退屈なプロローグ
「続編ってのが、な〜んでカス揃いか考えた事あるか?」
展望台。
ガラスの向こう——眼下広がる街並みを眺めながら、男はのんびりとした口調で言葉を吐いた。
「答えは単純明快——続編だからさ。正解者には金一封とグアム旅行のプレゼントだ」
「……それは哲学か何かの話?」
男の隣に立つ女性——畔あさきが、眉を顰めて疑問を呈する。
これに、男はおどけたように肩をすくめた。
「い〜や、ただの現実の話さ。最新の超大作を観るのに、クソ程事前知識を要求される……人の時間は有限だってのにな。そんなことばっかやってるから、ここ何年かのマーベルフランチャイズは鳴かず飛ばずなんだよ。世知辛いねぇ〜」
くたびれた、グレーのスーツ姿の男。
身長は高め、体格は痩せ型。
髪色は黒。
「ま、要は話をややこしくすんのは愚策、って事だ」
男は二本、指を立てる。
「この世界の基本ルールは二つだけ。一つ、『パラドクス』っつー面白愉快な超能力が存在する。二つ、『阿島京介』っつー世界最強が存在する。これ以外の情報は全部おまけみて〜なもんだからな。ま、詳しくはwebで、だ……ちょっと古いな、これ」
「阿島京介、ね……個人の存在を世界のルールと言い切るのは、随分大袈裟に思えるけど」
「それだけスペックがバグり散らかしてるのさ——異能力バトル物の鉄則が何か、知ってるかよ」
「……逆説を素地とした、逆理の異能?」
「それは『パラドクス』の、だろ?ま〜例外はあるが、往々にしてって話をすんならよ、〝一人につき能力は一つきり〟って奴だな」
ポケットに手を突っ込んで、男が肩をすくめる。
「能力を消す能力、なんて超興醒めだ。能力を増やす能力も駄目だな。一人がいくつもいくつも特殊能力持ってたら、パワーバランスもクソもね〜。そんなカスエンタメ、10週打ち切り待ったなしだ……んで、この阿島京介ってのがまさにそんなカスエンタメの権化みて〜な野郎なのさ」
「……能力を消せる?」
「い〜や、後者。野郎の『パラドクス』は、異能を創る逆理だ……自分限定だけどな。ソイツを使って、アイツは自分自身を改造してんのさ。〝阿島京介は改造人間である!〟ってな」
男は軽薄な笑みを浮かべていた。
その瞳は相変わらず、眼下の街並みへと向けられている。
「アイツが持ってるパラドクスは全部で五つ。
異能を創る異能。
異能を複数保持出来るようにする異能。
周囲の対象を正確に感知・捕捉する異能。
感知した対象に完全反応する異能。
破壊不能と認識した物体を破壊する異能。
一個一個は大したもんでもね〜けどな、これらが相互に作用すると、あ〜ら不思議!完全無欠のスーパーヒーローの爆誕よ。まったく、呆れるチート野郎だ。市内の大会だったら出禁だぜ」
男が、わらう。
「カッコつけた横文字使っても、所詮ただの人間だからな。カッターで刺されりゃ死ぬし、銃で頭吹き飛ばされりゃなす術なしだ。けど、阿島京介だけは違う。第三次世界大戦が起きようと、生身で出向いて普段着でやり過ごす。あれはそーいう代物だ。だから、俺ぁ思ったのさ……」
「……何を?」
あさきが、問う。
「これは作者、扱いづらいだろ〜なってな」
男は、真剣な面持ちでそう答えた。
「考えてもみろよ。どんなトラブルが起きようが、何しようが、阿島京介が一人でぷら〜っと出向きゃーそれで解決。緊張感も何もあったもんじゃね〜。馬鹿の無双が見て〜んだったらweb小説でも眺めてろって話だ……けどま、俺はエンタメ好きだから、そんな話を放置してるってのも気が引けちまうのさ。だから——」
「……から?」
男が、笑った。
「殺しに行こうと思ってよ、阿島京介。今から」
「………………今から?」
男が、笑った。
「よく漫画とかでよ〜、戦い大好きみて〜なイカれ居るだろ?ところが連中は何かに付けて『最強』相手は避けやがる。おかしな話だ、非合理的で超許せね〜」
男は——……——…………
「ぶっ殺したけりゃ、ぐだぐだ言わね〜でやっちまえばい〜のさ。それに、小物の小競り合いより、作中『最強』が暴れてるトコのが見て〜だろ?現代っ子ならなぁ」
『明石真』は、嗤った。




