四十話
「ウィリアム様、お客様がお見えです」
まだ朝も早い時間、宿屋の人が来客を告げる。
軽く身だしなみを整え向かうと立派な装いの騎士が待っていた。
「ウィリアム卿ですね。王宮にて陛下がお待ちです」
少し待ってもらいミリアーヌに声をかける。
「師匠、こんな朝早くにどうしたんですか」
「王宮から呼び出しがかかった。ミリアーヌはどうする」
「もちろんついていきますよ。準備するので少し待ってください」
ドタバタと音がしたと思ったらシスター服に着替えたミリアーヌが出てきた。
「お待たせしました。行きましょう」
ミリアーヌを連れて戻り騎士の先導で宿屋の前につけられた馬車に乗り込む。
馬車は貴族街を抜け王宮の中庭まで入っていく。
「ここから先は歩きとなります」
馬車を降り騎士の後に続いて王宮の廊下を進み応接室に案内される。
「ここでしばらくお待ちください」
騎士が退出すると控えていたメイドが紅茶を入れてくれる。
昔と変わらぬ味にほっとしているとドアが開き王太子と男性二人が部屋に入ってくる。
椅子から立ち臣下の礼を取ろうとするのを止められる。
「ウィリアム卿こんな朝早くに済まない。こちらが国王陛下であるオスカー・フォン・マキート陛下です」
「宰相を務めております。ジョシュア・フォン・ウェズスと申します」
大公爵位を示す証に魔力込めて呈示しながら自己紹介をする。
「ウィリアム・フォン・マクロードです。こちらは弟子のミリアーヌと申します」
大物の登場に固まってしまったミリアーヌを紹介しておく。
「王大師の言葉を聞いた時は信じられなかったが本当に大賢者様ご本人なのですね」
「今回の謁見に際して過去の記録を調べましたが連絡が取れなくなりご高齢であったことから死亡したと判断され所領を王国直轄領に併合したとありますが返却することが決まりました。我が国の領土とはなっておりますが辺境で危険な魔物が多く手が付けらない状態の場所ですので他の貴族の反発も少ないと思われます」
「ウィリアム卿がいなければアーカディア帝国にロッテムハルトを取られていたでしょう」
「大賢者様には申し訳ないのですが周辺国への牽制として健在を公表させていただきたいと考えております」
「今回の戦功と公表させていただく迷惑料として大白金貨を五百枚ほど贈呈する予定でございます」
「どこまで効果があるかはわかりませんが公表の件についてはわかりました」
その後も細かいことを決め事前交渉は終わった。




