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壊れている救世主は少女達を救う  作者: 剣流星
第三章:もう一人の黒―BlackBlade―
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23.永遠の監獄

――イレギュラーホルダー。


 ホルダーでありながら犯罪などの悪事に手を染めた者達をさす。


 ホルダーとは魔物から人々を守る存在でありその力を悪事に染めてはならない。


 しかし、人というものは力におぼれやすい。強大な力を手にした途端、今までの人格が変貌する。そういうイレギュラーホルダー達を秘密裏に回収、処理することを目的としているのが掃除屋。


 影として活動する武器所持者だ。


 掃除屋によって確保したイレギュラーホルダー達は法律で裁かれることはない。


 表沙汰になれば今のホルダーのイメージダウンへ繋がるばかりか保ってきた安定に綻びが生じる。


 そうならないために確保、捕縛されたイレギュラーホルダー達はある場所へ連れていかれる。


 日本から少し離れた国境すれすれの場所。


 そこに島があった。


 絶海の孤島。


 船もこない。


 飛行機も通らない。


 誰にも見つかることがない最悪の場所。


 イレギュラーホルダー達はそこにいる。


 場所の名前を永遠の監獄〈エターナルプリズン〉という。


 一度、入ったら誰も出られない。脱獄者0という記憶をたたき出している場所だ。


 そこに俺はいる。


 空港から小型輸送機で島へ降り立つ。


 巡回している警備員に身分証明を提示する。


 武器を携帯している警備員は離れていく。


 真っ白な建物の中へ入る。


 監視カメラ、隠しカメラ、特殊素材の壁など。設備をあげればきりがないほど金がつぎ込まれた場所。


 そこに俺はきていた。


 掃除屋がここへくることは基本的にない。


 権限がないし、腐敗へ繋がる恐れがあることから影の入島は許可されない。


 この例外を除いて。


『やぁ、待っていたよ』


 薄暗い部屋。


 特殊ガラスで仕切られた“向こう側”に奴はいた。


 全身を拘束具で椅子に繋がれており、素顔は長い髪に隠れて見えない。


 俺が入ってきたとき、顔を上げた。


 赤と青の瞳と目が合う。


 しかし、特殊ガラスによってあちら側から俺の姿は見えない。


 だというのに相手は俺が来たことが分かっていたような顔。


『酷いなぁ、久しぶりの再会なのに言葉を発してくれないのかい?』


 沈黙を保っていると親しそうに話し始めた。


 変わっていない。


「こんなところに俺を呼び出して何の用だ?」


『やっと話してくれたね?嬉しいよ』


「早く用件を言え。忙しい」


『キミは変わろうとしている…いや、変わってしまったが正しいかな。只殺すだけ、機械のようになっていたキミが人間となりつつある……あぁ、最高傑作じゃなくなりつつあるのが本当に悲しい』


「どうやら」


 扉へ向かう。


 こいつと話していると頭が痛い。


「特に用事もなく呼び出されたようだ。これで失礼する」


『ホムンクルスは全て殲滅されたよ』


 ぴたりと立ち止まる。


 ガラス越しに奴の姿を見る。


 視られたことを感じているのかニコニコと笑みを浮かべている。


「視ていたのか」


『当たり前じゃないか。キミの事は片時も忘れたことがないんだから』


 ストーカーかよ。


 そういいたい衝動を堪える。


 奴の流れに乗るのだけは避けたかった。


『しかし、あの錬金術師も愚かだね。ホルダーに嫉妬して対魔物兵器を作ろうとして失敗。挙句の果て作ったモノに殺されるなんて愚の骨頂だ』


「同属嫌悪か?」


『そうだね。ボクは生きているけれど、あっちは死んだ。結果でいうと違うけれど似た様なものだ。そう思うだろう?現、黒クン』


「興味ない」


『冷たいなぁ…教え子にこんな態度をとられるなんて悲しいよ』


「そろそろ本題に入ったらどうだ?ノワール」


 拘束されている女性、ノワールが目を細める。


 柔和な笑顔とフレンドリーな態度から親しみをもてるかもしれないが油断してはいけない。


 この女は言葉巧みに人を操ることを得意としているばかりか一年で五十人を超える人間を殺害している。


 ノワールは俺の事を気に入っている…いや、執着しているという方が正しいのかもしれない。


『やはり、キミは素晴らしいねぇ』


「俺は忙しい。話をしろ」


『つれない、本当につれないなぁ…まぁいいか、ボクも無駄な事で時間を潰したくない』


 首を動かしながらノワールは「殺人鬼」という単語を言う。


『最近、本島の方で発生している連続殺人事件…いや、連続バラバラ事件、知っているかな?』


「あぁ」


 掃除屋の仕事ではないがいつ依頼へ変わるかわからないのでチェックしていた。


 被害者は男女問わず十五人。


 年齢、職業、住んでいる地域など共通点はない。


 警察が総力を挙げて捜索しているが犯人の手がかりは一切なし。マスコミは殺人鬼として騒ぎ、事件発生が夜であることからナイトグールという名前がつけられていた。


「その殺人鬼がなんだ?」


『悲しいことにボクの元教え子の子供なんだよね』


「…それで」


『処理をしてほしいんだ。あんな出来損ないの出来損ないが生きていると思うと嫌になる』


「人をモノ扱い…変わらないな」


『キミは変わった。機械じゃない…あぁ、悲しいな。キミを変えた存在が非常に…』


 マイクが拾えないほど低い声でぶつぶつと口を動かしている。


 冷めた目でノワールをみているのだろう。


 俺は奴へ告げた。


「話はそれだけだな?じゃあな」


 返答は待たない。


 残っていたら奴と永遠に話し続けることになる。


『あぁ、キミを変えた存在が憎い。殺してその体を八つ裂きにしてやりたいよ』


 こっちが狂いそうだ。











「やぁ、ご苦労様」


 外へ出ると黒土が待っていた。


 この島に入る許可がおりたのはこいつのおかげだった。


 管理官であるこいつの権限によって入れた。


「あれが噂に名高い最恐のノワールか…話だと任務外を含めて二百人は殺害したんだろう?」


「二百十人だ」


「…おぉう」


 訂正を入れると黒土が目を見開く。


「そんな奴の師事を受けたらキミも優秀になるよねぇ」


「アイツは関係ない。」


 昔、ほんの数年前になるが俺はノワールの弟子だった。


 正確に言えば影の資格を得るべく指導をする、される関係だっただけに過ぎない。


「その割にはやけに執着されているね。こんなところに閉じ込められていてもキミを呼び出すほどだ。しかも看守と話すらしないのにキミがくると饒舌になるなんて、何かあったんじゃないのぉ?」


「知るか」


 勘ぐるような黒土の問いに舌打ちをした。


 奴と初めて会ってから現在、俺は気に入られている。


 今も理由はわからない。


 話によれば求めている形だとか、はじめて欲しいと思ったものだとか…理解不能だ。


 そんな相手からの頼み。


「どうするつもりだい?」


「組織からの依頼じゃない以上、俺が受ける必要はない」


「つれない態度だね?殺人鬼をとめようとは考えないの?」


「警察が捕まえる…何より独断で動く気はさらさらない」


「ま、キミが決めたなら僕はとかやくいわないさ。でも、彼女が何かするんじゃないの?」


「絶海の孤島からか」


「まぁ、警戒に越したことはないかなぁって、何せ“先代”の黒にして史上最悪の事件を引き起こした人物だからね」


「そうしておく方がいい」


 そういって外へ出る。


 本当なら俺が動かないといけないのだろう。現在の黒にして奴を捕縛した責任といわれたら。


 でも、ノワールと関わりたくないという気持ちも強い。


 関わったら最後、戻れなくなるような気がしたのだ。


 今の生活から。


 大切な人といる毎日が壊れる。


 ノワールの言葉にはそんな“破壊”の力が含まれているような気がした。


 あながちその考えが間違いではないこと。


 夜の殺人鬼、ナイトグールと接触しなければならなくなることを。


 この時の俺は想像すらしていなかった。
















 人通りが少ない路地裏。


 ある犯罪組織による違法取引が行われていた。


 少し前、夜明や吹雪が追いかけていた麻薬キャンディーの売買。裏切り者の珠洲沼たちによって“なかったこと”にされておりやりたい放題が続いている。


 そんな取引現場は大量の死体で溢れていた。


「教わったんだ…」


 こつこつと死体の中を小さな少女が歩いている。


 年の頃は十歳から十二歳。


 血で汚れているが髪は月の光の中で夜闇色の輝きを放っている。


 ボロボロの衣服、その手の中にあるのは血で汚れたナイフ。


 かなりの人を葬ったであろう凶器はべっとりと血に染まっているが歯毀れ一つない。


 死体まみれの路地裏の中を歩くその姿はどこか不気味だった。


「たくさん、人を殺しなさいって…たくさん、たくさん殺して、証明しないといけないんだって私は優秀だって……たくさん、たくさん、たくさん、そうしたら迎えがくるんだって」


 転がっている死体を眺めながら少女は言う。


「でも、誰も来ない」


 ぽつりと呟くその顔はどこか寂し気だった。


「一人、二人、三人、四人、五人、六人…殺しても、殺しても、誰も来てくれない。誰も迎えにこない」


 前髪だけを無理やり切って揃えた様な髪型。


 死体のことは眼中にないのかぶつぶつと呟いていた。


「叶えないといけない」


「優秀だから」


「迎えがくるまで頑張らないと」


「まだ足りないってことだ」


 呟きながら死体の山から離れていく。


 死体があった場所から完全に少女の姿がなくなった。


 後日、大量の遺体がみつかり警察により夜間外出禁止が伝えられることになる。




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