50.決闘ー次郎VS来栖ー
「どうして、こうなった?」
外、観戦場所で俺は静かに漏らす。
訓練で汗を吸い込んだ服やゴーグルが少し重たく感じる。
今すぐにでもこのゴーグルを脱ぎ捨ててラフな格好へ戻りたい。
しかし、目の前の状況からしてまだまだ長引くだろう。
「いやぁ、面白いね。これが外に報道できないのが本当に残念だ」
「お前を殺せなくて本当に残念だよ」
隣で楽しそうに観戦している黒土という名前の諸悪の根源を始末してやりたい。
事の始まりは数分前、君塚を含めた表の英雄達と共に話をしていた所へ黒土が乱入。
君塚と黒土が言い争いを始める。
何故か、一対一の非公式の模擬戦が行われることとなった。
組み合わせはランダム…なのだが、どこか意図的なものを感じる。
「一回目が03と剣立…二回目が02と金城………最後が」
「おや、はじまったようだよ」
顔を上げると来栖と剣立の模擬戦がスタートした。
「(あぁ、面倒だなぁ)」
バイザーで素顔を隠している来栖は面倒だと思いながら手斧を構える。
目の前にいるのは英雄の一人剣立次郎。
ワイルドな顔立ちと服から覗いている腕は鍛えているのだろう無駄な肉がない。
使用する武器はバスタードソード、名はデュラハン。
装飾剣といいたくなるほど、大剣に金や銀の装飾が無数に施されている。
しかし、繰り出される一撃は防御不可能。幾多モノ魔物が一撃で命を落としている。
撃墜王、それが剣立の英雄としての二つ名。
来栖は手斧を構えながらどうするかと考えていた。
一撃必殺を得意とする相手に戦う場合、不意打ちが常套手段になりえる。
真っ向から戦えば負けるのは自分。
やりあっても勝てるわけがない。その場合、汚い手を使ってでも相手を倒す。
しかし。
「(相手が英雄だし、実力知られたくないから…適度なところで負けようっと)」
顔に出さないように注意して開始のブザーを待つ。
剣立は静かにバスタードソードを構えたまま動かない。
数分して開始ブザーが鳴り響いた。
ダン!と大きな音と共に剣立が前へ踏み込む。
その速度は常人と比べるとかなりのものだ。
だが、同じホルダーとして人を始末してきた来栖にとってはとらえきれないものではない。
「ぐはっ!?」
但し、捉えられると反応することは全くの別物だ。
衝撃と共に来栖の体は天井に打ち付けられる。
一瞬で意識がもっていかれそうになった。
重力にひかれて地面へ落ちていく。
地表が見えてきたところで反転して着地。
「仕返しだ!」
剣立へ距離を詰めて手斧を振り下ろす。
振るわれた一撃をバスタードソードの側面で受け流される。
体勢を立て直そうとしたところで腹部へ一撃を受けた。
その一撃に、どうしょうもないくらい腹立たしさを覚えた。
「(舐められている)」
掃除屋だったならば今の一撃で自分はお陀仏だった。
勿論、これは模擬戦で命のやり取りをするものではない。加えて、剣立はまだ学生で人を殺しこともない“綺麗”な人間。
自分達とは違うという事は嫌でもわかっている。
戦ってみてそれは痛いほど理解できた。
だからこそ、目の前の相手に“手加減”されていることと勝ちを見逃すような事にどうしようもない腹立たしさを覚える。
「あぁ、予定変更だ」
来栖は小さく息を吐いて前の相手をみる。
手加減されていることは仕方ないとはいえ、ここまでアマちゃんに負けるとなると少し嫌な気分になってしまう。
なので。
「(少し本気を出そうと思いまーす)」
地面を蹴り、間合いを詰める。
大ぶりな攻撃が目立つバスタードソードでは小さい裁きに対応できない。
来栖は距離を詰めることで大打撃を防ぐ。
振るわれるバスタードソードを躱しながら手斧を振るう。
小さな攻撃ばかりだが蓄積されていくとやがて大きなダメージに繋がっていく。
「く、そらぁああああ!」
確実さを狙ったバスタードソードの攻撃が来栖へ迫る。
直撃するという瞬間、ブン!と標的の姿が消えた。
「なに!?」
剣立が驚きの声を漏らした時、背後から感じる息遣い。
衝撃と共に剣立は大きな音を立てて倒れる。
勝者が決まったブザーが鳴り出す。
「負けたぁ…」
「勝ったぁ」
崩れ落ちる剣立とガッツポーズをとる来栖。
しばらくして、二人は中央へ向かう。
「やるなぁ、俺の負けだよ」
「いやいや、あと一歩遅かったらそっちが勝っていた」
「さっきも名乗ったけれど、剣立次郎だ。これからよろしく」
「名前は名乗れないけれど、これからよろしく。03と呼んでくれ」
「おじさん、何をしたの?」
観客席へ戻った来栖を待っていたのは仲間達からの詰問だった。
質問ではない、詰問である。
「いや、何が?」
ノノアの勢いに少し下がりながら尋ねる。
「バスタードソードの攻撃が当たる瞬間、貴方の姿が消えたことに吹雪達は疑問を持っているのです」
代弁するように吹雪が会話へ参加する。
離れた所で興味なさげに夜明がコーヒーを飲んでいた。
あの様子からして来栖の能力について、自分の中で答えを出しているようだ。
「俺の能力だよ」
忘れがちだがホルダーは武器を持つことで能力を発揮する。
吹雪の身体能力強化など、多種多様な力がある。
「一時的…ほんの短い時間だが、俺は相手の視界から一時的に姿を消すことが出来る」
「一時的に?」
「へぇ、なんでその能力、今までに使わなかったの?」
「簡単…これ使うと、疲労度がとてつもなく…でかいからぁ」
ぐらっとバランスを崩して倒れた。
突然の事に誰も間に合わなかった。
「…成程、あれが03君の能力かぁ。はじめてみたよ。名前は聞いていたけれど」
「名前?」
夜明が訊ねる。
「あぁ、一瞬だけ、視界から消えることから真昼に浮かぶ月…残月であることから、“瞬きの残月”それが彼の名前だ」
名前を聞いて夜明は気づかれないように笑う。
自分達だけ名前があることに不満げだったようだがちゃんとしたものがあるじゃないかと彼は思った。
倒れている来栖の姿をみながら夜明は外を見る。
次の対戦相手が既にやってきていた。
「面倒な奴がきた」
訓練場にいたのは一人の男。
金城秋人。
英雄の中で最強と謳われる奴が次の相手だった。




