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異世界都市建設物語  作者: せぶん


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2/2

セントラルフォレスト最初の一日

その後、意識が遠のくように天界の光が消えていった。


目が覚めると、そこは深い緑に包まれていた。


どこを見ても木、木、木。天を衝くほど高い樹々が視界を埋め尽くし、木漏れ日が地面にまだら模様を描いている。鳥の声が遠くから聞こえ、草と土と木の香りが鼻をくすぐった。


ただ不思議なことに、僕の周りだけがぽっかりと開けていた。まるで誰かが意図して切り開いたように、半径十メートルほどの円形の広場が存在している。そしてその背後には、周囲の木々とは明らかに格が違う巨木がそびえ立っていた。幹の太さは家が一軒建つほどで、樹冠は雲に届きそうなほど高い。


「ここがセントラルフォレスト……いたって普通の森だけどなあ」


拍子抜けというか、危険地域と聞いていた割には静かで穏やかだ。周りの空気はおいしいし、木々の隙間から見える空は突き抜けるように青い。


大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。肺の奥まで満たされるような清涼感がある。


「……悪くないな」


さて、呑気に景色を眺めてばかりもいられない。まずは状況を整理しよう。そうだ、天界で女神様たちからもらったものを確認しておかないと。


目の前にウィンドウを呼び出す。神器と、スキルの一覧が表示された。


---


     神造神器


  **《ワールドビルダー》**


 自分が想像した道具に変換される神器

 精巧に想像できないものは使用不可


---


    固有スキル


 **《ワールドクリエイター》**


 地形把握 / 超鑑定 / 建築支援

 開拓支援 / 空間収納 / 都市発展補助

 成長解放機能(都市発展に応じて解放)


---


ワールドビルダーは任意の道具に変換できる神器。そしてワールドクリエイターは都市建設全般を補助するスキル群だ。地形把握に鑑定、建築支援まで揃っている。建築学を学んでいた僕には、これ以上ないほど相性がいい。


「よし、まずはワールドクリエイターを起動してこの周辺を把握しよう」


《ワールドクリエイター》――《地形把握》


ウィンドウが広がり、周囲の地形が俯瞰図のように展開される。川、起伏、岩盤の位置。まるで頭の中に地図が直接描き込まれていくようだ。


北へ約2キロ、川がある。岩盤は広場の地下十メートルほどに安定した層が走っている。建築基盤としては申し分ない。


「なるほど……それにしても、この広場、妙に綺麗に開けてるな」


自然にできた空き地にしては整いすぎている。何かあるのかもしれないが、今は後回しだ。


「まずは雨風をしのげる簡易的な家を作ろう」


幸い、この広場の周りには素材がいくらでもある。木材、石、蔦。都市計画的に言えば、資材は現地調達が基本だ。まずは木を切るところから始めよう。


首元に下げたストラップに触れる。小さなツルハシの形をした、一見するとただのアクセサリーにしか見えない神器――ワールドビルダーだ。これを握りながら、頭の中に斧のイメージを描く。刃の形、柄の長さ、重さのバランス。大学の授業で触れた資料の記憶を手繰り寄せながら、できるだけ細部まで精巧に想像する。するとストラップがじわりと光を帯び、手の中でしっかりとした木こり用の斧へと姿を変えた。


「おお、ちゃんと変わった」


感動しながらも、さっそく広場周りの木へと向かう。


「よいしょー、よいしょー」


声を出した方がよく力が入る。リズムをとりながら斧を振るう。体は明らかに以前より頑丈になっているはずなのに、それでもなかなか手応えがある。どれだけ硬いんだこの木は。


「よいしょー、よいしょー……そろそろ切れるかな」


《ワールドクリエイター》――《超鑑定》


ウィンドウが開く。


---


 セントラルシダー

 耐久値 150/15000


---


「うん、もう少しだな」


……もう少し、と思っていたが、この時の僕はまだ知らなかった。


セントラルシダーはこの森にしか自生しない固有種であり、その強度はあらゆる金属を凌駕するアダマンタイトの約5倍にも及ぶということを。


結論から言うと、木を一本切り落とすのに丸一日かかった。


「あれ、もうこんな時間になってる……」


気づけば太陽が傾き、森の中が橙色に染まり始めていた。一本の木を切るだけで夕方とは、先が思いやられる。もっとも、この木の強度が分かったなら、建材としては最高の素材かもしれない。都市建設的には悪い話じゃない。


ただ今夜の寝床はどうしよう。一応ここは危険な森だ。野ざらしで寝るのは流石にまずい。


「シェルターでも作るか」


スキルを展開する。


---


 スキル使用

 女神の祝福【全】(魔・自然)


 植物簡易ベッドを生成しました

 周囲に隠密効果・魔物避けを付与しました


---


地面から草と蔦がふわりと盛り上がり、柔らかそうなベッドが形成された。周囲にはうっすらと見えない膜のようなものが張られている。


「おお、干し草のベッドはかなり良さそう。隠密と魔物避けがあれば魔物に襲われることもなさそうだけど……本当に大丈夫かな」


女神様の加護だから大丈夫だとは思うけど、いかんせんここは全種族が立ち入りを諦めた危険地帯だ。


まあ、考えすぎても仕方ない。睡眠は大事だ。いくら神々に肉体を強化されていても、疲れは疲れである。


「おやすみ、異世界」


干し草のベッドに横になる。草の香りと静かな森の音に包まれ、じわじわと眠気が訪れた。


――その夜。


遠くで、山が崩れるような轟音が響いた。


続いて、何本もの巨木がなぎ倒されるような、ごおっという地響き。森全体が一瞬震えたような気がした。


「……っ」


半分眠りかけていた意識が浮上する。体を起こそうとして、しかし気づいた。結界の内側は不思議なほど静かだ。あの音も振動も、まるで遠い世界の出来事のように感じられる。


遠くで、何かが咆哮した。


低く、重く、大気を震わせるような声だった。獣とも嵐とも形容しがたい、ただただ圧倒的な何かの気配。


――これが、セントラルフォレストの住人か。


改めて実感する。ここは本物の危険地帯だ。女神様の加護がなければ、今頃どうなっていたか分からない。


「……女神様たち、ありがとうございます」


小さく呟いて、もう一度目を閉じた。結局その夜、魔物が広場に現れることはなかった。加護は確かに機能していた。


---


翌朝。


鳥の声で目が覚める。昨夜の轟音が嘘のように、森は穏やかな朝の顔をしていた。体は存外すっきりしていた。


「よし、今日は並行して色々確保していこう」


まず考えるべきは生命線、水だ。


女神様の加護のおかげで水は生成できるが、せいぜいコップ一杯が限界だ。ゼロからイチを作り出すには、それだけ大きな力がいるらしい。飲み水程度ならともかく、都市建設には大量の水が必要になる。自然の水源を確保しなければ話にならない。


それより先に、やるべきことがある。この広場全体に魔物避けの加護を付与しなければならない。


セントラルフォレスト。それは主要五種族がそれぞれ放棄した危険地域だ。災害級の魔獣がそこら辺を歩き回っており、ここに足を踏み入れた者は死亡扱いになるほど。故に誰にも開拓されたことがない。


昨夜の咆哮が、その言葉に重みを与えていた。


女神様たちでさえ、なぜ魔獣たちがここまで強くなったのか原因が分からないと言っていた。それほどの異常が、この森には起きている。僕がここに来られたのは、加護と神器があってこそだ。油断はできない。


「よし、まずは水だな」


朝一番の地形把握で確認している。北へ約2キロ、川がある。


「行ってみよう」


斧をワールドビルダーに戻し、広場を後にする。昨夜の咆哮の余韻を胸の隅に感じながら、セントラルフォレストでの二日目が静かに始まった。

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