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プロポーズが「お嬢さん、俺の嫁にならないか?」ってどうなの!?  作者: SAKURA MOON


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第一回五騎士会議

第一回五騎士会議


「……プロポーズって、どうしたらいいんだ?」


 カイの問いに、レイは一度だけ瞬きをした。


「通常であれば、まずは相手の好みや希望を確認し、それに合わせて準備をするものですが……」


 そこで、ふと考えるように視線を落とす。


「いえ。あなたの場合は、他の四人の意見も聞いた方がよさそうですね」


「……なんでだよ」


「ご自分で考えて、まともな案が出てくるとは思えませんので」


「おい」


 カイが眉を寄せる。


 レイはそんな反応を気にする様子もなく、淡々と続けた。


「ちょうど全員屋敷にいますし、少し意見を聞いてみましょうか」


「全員って……」


こうして、屋敷でそれぞれ仕事や休息の時間を過ごしていたレン、ソラ、ユウトが集められた。


わざわざ声をかけられたとあって、三人とも少し緊張した面持ちをしている


「で、何の話だ?」


 ソラが椅子に腰を下ろす。


 カイは一度、レイを見た。


 レイはどうぞ、とでも言うように視線を返してくる。


 カイは小さく息を吐いた。


「……アルに、ちゃんとプロポーズしたい」


「…………」


 一瞬、部屋が静まり返った。


 次の瞬間。


「おおっ!」


 ユウトが身を乗り出した。


「ついにか!」


「ついに、だね」


 レンも嬉しそうに笑う。


 ソラは少しだけ目を見開いたあと、腕を組んだ。


「今さらかよ」


「うるせぇ」


「いや、だって最初に会ったときから言ってただろ。俺の嫁にならないかって」


「……あれは勢いだ」


「勢いで求婚したのかよ」


「そうだよ!」


 開き直ったカイに、ユウトが声を上げて笑った。


「兄貴らしいな!」


「笑うな」


「それで、今回はどうするんです?」


 レイが話を戻した。


「アルヴェイン様に、改めて結婚を申し込むのでしょう?」


「ああ」


「では、まずは何をするつもりですか?」


「何って……」


 カイは言葉に詰まった。


「花とか、指輪とか?」


 ユウトが口を挟む。


「馬を用意するってのもいいんじゃないか? 遠乗りに連れて行って、景色のいいところで言うとか」


「馬は悪くないですね」


 レイが頷く。


「花もいいと思う。アルさんの好きな花にしたら?」


 レンが続けた。


「……好きな花?」


 カイの表情が止まった。


「そういえば、アルさんが何を好きなのか、ちゃんと聞いたことないよね」


「…………」


「好きな色とか、食べ物とか。そういうのも知らないんじゃない?」


「…………」


 カイは黙ったままだった。


「指輪なら、どんなものがいいかも考えないとな」


 ユウトが言う。


「宝石の色もありますし、デザインの好みもありますね」


「……知らねぇ」


 ぽつりとカイが呟いた。


「何が?」


「アルの好きな色も、花も、食い物も。宝石だって、どんなのが好きなのか知らねぇ」


「お前……」


 ソラが呆れたように目を細めた。


「何なら知ってんだよ」


「知ってることはある」


「例えば?」


「手が冷えやすい」


「……それは知ってるんですね」


 レイが少しだけ眉を上げた。


「疲れてても平気だって言うし、腹が減ってても我慢する。寒くても、周りが気づくまで何も言わねぇ」


 カイは視線を落とした。


「無理してるときほど笑うし、誰かが困ってたら自分のことは後回しにする」


 その言葉に、レンが小さく頷いた。


「カイはちゃんと見てる。ただ、見てるところが違ったんだと思う」


「……どういう意味だ?」


「アルさんが困ってないか、疲れてないか。そういうことは、いつも気にしてるだろ?」


「それは……」


「でも、アルさん自身が何を好きなのか、何をしたいのかは、まだあまり聞けてないんじゃないかな」


 カイは返事をしなかった。


 レイが静かに口を開く。


「アルヴェイン様は、十二年間も王太子妃になるための教育を受けてきた方です」


「……ああ」


「自分の好みよりも、周囲の期待や立場を優先することが当たり前になっていた可能性があります」


 レイは一度言葉を切った。


「もしかすると、ご本人もまだ、ご自分が何を好きなのか、何を望んでいるのか、十分に考える機会がなかったのかもしれません」


「……そっか」


 レンが小さく呟いた。


「だったら、これから知っていけばいいんじゃない?」


 ――これから知っていけばいい。


 それは、初めて会ったときにもアルに言った言葉だった。


 もしアル自身にもまだ分からないことがあるのなら、一緒に見つけていけばいい。


「アルさんが何を好きなのか、何をしたいのか。少しずつ聞いていけばいいと思う」


 カイはしばらく黙っていた。


 やがて、ゆっくりと顔を上げる。


「……そうだな」


「まずは、アルヴェイン様の希望を確認することです。あなたが良いと思うものを一方的に用意するのではなく」


「分かってる」


「本当に?」


「そんな心配すんなよ」


 レイは小さく息を吐いた。


「では、急がずに。アルヴェイン様の気持ちを大切にしてください」


「ああ」


 カイは短く返事をした。


 それから、少し考えるように視線を落とす。


「……俺は、アルのことをもっと知りたい」


 その言葉に、四人はそれぞれ表情を緩めた。


「いいじゃない」


 レンが笑う。


「じゃあ、まずは一緒に出かけてみたら?」


「そうだな」


「せっかくだし、買い物でもしてきたらどうだ?」


 ユウトが提案する。


「アルさんの好きなものを探しながらさ」


「……それがいいかもしれませんね」


 レイも頷いた。


「では、今回の会議はここまでにしましょう」


「え、もう終わり?」


 ユウトが拍子抜けしたように声を上げる。


「まだ何も決まってないだろ」


「決めるのはカイですから」


「それはそうだけどよ」


 ソラが立ち上がった。


「結局、自分で考えろってことじゃねぇか」


「そういうことですね」


「おい、レイ」


 カイが不満そうに声を上げる。


 しかし、レイは涼しい顔のままだった。


「少なくとも、今のあなたに必要なのは、花や指輪を選ぶことよりも、アルヴェイン様のことを知ることだと思いますよ」


 その言葉に、カイは反論しなかった。


 確かに、その通りだった。


     *


 翌日。


 カイはアルを連れて、町へ出かけていた。


 王都へ向かう前に、旅に必要なものを揃えるためだ。


 とはいえ、買い物だけが目的ではない。


 昨日の会議で言われたことを、早速実践するつもりだった。


「アル。旅用の羽織りを新調するなら、これとこっち、どっちがいい?」


 店先に並んだ布地を指差す。


 片方は落ち着いた青色。もう片方は柔らかな淡い色合いだった。


「そうですね……」


 アルは二つを見比べ、少し考えてから後者を選んだ。


「こちらの方が好きです」


「こっちか」


「はい。優しい色合いで、素敵だと思います」


「分かった」


 カイはその布を手に取り、店主に声をかけた。


 アルが選んだ色合いの布で、旅用の羽織りを仕立ててもらうことにする。


 それだけのことなのに、なぜか嬉しかった。


 次に立ち寄った菓子店では、焼き菓子をいくつか見せた。


「アルは、どれが食べたい?」


「えっ、私ですか?」


「ああ」


「うーん……」


 アルは並んだ菓子を眺める。


「こちらがいいです」


 選んだのは、甘い香りのする焼き菓子だった。


「甘いものが好きなのか?」


「はい。特に、こういう甘いものは好きです」


「そうか」


 また一つ、知ることができた。


 その後、花を扱う店の前を通りかかったときも、カイは足を止めた。


「アル」


「はい?」


「好きな花はあるか?」


「好きな花、ですか?」


 アルは店先に並んだ花を見渡した。


 色鮮やかな花も、大きく華やかな花もある。


 その中で、彼女の目が小さな白い花に留まった。


「私、こういう小さな白い花が好きです」


「これか?」


「はい。可愛らしくて、見ていると心が落ち着くんです」


「……そうか」


 カイはその花を見つめた。


 アルが好きだと言った花。


 それを覚えておこうと思った。


「カイ様?」


「いや、何でもねぇ」


 カイは店主に声をかけ、小さな花束を一つ買った。


「えっ、私にですか?」


「ああ。せっかく好きだって聞いたからな」


「ありがとうございます」


 アルは花束を受け取ると、嬉しそうに微笑んだ。


 その笑顔を見て、カイも自然と口元を緩めた。


 知らなかったことを一つずつ知っていく。


 それが、こんなにも嬉しいことだとは思わなかった。


     *


 買い物を終えたあと、カイはアルを連れて屋敷の敷地内にある小高い丘へ向かった。


「ここは?」


「俺が子供の頃、よく来てた場所だ」


 丘の上からは、町を一望できる。


 バハードの空は、いつものように厚い雲に覆われていた。


 夕日が沈む様子も、空に星が浮かぶ様子もない。


 それでも、眼下に広がる町には、少しずつ明かりが灯り始めていた。


「わあ……」


 アルが小さく声を漏らす。


「綺麗ですね」


「そうか?」


「はい。建物も、人々の装いも、明かりも。こうして見ると、町全体が温かく感じられます」


 町がゆっくりと夜の色に沈んでいく中、その明かりがアルの瞳にきらきらと映っていた。


「私、この景色が好きです」


 その言葉を聞いて、カイは彼女の横顔を見つめた。


 好きな花も、好みの色合いも、好きな食べ物も。


 今日、少しずつ知ることができた。


 そして今、彼女はこの景色が好きだと言った。


 レイに言われたことも、レンたちと話し合ったことも、頭には残っていた。


 急ぐな。


 アルの気持ちを大切にしろ。


 自分だけで決めるな。


 昨日、散々そう言われたばかりだった。


 ちゃんと考えて。


 ちゃんと話して。


 それから――。


「アル」


「はい?」


 彼女がこちらを向く。


 カイは一度、息を吸った。


「俺と結婚しよう」


「…………え?」


 アルの瞳が大きく見開かれた。


 言ってしまった。


 もう少し、ちゃんと考えてから伝えるつもりだった。


 指輪を用意するとか、場所を考えるとか、そういうこともするつもりだった。


 それなのに、気づけば口にしていた。


「……悪い。急だったな」


 カイは少し困ったように眉を寄せる。


 頭を掻きながら、視線が宙をさまよった。


「ちゃんと考えてから言うつもりだったんだが……」


「カイ様」


「返事は急がなくていい。今すぐじゃなくても――」


「私も、カイ様と結婚したいです!」


 その言葉に、カイの動きが止まった。


「……え?」


「私も、カイ様と結婚したいです」


 アルはもう一度、はっきりと告げた。


 そして、彼の胸に飛び込んだ。


「…………」


 カイはしばらく固まっていた。


 腕の中にいるアルの温もりを感じながら、ようやく状況を理解する。


「……アル」


「はい」


「ちょっと待ってくれ」


「え?」


「今、心の準備してる」


「は、はい……?」


 カイは彼女を抱きしめたまま、目を閉じた。


 まさか、こんなにすぐ返事がもらえるとは思っていなかった。


 しかも、自分から飛び込んできてくれるなんて。


 胸の奥が熱くなる。


 やがて、カイはゆっくりと腕に力を込めた。


「……本当にいいのか?」


「はい」


「俺で?」


 アルは少しだけ身体を離し、彼の顔を見上げた。


 その目には涙が溜まっていた。


 それでも、口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。


「カイ様が、いいです」


 その言葉に、カイは一瞬だけ目を伏せた。


 それから、彼女の髪にそっと頬を寄せる。


「……分かった」


 低い声が、静かに落ちた。


「絶対に幸せにする」


「はい」


 二人は、しばらくそのまま抱き合っていた。


     *


 その日の夜。


 五騎士が揃った部屋で、カイは何でもないことのように告げた。


「アルと結婚することになった」


「…………」


 四人の視線が、一斉にカイへ向けられる。


「え?」


 最初に声を上げたのはユウトだった。


「今、何て?」


「アルと結婚する」


「ええっ!?」


 ユウトが椅子から身を乗り出す。


「もうプロポーズしたのか!?」


「ああ」


「で、アルさんは何て?」


「いいって」


「やったじゃん!」


 レンが嬉しそうに笑った。


「おめでとう、カイ」


 レイも静かに祝福する。


 ソラは腕を組んだまま、カイを見た。


「で?」


「何が」


「どうやってプロポーズしたんだよ」


「……普通に」


「普通って何だよ」


「俺と結婚しようって言った」


「それだけ?」


「それだけだ」


「花は?」


「昼に、アルが好きだって言った花は買った」


「じゃあ、プロポーズ用には?」


「用意してねぇ」


「指輪は?」


「ない」


「場所は?」


「屋敷の敷地内の丘」


「……お前、結局ほとんど何も準備してねぇじゃねぇか」


「うるせぇ。ちゃんと返事はもらった」


「アルさん、何て言ったの?」


 レンが尋ねる。


「私も、カイ様と結婚したいです、って」


「おお!!」


 ユウトが両手を叩いた。


「それで?」


「……抱きついてきた」


「えっ!」


「アルさんから!?」


「そうだ」


「兄貴、よかったな!」


 ユウトが満面の笑みを浮かべる。


 レンも目を細めた。


「アルさんらしいね」


「……で、カイはどうしたんだ?」


 ソラが尋ねる。


「どうしたって?」


「抱きつかれて」


「……固まった」


「は?」


「心の準備が必要だった」


「何だそれ」


 ソラが呆れたように息を吐く。


 ユウトは腹を抱えて笑っていた。


「兄貴、あんなに強いのに!」


「こういうのは苦手なんだよ!」


 顔を赤くして反論するカイ。


「でも、よかったね」


 レンが笑いながら言った。


 その言葉に、カイは少しだけ表情を緩めた。


「ああ」


 短く返事をする。


 ソラはそんなカイを見て、ふっと口元を緩めた。


「幸せにしてやれよ」


「ああ」


 レイは四人のやり取りを眺めてから、静かに口を開いた。


「それで、昨日の会議は何だったのでしょうね」


「……あ?」


「花も指輪も決まらず、具体的な計画も立てず。まさか翌日にはプロポーズまで済ませるとは思いませんでした」


「勢いじゃねぇよ」


「そうですか?」


「ちゃんと考えた」


「では、何を考えたんです?」


「……アルと結婚したいって」


 レイは一瞬だけ黙った。


 それから、小さく息を吐く。


「まあ、それなら十分ですね」


「だろ」


「ただし、今後のことはきちんと考えてください。正式な手続きもありますし、指輪も必要でしょう」


「ああ。分かってる」


「少なくとも、次は何か決める前に一度相談してくださいね」


「……努力する」


「そこは約束してください」


「分かったよ」


 カイは、今日のアルの笑顔を思い出していた。


 まだ知らないことは、きっとたくさんある。


 これから少しずつ知っていけばいい。


 そう思うと、これからの日々が楽しみだった。

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