはまた口周りを汚して、もう」


 ルチアがアロマの口周りに指を滑らせ、汚れを取っていく。

 髪をかき分けた奥にあるその幼い顔が、ぐにーっと指圧によって僅かに歪む。

 その光景を見ていると、やっぱりこの時間は落ち着くなあ、と自然に頬は緩んでいった。


「女将さん。俺とこいつに二人前の――よう、元気だったか」


 背後から新たな声。

 座席の後ろで琥珀がぺちぺちと尻尾を動かし、小さく喉を鳴らしていた。

 入口からこちらに近づく気配を察知して、匙を口に入れたまま、マリーが振り向く。

 緑のパンダナに茶色のベスト、そして日焼けした素肌――、キンタを肩に乗せた雅が琥珀の頭を撫でており、「お前は相変わらずでけぇなあ」とじゃれあっていた。


「あっ、雅さんにキンタちゃん。偶然ですね」

「こんばんは」

「おう、これも何かの縁だ。相席してもいいか?」


 ルチアとアイコンタクトを取り、了承を得たところで招き入れる。


「もちろん。どうぞ」

「あれからどうだ? 楽しんでるか?」


 近況報告に始まり、レベル上げの進展具合、そして毒蜂戦でげっそりしていることを伝えると、「それは何よりだ」と雅はニカッとした笑みを浮かべた。

 皆思うところは大体一緒だったようで、雅も初対面の感想は似たようなものだったらしい。

 最も、前衛はキンタに任せて遠距離から銃を使ってちくちくと削っていただけとのこと。


「後衛組が恨めしい」

「はっはっは。まあ前衛には前衛の、後衛には後衛の良さ悪さがあるものだ」


 その後も食事をしながら雅の話に耳を傾けていると、「ところで」と彼は流れを区切り、新たな話題を切り出した。


「二人はこの後、時間に余裕があるか?」

「何ですか、藪から棒に」

「北門の先にある渓谷エリアに採掘ポイントがあってな」


 どうやら武器新調のために鉄鉱石、欲を言えば鉄のインゴットが欲しいらしい。

 要約すると、採掘を行う際の護衛が欲しいという話だった。


「でも私たち始めたばかりですよ? 戦闘エリアも林道から先は行ったことないですし」

「むしろ足手まとい? になりそうです」

「渓谷は難易度的には林道の次くらいだからそこまで難しくもないんだが……キンタと二人じゃ時間が掛かってな」


 相性が悪いんだ、と雅は口を滑らせる。

 渓谷に出るモンスターは物理的に硬いものが多く、主武装にしている銃では大したダメージが出せず、キンタも火属性であるため効果が薄い。


「無理にとは言わん。何なら多少の報酬も出そう」


 雅は指を二本立て、二人にメリットのある条件を示した。


「どちらも俺のお古だが、マリーは見た所軽装だから銅の胸当てを、ルチアには羽付き帽子を譲る。これでどうだ?」

「お古の防具ですか」

「ああ、両方とも王都の店に売ってある量産品だがな。多少減少した耐久値は大目にみてくれ」


 確かに悪くない条件といえる。

 防具はおいおい変更するつもりだったし、何よりも一度キンタの戦う姿を見てみたかった。

 琥珀と並んで食事をしている様子はただの猫ではあるのだが、出会った当初に雅は言った。


『回避盾みたいなものなんだが』


 知識としてはどういうものかを知っていても、リアルさながらのこの世界で、実際どのように立ち回るのかは見たことがない。

 現状から新たにどのような方向性を取り入れようかと考えている今なら、キンタの戦闘スタイルは何かしらのヒントになりそうな気がした。


「ルチアちゃんはどう?」

「時間は夕飯……あ、向こうのですけど、それまでにログアウト出来れば大丈夫です。マリーさんも同行するならいいと思いますよ。新しい景色も見てみたいです」

「交渉成立ってことでいいか? なら頼りにしてるぜ、お二人さん」

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