【15】金火猫とスキル選択
個人的に以前の15話の出来に納得いかなかったので改稿版となります。
(もっと推敲しろ、という話ではあるのですが……)
本来は次回で入れるはずの内容を割り込ませてみたり、余計な描写を削っています。
誤字脱字の修正と一部の言い回しを除いて、これ以上の変更はありません。
一応、改稿前のものは活動報告に残しておきます。
「そういえば、この時間からフィールドに出るのは初めてだね」
夜の渓谷は月明りに照らされるのみで、その全貌を窺い知ることは出来なかった。
先程から谷を流れる風の音が時々甲高い音を立て、寒さを纏まった大気を運んでいるせいか、少し肌寒い。
「はい。とっても、夜空が綺麗です」
マリーは両手をお椀状に合わせて口元に当て、自身の体温を感じながら遠くの空を見上げた。
青白い月の輝きと、樹枝のように広がる星々の煌めき。
周囲を闇が覆う中、銀砂をちりばめた黒衣の天蓋が、その分際立って映える。
「空を見上げるのもいいが、足元には気を付けろよ」
「分かってますよ。でも、これだけ暗いと不意打ちが怖いですね」
「俺は暗視スキルを持っているからよく見えるが、まあそうだな。今回はダンジョンを利用しようか」
「ダンジョン?」
ルチアが首を傾げる。
「簡単に説明するとだな」
ダンジョンとは、塔や廃墟などの特定の建築物や自然洞窟などで、モンスターとの戦闘が行なわれる閉鎖的な空間のことだ。
最たる特徴としてはフィールドとは違ってモンスターの出現頻度が高く、経験値効率が良い部分が挙げられる。
積極的にレベルを上げたい場合や多くのドロップアイテムを収集したい場合はもちろんのことだが、採取・伐採・採掘などの採集系スキルに補正が掛かるため、採集職にとっても価値の高い場所となる。
「補正が掛かるのは知りませんでした」
「と言っても全ての採集系スキルが使えるわけではない。当然、ダンジョンの性質にも左右される」
その上高頻度でモンスターが出現するのだ。採集に専念出来るわけではない。
ダンジョンの難易度によってはフィールドマップの方が結果的に長期の採集が出来そうではあるので、その辺りはプレイスタイルによるリスクとリターンの兼ね合いになりそうだ。
「ただ夜間に利用するなら悪くはないぞ。これから向かう緑鬼の洞窟はゴブリンの住処という設定なだけあって、壁には松明による灯りがあるしな」
「敵はゴブリンですか?」
「ああ、そこはゴブリンと岩蝙蝠がメインだ。ゴブリンは正直どうってことないんだが、数が多いうえに蝙蝠は硬くてなあ。水属性ならよく効くんだが……」
ちらり、と雅はルチアへと視線を向けた。
「だからルチアには期待してるってわけよ」
「わたしですか?」
「もちろん、マリーと琥珀もな。キンタも後輩二人をしっかりサポートしてやってくれ。少し混戦となるかもしれんから、しっかり守ってやるんだぞ」
「にゃっ」
キンタが回避盾ということは、前衛三の後衛二というパーティ構成になる。
琥珀が体格を活かした純粋な盾で、キンタは小回りが利く回避盾。
――遊撃的な動きをするのが良さそうかな。
二人の役割を再認識して、マリーは自身の立ち位置を考える。
今回は前衛から一歩引いた位置で戦況を見極め、回復支援を掛けていくのが良さそうだ。
「キンタちゃん、頼りにしてるよ」
「よろしくね」
二人の後輩に頼りにされると、キンタはぽんッと誇らしげに胴を叩いて胸を張った。
任せろと言っているようで、それがまた可愛らしかった。
緑鬼の洞窟での戦闘が開始された。
雅は既にピッケルを手に取って後方での採掘作業に取り掛かっているため、彼の支援は得られない。
「琥珀は左前方の兵士の相手をお願い。キンタちゃんは右ね。狩人は私が敵意を稼いでおくから」
敵は前衛を務める緑鬼兵士が 三体。そして弓を携える緑鬼狩人 が単体の四人一組の構成だった。
ルチアとアロマの後衛組には前衛の削る速度に合わせて、少しずつ緑鬼兵士に攻撃を加えるように伝えておく。
「でも、岩蝙蝠の乱入があった場合はそっちを優先してね」
「わかりました。マリーさんも気を付けて」
「ふふーん、任されました。琥珀、キンタちゃん、行くよ! ガードゲイン!」
緑鬼狩人に狙いを定めて敵意を稼ぎつつ、全体防御支援を発動させる。
身体が緑のエフェクトに包まれるのを待って、琥珀とキンタが飛び出した。
琥珀は鋼硬毛衣の特性を活かして、多少のダメージには目を瞑ってごりごりと敵を圧迫する。
体当たりや前肢の振り下ろしといった、体格さを利用したものだ。
「ヒール」
タタンッ、と暗闇から狙撃される弓矢を小楯で弾きつつ、マリーは相棒へと回復呪文を掛けていく。
それに比べて、小柄なキンタの戦い方はこちらから決して仕掛けず、後の先を取る戦い方だった。
「にゃっ」
胸元まで飛び込んで、攻撃を誘う。
緑鬼兵士が前のめりに大きく体勢を崩したところへ、黄色いライトエフェクトとともに炎を纏った掌底をアッパー気味に一撃入れて跳躍する。
衝撃によって敵が大きく仰け反り、がら空きとなった胸部へ、空中から炎の槍を投擲した。
「Guhhhhhh!」
技後硬直の後は既に別の技能を発動しているのか、全身を包むライトエフェクトが淡く白光していた。
重力に逆らわずにふわりと宙を降りるキンタを目掛けて、別個体の緑鬼兵士がその隙を見逃さず棍棒を振り下ろすが、当たらない。
赤毛猫の姿が陽炎のように揺らめき、棍棒の風圧で掻き消えた。
一拍の間を空けて、緑鬼兵士の背後へと出現する。
「被弾がトリガーとなった転移系スキルかな?」
小さく、確かめるようにマリーは囁く。
恐らくあれが金火猫固有の技能なんだろうなと推測した。
小柄な身体を利用したカウンター主体の攻防。それがキンタの戦い方だ。
「ルチアちゃん、アロマと一緒に右側の緑鬼兵士を牽制して!」
「は、はいっ」
緑鬼狩人の狙いが、二体分のダメージを稼ぐキンタへと移ろうとしているのを感じて、マリーは一歩踏み出した。
後方から水の刃とエアロブラストが発射されるのと同時に駆け出し、対象との間合いを詰める。
接近戦を許した狩人が弓を捨て、短刀を構えて応じた。
リーチの差を活かして、先制攻撃とばかりにまずは戦棍を袈裟斬りに振り下ろす。
「Guh Guh」
敵は嘲笑に似た鳴き声を上げて後方に跳んだ。こちらの攻撃動作が終わったのを見て、一転して跳び込んでくる。
「くぅ……っ」
マリー自身が扱える、琥珀にもキンタにもない武器。
それは当たり前ではあるのだが、武器と防具が扱えて、回復支援が出来るという点だ。
最初は≪軽業≫スキルを取って回避を強化しようとも考えていた。
間合いを仕切り直すために、バックジャンプなどの動作がシステムアシストで得られるのは便利だろうなと思ったためだ。
≪筋力強化≫や≪動体視力強化≫といったスキルも確かに順当に効果を発揮するだろう。
短刀と小楯がぶつかり合い、互いの重心を押し付けあう中、
「でも……そうじゃないよね!」
やっぱりそれは違う気がする――と、
マリーは冷静にシールドスマイトを発動させて強引に押し込む。
最初に選んだ七つのスキルを決めた時、思い描いた自身の役割。そこはブレてはいけない気がした。
琥珀とキンタの戦いをじっくりと見て、確信する。
打ち出された小楯が緑鬼狩人の頭にヒットし、大きく吹き飛んだ。軽快なクリティカル音とともにスタン状態に入ったのか、すぐに立ち上がってくる気配はない。
追撃のスマッシュを決めると、横から飛び出して来た琥珀がラストアタックを搔っ攫っていった。
どうやら、相手にしていた兵士を片付けて応援に駆けつけてきたらしい。
「ありがとね」
「グルゥゥゥ」
キンタの方へと目をやると、そちらも二人の援護射撃が決め手となり、決着が付いていたようだ。
「琥珀、私決めたよ」
とりあえずの決着に安堵し、マリーはメニュー画面を操作して、スキル一覧へと指を這わせる。
無理に立ち回りの幅を広げようとして、候補にしていた身体強化、感覚強化系スキルを他所に補助スキル一覧へとページをめくる。
表示したスキルは消費SP10の≪先見の明≫。
常時発動型のこの技能は、敵の攻撃を予測してくれるという補助スキルの一つだ。
敵のモーションから繰り出される攻撃予測を線や点という形で表示し、被弾した際のダメージを5%刻みで先告知する。
魔法を使う相手ならば、それが単体か複数対象なのか、エフェクトから攻撃・支援・弱体効果なのかを知らせてくれる。
どちらかと言うと初見攻略向きのものとなっており、何度も繰り返して挑戦する人達からすれば、見向きもされないような技能といえた。
しかし、マリーが注目したのは攻撃予測を線や点という形で表示するという部分だ。
攻撃の軌道が分かり、どこを狙われているのか分かるという点は、素人考えながら大きなメリットに感じる。
受け流して弾いて捌くという技量はまた別の部分が必要となるが、それだけ対応もしやすくなる。
前衛での生存率の高さと、中衛からの俯瞰した状況分析を補えるこの技能。目指す方向性としては間違っていないはず。
「気を付けろよ。奥、集まってるぞ……俺もあと五分くらいしたら参戦するからなっと」
採掘に伴う甲高い音が岩壁に反響する。
音が鳴ると言うことはそれすなわち、ここにいるぞという意思表示の表れだ。
洞窟の奥から複数の二つ目が怪しく光る。緑鬼だけじゃなく、岩肌を持つ蝙蝠に百足型の生き物までいた。
「第二ラウンドで新しいスキルの使い心地、試してみようかな」
マリーはSP10を支払い、≪先見の明≫を習得した。




