第89話 オークション開催! 中編
午前九時ごろから始まったオークションは、武器、防具、アイテム、魔道具と午後一時ごろまで続き、昼食のために一時間の休憩に入った。
この間に、昼食などをすますのだが、午後からの奴隷オークションに参加しないものは、ここで終わりとなる。
奴隷の必要のないもの、お金のないものなど理由は様々だが、オークションを最後まで付き合うことはないのである。
俺たちは、一応奴隷を購入できるようなお金は持っているので、買うか買わないかは見て決めることにした。
そして、昼食休憩の一時間が経過し、会場に戻ってくると、席についている冒険者たちの人数が明らかに減っていた。
勿論、冒険者以外の人もいるのだが、その人たちの中にも姿の見えない人はいるようだ。
「ずいぶん、参加者が減ったな……」
「後ろの方なんか、ガラガラだよ」
「残すは、奴隷オークションだけだからね。
持ち金に自信の無い人は、参加しないんじゃないの?」
「そうかも……」
俺たちは、会場の様子を話題にしながら、午前中に座っていた席に戻る。
元々会場の後ろだったため、周りに人がおらず、なんだか俺たちは浮いているようだ。
「ねぇ、前の方の席に移動した方がいいかな?」
「いや、この席での番号札だから移動はできないよ」
「そうか~」
周りの状況を見て、新城さんが移動を促してきたが、移動してしまうと、出品リストの紙と一緒に渡された番号札が午前のオークション時と違ってくるので、移動できなかった。後は、時間切れでもあった……。
『皆様!お待たせいたしました!
これより、午後のオークションを開催いたします!
午後からの出品は、すべて奴隷ということで帰られた方も多い中、残っていただきありがとうございます。
ざっと見渡しても、午前の四分の一といったところでしょうか。
会場内の参加者が少なくはなりましたが、オークションは続けさせていただきます!
では、エントリーナンバー八十九番、借金奴隷のミサキです!』
そう司会者に紹介され、ステージ中央に出てきた出品奴隷を見て、俺たちは驚いた。
特に、高校生である俺や悠太、日向さんに新城さん、そして竹原さんと市原さんがだ。
「おいおいおいおい、高木は何やっているんだ?」
「……ウソ、何で岬ちゃんが?」
「ちょっとちょっと~、どうなっているの?」
俺たちは、大混乱だ。
何せ、今ステージにいる『ミサキ』は、本名を高木 岬といい、ほんの一週間ほど前まで同じ教室にいた同級生だ。
こっちの世界に来ていたことは知らなかったが、何で奴隷になっているんだ?
確か、司会の人が借金って……?
「みんな、とにかく落ち着いて。司会者の紹介が聞こえないよ」
「あ、ごめん……」
『このミサキは、冒険者でしたが、度重なる討伐依頼の失敗により、違約金を課せられ、とうとう払えなくなり奴隷となりました。
ですので、冒険者に向いているとは、ギルドでも保障は出来かねます。
購入する際は、その辺りを考慮の上ご参加ください。
それでは、ミサキが背負った借金の金額、金貨100枚からスタートとなります!』
金貨100枚って、どれだけ討伐依頼失敗しているんだよ……。
『金貨102枚!』『金貨104枚!』『金貨109枚!』
……それに、あんまり盛り上がらないな……。
ん~、やっぱり日本人は、子供っぽく見えるのかな?
「おい、どうするよ……」
「どうするも何も、参加するしかないだろうが『金貨120枚!』」
俺は、自分の札を上げ、金額を叫んだ。
その途端、誰も参加しなくなってしまう。
……もしかして、高かったか?
『後ろの席の番号二百七番の方、落札です!』
―――パチパチパチパチ!
少ない参加者たちの拍手が、会場内に響き渡る。
俺は立ち上がり、一応挨拶をしておく。
どうやら、この落札者に送る拍手は、オークションの中のルールのようだ。
立ち上がって、頭を下げてまた上げた時に、おざなりに拍手をしている人が何人かいたのだ。
席に座ると、オークション職員の男性が一人、近づいてきた。
「落札おめでとうございます。
これは、先ほど落札した奴隷の引き換え札になります。
会場を後にする際、この引き換え札を持って会場入り口にある引き渡し部屋にお入りください。
ただ、後日改めて冒険者ギルドに引き換え札をお持ちになる場合は、二日以内に引き換えますようにお願いします。
もし2日の期限を過ぎますと、落札者の権利を失うことになりますので…」
そう言って、ナンバー89と書かれた札を渡してくれる。
札の裏には、冒険者ギルドナブト支部の名前が書かれてあった。
権利失う前に、オークションの帰りに引き換えておこう。
お金もあるし……。
『続きまして、エントリーナンバー九十番、借金奴隷のナナミです!』
……続いたよ、元同級生の奴隷が。
再び、ステージの上に立つ見知った顔の女性。
「……嘘だろ?」
「あいつら、何やっているんだよ。こんな異世界に来てまで……」
「……」
信じられない俺に、文句を言う悠太。
そして、言葉にならない日向さんたち、元同級生。
『このナナミも、先ほどのミサキ同様、討伐依頼の度重なる失敗により借金奴隷として身を落としました。
このナナミも、冒険者としてギルドは保証しかねますがその辺りのことを考慮の上、ご参加ください。
それでは、このナナミも背負った借金の金額である金貨百枚からスタートいたします!』
『金貨104枚!』『金貨110枚!』『金貨120枚!』
……今度は、参加者が多いな。
あれか?スタイルがいいからか?
「おい康太、参加しないと落札されてしまうぞ?」
「おっと、って悠太が参加すればいいんじゃないのか?『金貨140枚!』」
「いや、元同級生のことは、康太に任せようかと……」
悠太の奴、面倒なことになると予想しやがったな?
……うん、元同級生は日向さんたちに任せよう……。
「粘る人がいるな……『金貨165枚!』」
「見たい…お、手を振って参加拒否したな。これで、落札者は康太だ」
『金貨165枚で、先ほどの番号二百七番の方、今回も落札です!』
―――パチパチパチパチ!
再び、会場中に鳴り響く拍手に答えるように立ち上がり、一礼する。
こうして、波乱の午後の奴隷オークションは進んでいく。
今日は、ここまで。
次回は、奴隷オークションの続きです。
第89話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




