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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第五章:崩壊する境界線―TheBlackChivalry―
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49.英雄達との交差

「メディアはともかく、ネット内の噂はえげつないなぁ。俺らの事ばかすかと書かれているぜ?」


 タブレットを操作して来栖が楽しげに話す。


 ちらりと内容を覗きこめば、新たな英雄誕生、黒一色でダークヒーローみたいと喜ぶものもあれば、素顔が見れないから不気味やら犯罪者とかじゃないの?という批判的なものまで無数に存在している。


 中には眉唾的な書き込みも存在していた。


 ネットの中ならこんなものだろう。


 どれも真実味にかけるものばかりだった。


 俺は吹雪が入れたコーヒーを一口、飲む。


「吹雪、砂糖、どのくらい入れた?」


「沢山です。足りませんでしたか?」


「充分だ。俺を病気にさせるつもりか」


「そうなったら吹雪が看病します」


 確信犯染みた発言をする吹雪に何とも言えない顔をしていることだろう。

砂糖(およそ、十個以上)が含まれているコーヒーをごくごくと飲む。苦味が全く感じられない。それどころかとても甘い。


 苦い方も甘い方も飲める俺としては大丈夫だが、流石に砂糖が多すぎる。


 吹雪の発言はいつも通りなのでスルーだ。


「なぁ、夜明、お前の事とか滅茶苦茶書かれているぜ?」


 タブレットを押し付けてくる来栖から受け取って内容を見る。


…やはりか。


「雷を纏った刀を振るう白い死神ね」


「お兄さんはどこにいってもこのフレーズは抜けないんだねぇ~」


 ノノアと吹雪が後ろからタブレットを覗きこむ。


 何故か二人が俺へ全体重を乗せてくるから少し体が斜めになった。


「ボクの事は何か書かれていないかな?……ぁ、書いてある…何々、蒼き閃光?うーん、もう少し可愛い呼び名が欲しかったかなぁ」


「どうして、吹雪は修羅なんて恐れられているのでしょう?わけがわかりません」


「二人は良いぜ、俺なんかなんも書かれてないし…存在、薄いのかねぇ」


 薄いというより俺達のインパクトが強すぎるのだろう。


 来栖は特筆すべき点がない。


 雷切、黒月、ノノアのレイピア。


 中近距離対応型、一撃必殺、ハイスピード。どれもが特徴的だ。対して来栖の武器や技術はそれらに及ばない。


 もちろん、弱いというわけではない。他の掃除屋と比べるとその実力は凄まじいものだ。


 あの中のメンバーと比べることが間違いなだけ。


 そのことを来栖はわかっているのだろう。卑下するような発言をしているが後ろめたさや悔しさというものはみられない。


「しかし、黒の騎士団ねぇ?大層な名前がつけられてんなぁ」


「問題ないと思います。夜明さんはアロンダイトから騎士の名前をもらっていますし」


「「はぁ!?」」


 吹雪の爆弾投下にあぁ、面倒なことになると思った。


「アロンダイトって、あのアロンダイトだよなぁ!?」


「円卓の騎士達と既に接触しているって話、本当だったんだぁ、誰かが流したデマだと思っていたよ!」


「そろそろ静かにしろ…寝ているキリノが」


「うん…うみゅ」


 さっきより騒がしくなる二人。


 止めようとしたが遅かった。


 腹で丸くなっていたキリノが目を覚ます。


「それにしてもキリノちゃんを登録させなくてよかったの?」


 俺達が表舞台で活動するためという理由から大和機関に表のホルダーとして正式に登録されている。


 といっても個人情報は全て真っ黒にされていた。


 その中でキリノの登録を俺は拒否していた。


「登録させたら、戦いに巻き込まれることになる…コイツはまだ幼い。自分の意思で決められるようになるまで時間を置きたい」


「流石、夜明さんです」


「まるで父親だな」


「キリノのパパだもん」


 目を覚ましたキリノがそういうと嬉しそうに首元へ抱き付いてきた。


 小さな頭を撫でながら笑みを浮かべる。


 隣で吹雪がむくれていた。


「夜明さん、その娘に甘いですー。彼女も大事にしないと酷いことになりますよぉ」


「わかった、わかった…まったく」


「ダメ!」


 キリノが小さな手を伸ばして俺の手を掴む。


 吹雪へ伸びていた手が無理やりキリノの頭にのせられた。


 そのことで恐ろしいほど冷たい目をした吹雪が睨んでくる。


 言い訳をさせてもらえるなら俺が悪いわけじゃない。


 キリノが甘えん坊なのだ。


「吹雪はまた今度な」


「うー、彼女がお預けを食らうなんて理不尽です」


「よーしよし、ボクが励ましてあげるよ」


「すまないな」


「いーよ~。ボクは吹雪ちゃんといちゃいちゃしているから」


「くそー、なんで俺に出会いはないんだ」


「求めていないからだろ」


「そうだよな」


 俺の言葉に来栖は納得する。


 本人が出会いを求めていなければどうしょうもないことだ。


 とにかく。


 使徒と戦うために表へ出てきた俺達だが、生活において大きな変化はなかった。


 そう、生活においてはだ。


「…お、訓練の時間じゃないか?」


「そうだな」


 俺達は立ち上がる。


 談笑の時間は終わりだ。


「キリノは此処で待っていてくれ」


「うん」


 キリノをリフレッシュルームで待たせて、俺達は支給された黒いゴーグルやバイザーを装着する。


 表へ出たことで面倒な事に訓練の時間というものが設けられた。


 拒否することは許されなかった。


 そのため、俺達は大和機関の有するシミュレーション訓練室へ入る。


 目の前に現れるのは映像の魔物。


 現場と比べて怖さも何も感じない。


「さっさと終わらせよう」


 俺の言葉に全員が頷く。


 シミュレーションの魔物は兵士級のみ。


 その数は50体程度。


「誰が一番倒すか賭けしようぜ。勝った奴が最も少ない奴にジュースをおごる。


「いいね!乗った」


「雪も行きます」


「わかった」


 四方に散って兵士級を狩る。


 シミュレーションということだけあって動きはどこか機械的なものだ。


 これならすぐに狩ることが出来る。


 足に力を込めて強く蹴る。


 数分後。


「吹雪、負けました」


 がくんと項垂れた吹雪。


 珍しく敗者となっていた。


 理由は撃破判定が細かいという点。


 シミュレーションは兵士級の弱点を的確に突くこと。


 そうしなければ倒したことにならない。


 細かい動作を必要とするこのシステムに対して吹雪の黒月は相性が悪い。


 悪すぎた。


 吹雪の攻撃スタイルは一撃必殺。


 相手を無力化、もしくは殺傷させることにある。


 超重量の武器を使っているため、命中率はかなり悪い。


 そんな彼女の戦闘スタイルと機械の判定システムの相性もダメダメだった。


 故に、彼女は何度もシミュレーションの魔物と戦う羽目になってしまった。


「機械は嫌いです。壊してやりましょう」


「やめろ」


 黒月を構えて本気の吹雪の頭へ手刀をいれる。


「うぅ、夜明さーん」


「よしよし、気持ちはわかるから…」


「何だろう、勝利したけれど、あまりいい気分じゃねぇの」


「仕方ないよ~、この空気だもん」


 ちなみに勝者は来栖だ。


 傍でノノアが慰めているがまぁ、仕方ないだろう。


「そろそろ戻ろう」


 撫でていた手をとめて離脱を促す。


 時間からしてそろそろ連中がやってくる時間だ。


 変なところで鉢合わせることがないよう離れることを促そうとした。


 しかし、手遅れだった。


「やぁ」


 シミュレーションの扉が開いて何人かがやってくる。


 その中の一人を見てゴーグルの中で瞳を鋭くさせる。やってきた全員が表の英雄だった。


 面倒なことになる。


 その予感が俺の中にあった。



「直接、話をするのは初めてだね。僕は金城秋人だ」


「……」


 差し出された手を代表として来栖が握り返す。


「名前を聞いても?」


「残念ながら」


 傍で控えていた吹雪が首を横に振る。


「上からの命令で名前を教えることはできません。名乗るにしても識別名『コードネーム』しか明かせません」


「…えっと、じゃあ、それで」


「……セイヴァー02です」


「俺はせイヴァー03」


「セイヴァー04だよー」


 そこで仲間が俺を見る。


 どうやら俺も名乗らないといけないようだ。


「……セイヴァー01だ」


 全員のコードネームを伝えたことで相手も名乗り始める。


 ちなみに情報で把握しているから割愛しておきたかったが、この場にいたのは三人。


 金城秋人、


 剣立次郎、


 水崎姫香。


「………」


 そう、水崎姫香がこの場にいる。


 不用意な発言を控えておきたかった。しかし、全員から名乗る必要があったことから声を発した。


 可能な限り、彼女の前で喋ることを控えないとセイヴァー01、黒たる宮本夜明だと正体がばれる危険がある。


「さて、俺らは訓練が終わったからこれにて」


「まぁ、待てよ」


 俺の目を見て離れることを理解した来栖が立ち去ると伝える。


 しかし、道を阻むように剣立次郎が立つ。


「折角、出会ったんだ。少しくらい、話をしても罰はあたらんだろ?何より、新入りなんだ。先輩の顔位、立ててくれよ」


 威圧してくる剣立だが、来栖は戸惑った表情で演技する。


「申し訳ありませんが、これから任務があり02達は向かわないといけません」


「あら、その予定は訊いていないけれど?」


 訓練室へ入ってきたのは表の管理官、君塚。


「ようやく、貴方達と話をすることが出来るわ。はじめまして、管理官の君塚よ。よろしくね」


 どうやら彼らとの遭遇は意図的なものだったようだ。


 君塚が時間を調べたのか、黒土が流したのか。


 どちらにしろ、面倒で仕方なかった。

 


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