16.
あの後、お母様にどんなことがあったのかを伝え、護衛の騎士について訊いてみれば、やんわぁりと、「夜にはわかりますよ」と言って断られた。
これは何を聞いても応えてくれないな、という結論を早々に出し、私は自室へと戻り、いつものように本を読みふけることにした。
いつものように、雪ちゃんと一緒にベッドにごろんと横になり、課題として渡された本へと目を向ける。
いつの間にかお昼を過ぎ、午後のお茶の時間になって、アンがやってくると「お嬢様」という難しい声で、またやってしまった、と思う。
アンはいつもいつも、ベッドに寝転がって本を読んでいる私がお行儀が悪いと言って、気に入らないみたいだ。
まぁ、でも、ずぅっと、椅子に座って読んでるとつかれるんだもんなぁ・・・・・・。とくに、この本、分厚いし・・・・・・。
「ねぇ、アン」
「なんですか、お嬢様」
ちょっと、口調がとげとげしてる気がするが、気にしない。
「アンも魔法使いなんだよね?」
紅茶の用意をし、今朝、殿下が持ってきてくれたサンドイッチを並べてくれるアンの手元を見ながら聞けば、アンは「えぇ、そうですよ」と返してくれた。
「―――――――でも、魔法を使っているところ、見たことがないよ?」
「人前では使わないように、と幼いころからきつく言われていますので」
「それって、同じ魔使いでもダメなの?」
「うっかり、というものが一番怖いですからね。もし、私たちの存在を一般の者に知られたら、魔使い狩りが行われるかもしれません―――――お嬢様、よく、覚えておいてください。魔使いは確かに強いです。法を学び、理を得た魔法使いはさらに脅威になりえます。ですが、彼らもまた、我々にとっては脅威だということを覚えておいてください」
「―――――どうして・・・・・・?」
「彼らは我々のことを何も知りません。すでに、我々に関することを実際に知っている者らはおらず、我々のことを知っている者たちはガーディナルを残し、王家しかありません。未知の者に遭遇した時の恐怖は計り知れないでしょう。それが、どう我々に牙をむくのか、想像すらできません。とくに、お嬢様はその見た目とそして、稀有な力を持っています。決して、彼らにその存在を知られてはいけません」
分かりましたら、しっかりと勉学に励まれてくださいね。
そういうアンに、私はうなずくしかできなかった。
その日の夕方、珍しくお父様は早くお帰りになられた。
「おかえりなさいませ」
リズやアンやサラと共に出迎える。
この時間はルイもおめめがぱっちりとさえているので、お母様に抱っこをされてお父様のお出迎えに出ていた。
「ただいま帰った。今日はルイも出迎えてくれるのか」
嬉しそうに笑い、お母様の腕の中からルイを抱き上げるお父様。
久々に起きている時間に会うお父様に、ルイも不思議そうな顔をして見上げていたが、最後は高い高いをされて嬉しそうな声をあげていた。
「リズ、朝言った通り、もう少ししたらガーディナルが揃うだろう」
「承知しております。地下のホールに準備は整えております」
「おじい様にも、今日はさすがに庭師としてではなく参加して頂かなければならないのだが」
「一応伝えてはおりますが、昼過ぎから、ジル様のお姿を見ておりませんので・・・・・・」
「逃げたか」
「そのようですね」
「――――――いい加減おばあ様に言いつけるぞ、とでも言って、表に引っ張り出すか」
ルイをだっこしつつそういうお父様に、リズも、そうですね、と軽い口調でうなずいた。
「ねぇ、お父様」
「ん?どうした?」
「おばあ様って、いらっしゃるのですか?」
こてんと首をかしげ訊けば、「あぁ」と、お父様は声をもらし、
「この国にはいないがな、一応、ご健在だ」
「そう、なのですか・・・・・・」
この国にはいないってことは、どこか別の国にいるってことなのかしら。
そう思っていれば、お父様はよしよし、と私の頭をなでた。
「おばあ様は、魔使いの国にいるのだよ」
「――――――――――――魔使いの国、ですか??」
「あぁ、はるか昔、この世界から逃げ出したとき、まだ、どの国にも見つけられていなかったはるか海の向こうにある島に、魔使いは逃げ延びたんだよ。そこで、その島を魔使いの国にすることにして、魔使い以外は決して立ち寄れないように、結界を張り巡らしている。そんな国だよ」
「―――――――――では、おばあ様にお会いするのは、とても難しいのですね・・・・・・」
一度でもいいから、おばあ様にお会いしてみたかったです。としゅんとした声音で言うと、お父様は笑い、お母様もころころと笑った。
「会おうと思えば、会えるよ。遠い国ではあるが、我々にとっては遠い国、ではないからね」
「―――――――――??」
「ただ、おばあ様はあちらの国の結界の要職をになっていらっしゃるから、早々に離れることができないのだよ。本来ならばおじい様も向こうへと残ることになっていたのだが、おまえが特殊な力過ぎてな、おじい様だけこちらに来ることになったのだよ」




