多忙な人たち
護衛を始めてから二週間ぐらいが経った。
桃華の送迎は翔とツキサ、時々他の人達に任せている。
本当だったらウチもしないといけない…のに、幹部に昇格してから部下選び、会合への参加、他の任務。
忙しい。とにかく忙しい。
今日は帰りに、香織さんのところに行かなきゃならない。
「はぁ〜」
深い溜息をつきながら、今日も学校に向かって行った。
*****
「そういえば、今日よね?夢歌ちゃんが来るの?」
そう美華が聞いてきた。
「あぁ、そうだ。」
「もう大丈夫なの?」
心配そうな顔で聞いてくる彼女に「わりとな」と返す。
「わりと、ね…。翔からもたまに様子を聞くけど、やっぱり不安なのよね…」
「一応、翔くんには常に薬を持たせている。もしもの場合があっても、彼なら止められる。」
「ほんと、我ながらすごい息子だわ。あの子ったら『好きな女ぐらい守りたい』って言ってたのよ。」
美華はすこし誇らしげな表情をした。
確かに翔くんは自慢の息子だなと思いながら、コーヒーを口に運ぶ。
「でもツキサちゃんには持たせなくてもいいの?事情は説明しないで持たせとくっていうのは?」
「ツキサには夢歌を止められない。1つ目、強さの問題だ。夢歌とツキサだったら夢歌の方が強い。夢歌と翔くんだったら夢歌の方が強い。だが、男女の差で一番張り合える。無理やりにでも飲ませれるかもしれない。」
患者のカルテを確認しながら、またコーヒーを飲む。
「そして、2つ目はツキサは夢歌を崇拝している。夢歌が壊れたら、彼女は自分を責めるだろう。その原因のきっかけを知ったらな。この2つの理由からツキサには薬を渡していない。」
そう言うと納得したように、美華は頷きながらチョコをつまんだ。
すると、いきなり_バンッと机を叩き、
「それにしても!アンタの旦那は一体何を考えているのよ?!なんで、夢歌ちゃんをあの隊に入れたのよ?」
急に大声を出す美華に「落ち着け」と宥める。
その事については、私も思うところがあった。だから、
「私も、聞いた。『なぜ、彼女がいた隊にわざわざ入れるんだ』と。夫は、『彼女がいた隊に夢歌を入れたほうが、彼女も喜ぶじゃろう』だってさ。」
「そんなこと、」
「『そんな事間違っている。』私もそう思ったよ。けど、夢歌は引き受けた。そこにぎゃあぎゃあツッコむ方が逆に彼女の死を思い出してしまうかもしれない。」
「そうね…」と苦しそうに顔を歪めた。
私も、きっと同じような顔をしただろう。
薬に頼らず、彼女を忘れようと…いや考えないようにしている夢歌はとても不安定だ。
いつ壊れてもおかしくはない。
「さぁ、仕事に戻るぞ。こっちは朝から夜まで休みがないのだから」
そう言うと美華は顔をまじまじと見つめ、
「香織さん?アンタ今日で何徹目?」
「5、6徹ぐらいかな?」
「…今日は寝なさいよ。コーヒーももう飲まない!!」
と、コーヒーを取られた。
「仕方ないだろう〜。私はこっちにもあっちにも患者がいて、多忙なのだから」
コーヒーを取り返そうとすると、
「しばらく、患者さんは来ないから休みなさい!」
と怒られてしまった。
*****
「香織さーん、来ましたよー!」
カウンターに行き、呼んで待つ。
いつもより人が少なかった病院内。
すると、翔のママ。美華さんがきた。
「あら!夢歌ちゃん!いらっしゃい。今、香織さんを休憩室のベッドに寝かせているから。まあ、たぶん起きてると思うけどね。」
そう言って、仕事に戻っていった。
休憩室に行くと、タブレットをいじりながらベッドに横になっている香織さんがいた。
すぐ、こちらに気づき
「やあ、夢歌。元気かい?」
と言われたので、
「こんにちわ、香織さん。元気ですよ。だけど、忙しすぎて疲れてはきてます。」
「そうか。」と言って、そこから色々話した。
部下は誰にしたとか、香織さんが欠席していた会合での内容など。
気づけば、もう午後6時過ぎで帰る時間になった。
帰る間際、「夢歌。」と呼ばれたので振り返ると
「私たちはいつでも相談に乗る。困ったらいつでも頼れ。私でも美華でも…」
ウチは
「大丈夫ですよ」
と笑って返した。
それでも香織さんは不安そうな顔をしていた。
「香織さーん!ちゃんと寝てくださいねー!」
と大きな声でいうと、クスッと笑ってくれた。




