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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第七章:変革の色―ChangeTheWorld―
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73.話の行方



「おい、何だ、そいつ?」


 沈黙を破ったのはサーニャ。


 彼女は扉の前に立つ黒衣の男、セイヴァー01を真っ直ぐに睨んでいる。


 説明しろとその目は訴えていた。


「まずは彼の名前……といいたいところだが、後回しにしよう。彼の持つ剣“伊弉冉”は触れたものの命と存在を消し去る力がある」


「は?」


「命と存在を?」


「触れたものは一瞬にして灰となる。その力を私は一度、目撃したのさ。切欠は秘密裏に日本へ来日したとき、公式に登録されていないホルダーを使って犯罪を重ねているホルダーを取り締まっている存在の真意を探るためだ。おっと、そこの話はあとだよ?彼の話を最後までさせてくれ」


 立ち上がろうとしたピーターをアーサーは制する。


 彼は登録されていないホルダーを国が裏で使っていたという事に憤りを感じていたのだ。


 人を資源と考えている彼からすれば無視できるものではないのだろう。


 だが、問題を立ち上げるのは彼の事について全てを話し終えてからにしてくれと目で訴える。


「さて、私がみたものは彼がその力で鎖を壊しあろうことか武器喰いに致命傷を与えた」


「なんだと!?」



 席から立ち上がるのはサーニャだ。


 その顔は驚きと悔しさに歪んでいる。


 ロシアで一度、武器喰いが好き勝手に暴れたことがあった。遭遇してサーニャは辛辣を舐めさせられたことがあった。


 その時の事を思い出していたのだろう。


「コイツが武器喰いに致命傷!?それほどまでの実力があるっていうのか!」


「武器喰いを倒した直後に彼は満身創痍ながらアロンダイトと決闘を繰り広げ、かろうじて勝利を収めている。それだけで彼の実力は把握できるんじゃないかな?そうだろう?アロンダイト」


「Yes、彼は私と決闘して勝利を収めました。この事実は騎士の誇りに賭けて虚偽なく報告させてもらいます」


 アロンダイトの言葉にサーニャは席へ座る。


 リーやピーターも驚きを隠せていない。


 彼らは武器喰いの実力を知っている。少なくとも一度は交戦したことがあるのだ。


 あれに致命傷を与えたという事実は衝撃的過ぎた。


 加えてアーサーが爆弾を落とす。


「その事実を持ち、彼は三体の女王級を滅ぼしている。鮫の女王、空の女王、金剛の女王、我が英国ですら騎士級を倒すだけに多大な犠牲を払ったというのに彼の力があれば、今までよりも被害が減らせる」


「それは……」


「魅力的ではあります。しかし」


「勿論、実力があっても精神面などに問題があれば困る……そう考えるのは当然の事だろう。しかし、我々は彼を見捨ててはいけない責任がある」


「責任?」


「そう、そこにいる彼は我らの業を背負っている」


「業……まさか、コイツ!?」


 ピーターは目を見開いてセイヴァー01をみる。


 自分達の業と聞いて思い浮かぶものは一つしかない。


 だが、それを素直に認めることはできなかった。だから、ピーターは震える声で尋ねる。


「“生き残り”がいたのか?」


 ここでいう生き残りというのは世界が秘匿していた最大の罪。


 この島に多くのホルダーを集めて行われた調査という名目の実験。多くのホルダー達が国の上層部によって殺し合いがなされた。


 ここにいる全員が気づいたときはすでに遅く、島にいたホルダーに生き残りはいなかったという。


 その事実を覆されたことでピーター達は驚きを隠せない。


「そうなのか?お前は、この島の――」


『ソうダ』


 機械のようなボイスが響く。


『俺ハこノ島で生キ抜き、戦イの技術ヲ学ンだ。そシて、一人、生き残っタ』


「その証拠はあるのか?この島で生き残ったという証拠は!」


 サーニャが叫ぶ。


「何度も調査を行われた。この島の人数、全てを!そして全滅という結果が下されているはずだ。それを――」


『ハッハッハッハッハッハッ!』


「な、なにがおかしい!!」


 笑い出したセイヴァー01にサーニャは戸惑う。


 疑惑の目を向けていたら笑い出したという事態に理解ができないようだ。


 誰もが困惑している中、彼の姿がぶれる。


「なっ!?」


「お、おいおい」


「なんと」


 気づけば、サーニャの前にセイヴァー01が立っていた。


 素顔が見えないマスク越しに強い視線を感じて誰も動けない。


『自分達ヲ欺イテいた国の言葉ヲ真に受ケタノか?』


「それは……」


 セイヴァー01は手をピストルの形へ変えて突き付ける。


「英雄ト言わレていてモすベてを変えられルわけデハナイ。ゆえニ証明もできないだろう?俺がこの島ノ生き残りではナイノか、ソウデハナイノカ」


 指摘されて彼らは沈黙する。


 彼を睨みつけているサーニャも、驚きを隠せていないリーも。大人で冷静さのあるピーターですら言葉を発することがなかった。


「さて、話を続けようか」


 言葉を失っている中でアーサーが口を開く。


「今回、彼をここへ呼び出した理由を明かそう。セイヴァー01、彼と共に使徒と戦っているメンバーを我々とは別の“独自行動権”を与えたいと考えている」


「独自行動だぁ?」


「そう……魔物を討伐し今、我々の行動を邪魔する使徒を殲滅するために各地へ向かう特別ホルダー部隊。それの発足を宣言したいと思っている」


 ちらりとアーサーはセイヴァーの反応を伺う。


 仮面に隠れて見えない彼の素顔はわからないが、全く動きを見せていない。


 不穏な動きをすればすぐにアロンダイトが止めに入るだろう。だが、彼は生きているのか疑うほど、直立で動きがなさすぎた。


「(何を考えているのやら)」


「貴方は」


 思考していたアーサーへリーが尋ねる。


「その独立行動権を与えるという事の意味を理解していますか?」


「当然です」


「独立行動、それは国の思惑に縛られないという事を意味する。目的のためならばパスポートもいらず、好きに行動して、その国の法律すら治外になる。それは――」


「好き勝手にしても何も言われねぇことと同じだ。俺達ですら国に縛られているんだぜ?それを認めちまったら、今までの事が無駄になっちまうんじゃねぇのか?」


 ピーターの質問にアーサーは首を横に振る。


 わかっていない。


 彼らは本当の意味で理解していない。


「無駄にはなりません。むしろ、今までの事が全て布石として役立つのですよ。我々の最大の目的が何か忘れたわけではないでしょう?そう、全ての魔を滅ぼすこと。世界を蝕む病原菌を切除すること。そのためなら手段を択ばなくてもよいと思いませんか?」


「それは」


「……だったら、俺達にその独立行動を与えればいいじゃないか」


 アーサーの言葉に異を唱える金城秋人は鋭い目でセイヴァーを睨んでいる。


 得体のしれない相手。


 日本人でありながらよくわからない相手に独立行動を与えることに納得できないと顔に書かれている。

様々な思惑はあれど、少なくともアーサー以外のメンバーは彼に独立行動を与えることに抵抗をもっているようだ。


「では、キミ達はこの現状で満足しているというのかな?わかっているだろう。あくまで現状は運よく保たれているだけに過ぎない。何かきっかけがあれば崩壊する危ういものだ」


「それをてめぇは崩そうとしているんだぞ?」


「我々が望むのはひと時の平定かね?違うであろう。我々が求めるのは約束された平定だ。完全な平和。他方を滅ぼし、約束された平和を求めること……キミ達はそれすら諦めたのか?」


「……だとしても、こんな得体のしれない奴の力を借りなければならないほど、僕達は落ちぶれているわけじゃない!アンタ!なんで素顔を隠している。それを外せ!」


「日本の英雄に賛同するわけじゃねぇけれども、素顔を隠している理由がわかんねぇな。理由があるなら教えてほしいもんだ」


「俺ニ英雄願望はナイ。ただ、全てノ魔を滅ぼすダケ。素顔ヲ隠しているのは余計な騒ぎに会いタクナイダケダ」


「一つだけ、聞かせて下さい」


 リーは静かに尋ねる。


 その目は全てを見透かそうとするように鋭い。


 直視していない他の英雄達も緊張している様子だった。はじめてみた姫香は呼吸ができなくなったかのような錯覚を味わう。


「貴方は力を振るい、その結果、引き起こされる騒動をどうされますか?やり過ごしますか?破壊しますか?それとも、全て滅ぼしますか?」


「俺は――」


 その問いにゆっくりとセイヴァー01は静かに答えた。
























 同時刻、日本の剣山第一高等学校。


 そこで異変は起きていた。


「なんだ?」


 宮本夜明のクラス。


 普段は騒がしいクラスも授業中となれば大人しいものだ。


 寝ているものもいれば、真面目な姿勢のものまで様々だ。本来は英雄の金城秋人を中心に騒がしいが彼らは会議でこの場にいない。


 静かになっていたクラスの扉が唐突に開く。


 授業中だったことで開いた扉の音はとても響いて、全員が視線を向ける。


「あーら、真面目に授業を聞いているのね。関心関心」


 扉の向こうから姿を見せたのは白衣を纏った妖艶な女性。


 ボディラインを強調するような服からでもわかる豊満な胸部や尻に男達の視線は釘付けになってしまう。


 男たちの視線にさらされることが慣れているのか、気にしていないのか、女性は妖艶な笑みを浮かべたまま、呆然としている教師を押しのけて、教卓の前に立つ。


「はじめまして、早速だけれど、貴方達には人質となってもらいますわ。これに拒否権はありません」


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