第三十七章
掴まれた自分の手を見て、少女希衣は内心で歓喜の声をあげる。
ようやく、自分の願いがかなうのだ――伊武希衣に、この醜い体を捨てさせて、自分の作った、「本当の伊武希衣」に彼女を閉じ込めて、本物にするのだ。永遠に。牢獄のように。
別に、伊武を傷つけたいわけじゃない。永遠の少女が完成するのは本当のことだし、アブエルから解放させてやることもできる。どちらも得をするのだから、悪いことではない。
少女希衣は、跪いて手を取る伊武に微笑みかける。主人と従者のようだった。
「私の願いをかなえてくれて、ありがとう。じゃあ、早速、体を移して――」
少女希衣は伊武の手を引こうとするが、伊武は動かなかった。
「――希衣? どうしたの?」
伊武は、少女希衣の指を取ると、何かをはめようとしていた。
「……希衣? 何をしているの?」
少女希衣がたずねると、伊武は泣いていた。
「指輪……入らないね……」
伊武は自分がつけていた指輪を、少女希衣の指にはめようとしていた。
伊武の大きな指に合うサイズなのだから、当然、少女希衣には大きすぎる。
「指輪……? サイズぐらい、私が直して……」
少女希衣の言葉に、伊武は首を横に振った。
「これ……私のために……椿君が……選んで……くれた……指輪だから……私の指が大きいって……椿君……知ってるから……」
これは以前、直巳が伊武にプレゼントした指輪だった。学校の裏で、お弁当のお礼だと言って、プレゼントしてくれた指輪。大きくて、伊武にしか付けられない指輪。直巳が初めてくれた指輪。
伊武は泣きながら、指輪を自分の指に戻した。
「ほら……ぴったり……ね?」
その瞬間、伊武にまとわりく人形達が消えた。
「アブエルがいたから……椿君に会えた……役に立てる……つばめさんも……助けられる……アイシャも……悪魔達も……一緒に……戦える……頼ってくれる……この……強くて大きな……天使付きの……私だから……」
少女希衣は、伊武に何があったのかわからない。
伊武はフリアエを抜き、振りかぶった。
復讐の刃が少女希衣に――Hgに――その両方に向けられた。
少女希衣が両手を広げて笑みを浮かべる。
「私は――希衣の姿で、希衣に殺されるのね」
「少女の私は……Hg……あなたにあげる」
伊武はフリアエを大きく振りかぶった。
「――さようなら」
フリアエが振り下ろされる。
「さようなら、希衣」
少女希衣の体にフリアエが食い込み、引き裂いていく。
人とは違う感触――人形の感触。
少女希衣が地面に倒れる。
伊武は下腹部、コアのある部分にフリアエを突き立てた。
Hgは死んだ。今度こそ、間違いなく。
そして、少女の自分への憧れも、ゆがんだ未来への選択肢も――死んだ。
「うわあああああああああ!!!!!」
伊武の絶叫が工房に木霊した。




