プロローグ
――――――
情とは、魂の運動である。
しかし、あらゆる運動が情であるわけではない。魂が思考する運動は情ではない。魂が記憶を辿る運動もまた情ではない。
情とは、魂が対象に向かって動かされる運動であり、その運動が意志を形づくるものである。
私は情の根源的な形態――喜・怒・哀・懼・愛・欲を認める。
これらは互いに還元することのできない、独立した六つの力であり、教えられて生じるものではない。人が人である限りにおいて不可避的に備わるものであり、いかなる者もこれを免れることはできない。
情を離れて人はなく、人を離れて情はない。
――ペレナ著、『六情論』より。
――――――
焦げきった地面。立ち昇る黒煙。焼け崩れる家々。
炎の覆う村に、人の気配は全くなかった。強大な存在の痕跡だけが残っていた。
その痕跡の中に、少女が埋もれていた。貧相な体は血色が悪く、傷がついていた。赤く染まった肩が、弱々しく上下していた。
彼女は確かに死を自覚していた。ただ、静かに無を見ていた。人生を空疎なものと感じていた彼女にとって、死すらどうでもよかったのだ。それが、全身の感覚が抜け落ちるのを助長させた。
虚ろなその目には、映像が駆け巡っていた。残った記憶が流れ落ちるように。器の溶け残りを振り落とすように。
激流の如き走馬灯であった。しかし、その流れに流されず、引っかかるものがあった。彼女にとって詳細がわからないほど、些細なものだった。けれど、確かに芯のあるものだった。
――その引っ掛かりは、少女に小さな変化をもたらした。やがて変化は膨れ上がって大きな意志となり、ついに口を動かした。
「死にたく……、ない!」
だがそれだけだった。徐々に重くなっていく瞼は、目尻にたまった涙を押し出した。
大粒の雫が一つ、地面に消えた瞬間だった。
強い光が炸裂した。少女の視界を白く潰し、またたく間に広がった。瓦礫も炎も何もかもが、貪り喰らうように飲み込まれた。
この作品は、学校の部誌にのせるつもりで書き始めたものです。
中短編を書くつもりが、第一章だけで二万文字近くになってしまったので長編にすることにしました。
明晰夢厨とは、ほとんど関係はありません(意味深)
いいね、感想、誤字報告はお気軽に! アドバイスもどしどし募集中!
評価は、こんな感じでポチッとしてくれると嬉しいです
←ドブカス 普通 面白いねぇ!→
☆ ☆ ☆ ☆ ☆




