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プロポーズが「お嬢さん、俺の嫁にならないか?」ってどうなの!?  作者: SAKURA MOON


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冬季訓練のご褒美は?(前編)


三日後――。


ヴァルグレン邸の敷地内には、大勢の騎士たちが集まっていた。


普段は訓練に使用されている広場の一角。


そこには、数日前から職人たちが急ピッチで造り上げていた、巨大な何かがあった。


ただし、その全貌はまだ分からない。


周囲をぐるりと囲む高い木製の壁。


そして入口には大きな幕が張られ、中の様子は完全に隠されている。


「すごい人数ですね……」


アルは思わず呟いた。


見渡す限り、騎士、騎士、騎士。


もちろん全員ではないのだろうが、それでも相当な人数だ。


中には、久しぶりに顔を合わせたのか、楽しそうに言葉を交わしている者たちもいる。


「毎年こんな感じだよ」


隣に立つレンが笑った。


「みんな、これが楽しみなんだよね」


「一体、何ができたのでしょう?」


「それは見てのお楽しみ」


ユウトがにやりと笑う。


「アルさん、絶対驚くぜ」


「そんなにすごいものなのですか?」


「そりゃもう」


期待に満ちた顔で答えるユウトに、アルの胸も弾んだ。


そんな中、カイが一歩前へ出る。


それだけで、騎士たちのざわめきが少しずつ収まっていった。


「よし、お前ら!」


よく通る声が響く。


「今年も無事に準備が整った。職人たちが三日かけて仕上げてくれたんだ。まずは感謝しろよ!」


騎士たちから拍手が起こった。


職人たちが照れくさそうに頭を下げる。


「さて――」


カイが幕の前に立つ使用人たちへ視線を向けた。


「それじゃあ、お披露目といくか!」


片手を上げる。


使用人たちが幕の端を握り、合図を待った。


そして。


「開け!」


一斉に幕が引かれた。


その瞬間――。


「おおおおおおおっ!!」


大歓声が上がった。


「まぁ……!」


アルも思わず声を上げる。


幕の向こうに姿を現したのは、巨大な露天風呂だった。


高い木の壁に囲まれた、広々とした空間。


屋根はなく、頭上にはバハード特有の厚い雲が広がっている。


その下で、いくつもの大きな浴槽が白い湯気を立ち上らせていた。


浴槽は、厚い木の板を隙間なく組み合わせた頑丈な造りになっている。


外側には太い支柱が取り付けられ、たっぷりと湯を張ってもびくともしないよう補強されていた。


なみなみと満たされた湯の表面には、ゆらゆらと波紋が広がっている。


冷たい外気に触れた湯気が、もうもうと空へ昇っていた。


壁際には身体を洗うための場所も設けられ、浴槽の周囲には滑りにくいよう加工された木の板が敷き詰められている。


さらに奥には、ひときわ大きな浴槽まであった。


「これが……お風呂……?」


アルは目を丸くした。


「すごいでしょう?」


レイが微笑む。


「毎年、冬季訓練に合わせて組み立てているんです。木材はあらかじめ加工してありますので、三日ほどで完成するんですよ」


「まぁ……! では、訓練が終わったら片づけてしまうのですか?」


「ええ。使える部材は保管しておいて、翌年また組み立てるんです」


「すごい……!」


アルは感心しながら浴槽を見渡した。


「今年は職人たちが少し工夫してくれたようですね」


「少しどころじゃねぇだろ」


ソラが呟く。


「去年よりでかくなってねぇか?」


「参加希望者が増えましたからね。今年は浴槽も増設してもらいました」


「毎年参加者が増えるから大変だよね」


レンが笑う。


アルは改めて露天風呂を見渡した。


これだけの設備を、たった三日で組み立てたというのだから驚きだ。


だが、もう一つ気になることがあった。


「ですが、これだけのお湯をどうやって……?」


「ああ、それな」


カイが隣にやってくる。


「山から引いてるんだよ」


「山から?」


「ああ。温泉っていうんだ。地下から温かい湯が湧き出してる」


「温かいお湯が、自然に?」


「そう。今から二百年くらい前にこの辺りの気候が突然変わったって言う話はしただろ?その時になぜか山から温泉も湧き出したらしい」


「色んなことが一度に起こったのですね…」


「それから一度も枯れてねぇんだと。今でもずっと湧き続けてる」


「まぁ……!」


アルは驚いて目を見開いた。


「そんな不思議なことがあるのですね」


「俺も詳しいことは知らねぇけどな。山には他にもいくつか湧いてる場所があるらしい」


「ではこちらのお風呂は、普段屋敷で使っているものとは違うのですね?」


「ああ。屋敷の風呂は薪で湯を沸かしてるだろ? こっちは山から直接引いてるんだ」


カイが浴槽を指差す。


「昔から、この訓練場の近くまで温泉を引く水路があってな。毎年冬季訓練の時期になると、こうして浴槽を組み立てて使ってるんだよ」


アルは改めて、白い湯気の立ち上る浴槽を見渡した。


自然に湧き出した温かいお湯。


それをこれほど大きな浴槽に満たしているというのだから驚きだ。


「これが……ご褒美……!」


思わず両手を胸の前で合わせる。


「皆様、訓練後にこのお風呂に入るのを楽しみにしているのですね?」


「そうですね」


レイが頷いた。


「この時期の訓練は身体が冷えますから。特に今回は、かなり厳しい内容を予定していますし」


「お湯に入った時の、あの痺れる感じが最高なんだよなー!」


ユウトが実に幸せそうな顔をする。


「冷え切った身体で入ると、ほんと生き返るぜ」


「みんなとワイワイ入るのも楽しいしね」


レンも笑った。


「普段は別の隊にいる人たちとも話せるし」


「あー、早く入りてぇなぁ」


ソラまで、珍しく目を輝かせている。


「訓練終わったら真っ先に飛び込むわ」


「ちゃんと身体を洗ってからにしてくださいね」


「分かってるよ」


レイの注意に、ソラが面倒くさそうに答える。


五人とも心から楽しみにしているらしい。


その様子を見ていたアルは、ふと視線を落とした。


「…………」


それに気づいたのは、隣にいたカイだった。


「どうしたんだ? アル」


「いえ……」


アルは少しためらってから、小さく笑った。


「少し、羨ましくなってしまって」


「羨ましい?」


「はい」


もう一度、楽しそうに湯殿を眺める騎士たちを見る。


「皆様で一緒にお風呂に入れるなんて、とても楽しそうですわ」


「……ああ」


「私はいつも一人ですから。もちろん、侍女はおりますけれど……」


その言葉に、五人が顔を見合わせた。


最初に口を開いたのはレイだった。


「申し訳ありません、アルヴェイン様。今回は他の騎士たちもおりますので、ご一緒していただくことはできませんが……」


少し考えてから、微笑む。


「カイとでしたら、これからいくらでも入れますよ」


「そうそう、俺とならいくらでも――」


カイが何気なく頷く。


そして。


「……は?」


動きが止まった。


――一緒に?


――アルと?


――風呂に?


「…………」


カイの頭の中に、ある光景が浮かびかける。


いや、待て。


落ち着け。


まだ何も決まっていない。


そもそも、そんな日が本当に来るのか?


「……っ」


カイは口元を片手で覆った。


耳が赤い。


「カイ、落ち着いて」


レイがすかさず声をかける。


「まだ何も起きていませんよ」


「わ、分かってる!」


「では、なぜそんなに動揺しているんですか?」


「してねぇよ!」


しかし、その顔は明らかに赤い。


一方のアルも。


「カ、カイ様と……お風呂……」


レイの言葉の意味を理解したらしい。


頬を真っ赤に染め、思わずカイを見る。


目が合った。


「…………」


「…………」


二人同時に視線を逸らす。


「……あっま」


ユウトが呆れたように呟いた。


「ここ、空気甘くねぇ?」


「温泉の湯気よりすごいね」


レンが楽しそうに笑う。


「お前ら、今すぐ入って冷やしてこいよ」


ソラまで呆れている。


「まだ入れるわけないだろ!」


カイが言い返す。


「じゃあ、いつ入るんだよ」


「そういう意味じゃねぇ!」


そんなやり取りを聞いていたアルが、ふと何かを思いついたように顔を上げた。


「あの!」


「ん?」


「でしたら、湯浴み着を着れば、私も皆様と一緒に入れますか?」


「ダメだ」


即答だった。


「えっ」


「ダメ」


「ですが、湯浴み着を着れば身体は隠れますし……」


「そういう問題じゃねぇ」


「では、どういう問題なのですか?」


アルは本当に不思議そうだった。


カイは少し考え、真剣な顔で言った。


「いいか、アル」


「はい」


「男はみんな――いや、俺以外は獣だと思え」


「お前もだろ!」


ソラが即座に突っ込んだ。


「なんでだよ!」


「なんでじゃねぇよ!」


「俺はアルに変なことしねぇよ!」


「触りたくて仕方ねぇくせに!」


ソラの言葉に、ユウトまで加勢する。


「お前っ、それを言うな!」


「事実だろ!」


「お前らだってアルが可愛いって言ってただろうが!」


「だからって、獣扱いすんなよ!」


やんややんやと言い争うカイたち。


その横で、アルは目を丸くしていた。


「まぁ……皆様が獣?」


そして、レイ、レン、ソラ、ユウトを順番に見る。


「カイ、酷くない?」


レンが笑いながら抗議する。


「私もさすがに異議がありますね」


レイも眼鏡を直した。


「俺は何も言わない」


ユウトが両手を上げる。


「いや、言えよ!」


カイが思わず突っ込んだ。


「だって兄貴、何言っても聞かねぇじゃん」


「聞くだろ!」


「アルさんの言うことだけな」


「…………」


カイが黙った。


「否定しないんだ」


レンがくすりと笑う。


「……お前ら、もういいだろ」


カイが眉を寄せる。


その時だった。


「自分は大賛成であります!!!」


突然、よく通る声が響いた。


「!?」


全員が振り返る。


いつの間に現れたのだろう。


レイのすぐ隣に、一人の青年が立っていた。


背筋をぴんと伸ばし、右手を額に当てている。


見事な敬礼だった。


「……シルス?」


レイが目を瞬かせる。


「あなた、なぜここに?」


「はっ!」


青年は胸を張った。


「麗しい女性と風呂に入れるかもしれないと聞こえましたので!!」


「…………」


沈黙。


誰もが言葉を失う中、アルだけが不思議そうに首を傾げた。


「……あの、こちらの方は?」


その問いに答えるより早く、レイは深々とため息をついた。


どうやら、冬季訓練が始まる前から、彼の苦労は尽きないらしい。


――後編へ続く。

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