72.英雄招集
今年最後の更新かもしれません。
「会議の場所がよりによってここか……」
黒土の奴が居場所を言うことを渋るわけか。
まるで狙ったかのような出来事に企みがあると思ってしまう。
広がっている大量の武器の残骸をみて自然と拳を作ってしまった。
「よ……01さん、どうしました?」
俺の異変に気付いたのか吹雪、02が心配そうに尋ねてくる。
任務中、感情を表に出すことを控えている俺がここまで動揺している事に驚いていることはすぐにわかった。
吹雪へ今の俺の心情を伝えたところで余計なことだろう。
今は感情を殺して任務に集中しよう。
意識を切り替えろ。
そうすることが最善なのだ。
「すまない、忘れてくれ」
「でも、今までに」
「大丈夫だ。行こう。連中が会議場へ向かっている」
「はい」
少し俯く吹雪に申し訳なさを感じながら島を歩く。
ざくざくと手入れが施されていない砂利道。
少し歩くだけで視界に入ってくる墓標ともいえる武器の残骸。
その数は一つじゃない。十、百は存在しているだろう。
あの中の幾つかを俺は手に掛けただろうか。
ちらりと手をみる。
俺は。
「01さん?」
「何でもない、それより護衛対象は?」
「島の中央にある建物へ入りました」
「中央に建物が?」
「はい、どうされました」
「いや、俺達も近くへ行こう。周辺に何があるかわからないからな」
「了解……01さん!」
吹雪の驚いた声に振り返る。
離れた場所に二メートル程の大男が立っていた。
腰、特に装飾の施されていない大剣を二振り下げており、鋭い目は油断なくこちらを見ている。
男は険しい表情から小さな笑みを浮かべた。
好敵手と再会できたという表情だ。
「久しいな。宮本夜明、いや、“白騎士”よ」
「アロンダイト、貴様がなぜ、ここに?」
嘗て日本で派手な決闘を繰り広げた英国の騎士団ナンバー2。
アロンダイト。
お互い満身創痍になるまで戦った相手が現れたことで傍にいる吹雪は緊張している。
「主の命令だ。お前を連れてくるようにと。今はセイヴァーという名前らしいな。ともに来てもらう」
「断れば?」
「無理やりにでも」
腰の剣を取り出す。
「前に折れたものより強固なものだ。貴様の雷切とも互角にやりあえるだろう」
「戦う気満々じゃないですか!」
「ここで争う気はない。お前についていく。それで満足だろ?」
「……仕方あるまい」
不満という態度を露にしてアロンダイトは剣を鞘に納める。
「ついてくるといい。我が主が待っている」
歩き出したアロンダイト
俺の傍に吹雪がやってくる。
「今にでも前の続きが起こるかとひやひやしました」
「流石に、アイツらが眠っている場所で派手に殺し合いをするつもりはないよ」
「眠る?」
「お前には話しておいても良いかもしれないな。ここは俺にとって」
隣を歩く吹雪へ俺は話す。
「二度目の無力感を思い知らされた場所だよ」
島の中央、そこに設置されている建物は英雄招集を行うために設営された場所である。
防弾ガラスから電波を遮断する特殊な素材がコンクリートに混ぜ込まれており盗聴の類を防ぐ役目がある。
入室する際も各国へ配布されているIDカードを使わない限り立ち入ることも許されない。
君塚がIDを使用することで開かれる扉を通る。
「何度見ても思うけれど、凄い警備だよなぁ」
「そうだね」
「……どうした?姫香、緊張しているのか」
「うん、これから世界中のホルダーと会うんでしょう?緊張するよ」
「大丈夫、いろんな奴がいるけれど、お前は俺が守るからさ」
「あー、うん」
金城秋人の言葉に苦笑いを浮かべながら姫香は頷く。
こういう女性へ告白するような態度な好きではない。
一度、はっきりとやめるように伝えているのだが、相も変わらずに続けている。
意図してやっているのか、考えなしなのかわからないが特に好意を抱いていない者からすれば嫌悪を抱く対象となる。
日本のメンバーはこういうものだからと気にしている様子を見せない。慣れてしまっているのだろう。
「(夜明君なら、どう思うんだろう?)」
姫香の脳裏をよぎったのはここにいない黒衣を纏い、色々な敵を倒してきている彼の姿。
芯の強い彼は金城秋人の強さをどう思うだろう。
「もう着く。姫香、緊張するかもしれないけれど、俺に任せてくれ」
「……はい」
小さく頷いて姫香は開かれる扉の向こうを見る。
「遅い」
扉の向こうそこは大きな円卓のテーブルがありいくつかの椅子が用意されていた。
既に何名か着席しており、入ってきた二人を見て文句を言う者がいる。
「開始時間は十分後だ。気にする必要はあるまい」
「うるさい、待たされるのは嫌いなんだ」
既に着席していた中学生くらいのロシア人の少女が文句を言い、三十代くらいの中国人男性が窘める。
「お久しぶりです。李さん、サーニャちゃん」
「久しぶりだね、金城君」
「ちゃん付けするな。鬱陶しい」
ロシアの最強ホルダー、“雷の女王”サーニャ・L・クルクラエ。
中国の格闘技を極めた武の達人、“拳神”リー・シンチー。
アフリカのボブカットをした黒人男性、“族長”ピーター・ディンゴ。
のんびりと席で紅茶を飲んでいる英国の最強と言われるホルダーにして、二体しかいない騎士級の魔物の片割れを率先して倒したといわれるアーサー・アンダーセン。
現在、世界で最強と言われるホルダー達。
その場所に自分がいるという事実に姫香は驚きを隠せない。
「その子が噂の新入りかぁ?映像で見るよりもかわいいな」
「え、あ、水崎姫香っていいます!はじめまして」
「ピュアピュアちゃんだ」
「え?」
「これはこれは、なかなかに純粋な子ですな。かなり貴重だ」
ピーター・ディンゴが興味深いといいながら姫香をみる。
舐めまわすような視線に嫌悪感を覚えながらも彼の視線を真っ直ぐにみた。
「成程、ただ可愛いだけじゃない。ちゃんとした強さを持っているようで安心したよ」
「おぉ“族長”の目に適うなんて早々ないよ?」
「フン、どうでもいい」
「どうやら全員が揃ったみたいだし、会議を始めるとしよう」
司会役を務めているアーサーの言葉で姫香と秋人もそれぞれの席へ座る。
「前よりも参加人数が少ないな」
「わかりきっていることを、連中の被害にあったのだろう。負けるなど弱者でしかない」
「確かに我々は戦いにおいて負けることはない。だが、人間と戦うことにおいて躊躇するという精神的な弱さをつけこまれてしまったのでしょう。ここにいる人間はその面においても強さを持っているとみられます……一部は違いますでしょうが」
リーの細目が秋人へ向けられる。
それに気づいたものはいない。
「まずは今回の議題について、使徒という連中についてわかっていることの情報共有といこうか」
アーサーの言葉に金城秋人が口を開く。
「連中は断罪の光と呼ばれる組織に属している」
「そういえば、おたくの国は宣戦布告を受けたんだっけ?それなのに倒せていないの?」
「連中の力はかなりのものだ。殲滅するのに時間はかかる。でも、俺は連中を許さない。必ず倒す!!」
「威勢は結構、倒せていないからこっちに被害がでているんじゃないか。全く、これだから日本人は」
「国は関係ないだろ!?」
「その国で起こった問題はその国が処理すべきだ。オレの国はそうしてきていた。これからも同じだ。こちらで暴れている使徒はこちらですべて殺した。勿論、吐かせるべき情報をすべて出したうえでな」
サーニャは机の上へ足をのせて話し出す。
「使徒という連中はオレ達ホルダーと同じような専用武器を持っており、ナンバリングという序列が作られている」
「序列?」
「そういえば、連中の名前、数字だったな」
襲い掛かってきた使徒は数字だった。
どこの数字なのか秋人は思い出せないが九や十あたりだったような気がする。
「ロシアを襲った使徒の序列は20とそこそこ上のようだったが、オレの敵ではなかった。それよりも面白い情報を聞いた」
「面白い情報?」
「なんだい、そりゃ?」
「戦闘狂のあなたがそこまでいうなど、よほど面白い話なのでしょうね」
各々が興味深そうにしていた。
かくいう姫香や秋人もサーニャへ視線を向けている。
「使徒の上位ナンバー、ここでいうと一桁台に当たる連中は他の使徒よりも一線を越えているらしい」
「一線?」
「強いってことか?」
「捕まえた使徒はそれ以上の事を知らなかった。ただ、連中の話によると“壁”を越えた連中としか聞いていないらしい」
「壁を越えた?」
「武闘家において、肉体の限界を超えた者に対して、壁を越えたといわれることもありますが果たしてそれと関係があるのかどうか」
「どうでもいい、強い奴なら叩き潰す、どちらにしろ、オレの国へ喧嘩を売ったんだ。叩き潰す以外に連中の道はない」
「過激だなぁ、まぁ、連中はやり過ぎた。潰されても仕方はねぇと思うな」
「強大な敵を前にしている以上、足並みを乱すような輩を許すわけにはいかないでしょう」
「……では、連中を抹殺する方向でいいでしょう」
「待ってくれ!」
立ち上がったのは秋人だ。
「確かに連中のやったことは許せない。だが、命を奪う事までする必要はないんじゃないのか?」
「あ?」
「チッ」
「おやおや」
「ならば、キミは連中をどうすると?」
「捕まえて然るべき処置を」
「オレの国は処刑だな」
「え?」
「残念ながら懲役200年以上は当然だな。もしくは殺すかだな」
「何を」
「お前さんが望んだ然るべき罪とやらを受けさせた結果を伝えたまでだ」
ピーターの言葉に秋人は目を見開くことしかできない。
「お前さんのいう然るべき罰というのは各国で異なる。俺達の国では処刑、もしくは永牢だろうさ。それはお前の国でも同じじゃないか?これだけの事をやらかしている連中だ。慈悲を与えてやる必要はねぇってことさ」
「でも、彼らだって」
「人だからって容赦をすることに何の意味がある?オレ達は魔物を殲滅するために戦っている。それを邪魔する奴も倒す対象になる。それは当然の流れだろう」
「でも」
「いい加減に、貴方は事実と向き合うべきだ」
「事実?何を、俺は人を救いたいだけだ!魔物から、怪物から人を守るために戦っている!!それの何がいけないんだ」
「……未だに、貴方の目は真実からそらしているようですね。何を言っても届かないようだ」
リーはため息をこぼす。
彼に自分の言葉、ましてや自分達が説こうとしている言葉は届かないのだ。
この狂った世界だからこそわかる。
いかに正論を述べていたとしても根本が歪んでいれば届かない。
それを英雄達はわかっている。だが、彼らの言葉は秋人へ伝わらない。それほどまでに彼の芯は捻じれているのだ。
「さて、もう一つの議題に入ろうか」
アーサーに全員の視線が集まる。
その目は驚きと興味に溢れていた。
「え?」
「もう一つの議題だぁ?」
「英国さんが議題をだすなんて珍しいねぇ。大体は司会者進行だけしかしないのに」
「それで?普段は傍観者しているてめぇがいいだすんだ。とても凄いものなのだろう?」
サーニャの獣じみた目で睨まれながらもアーサーは不敵な笑みを崩さない。
「当然だ。この私が出す議題は一つ。我々にとって悔しいが認めなければならない事案がある」
「は?」
「認めなければならない」
「その意味がわかりませんなぁ」
「世界で只一人、最強と言われている女王級の魔王を三体倒したホルダーが存在している」
「あ?それはそこにいる奴じゃ」
「いいや」
アーサーが笑顔を浮かべる。
「公式の情報では金城秋人が倒したことになっているが真実は違う。さて、そろそろくるかな」
ギィ!と音が響いて会議室の扉が開く。
「やぁ、待っていたよ。アロンダイト」
アーサーの言葉にその場で跪いたのは彼の従者でありナンバー2のアロンダイト。
彼らの視線はアロンダイトの後ろに立っている人物へ向けられている。
「ぇ?」
姫香はその姿に小さな声を漏らす。
それは金城秋人も同様で席を立っている。
同席している君塚は口をあんぐりと開けていた。
扉の前にいたのは特殊繊維で作られた戦闘服に身を包み、素顔をヘルメットのようなもので隠している男。
「彼こそが世界で只一人、全ての魔を滅ぼす力を持っている男だ」
アーサーの言葉が会議室内に響き渡った。




