車窓2
電車がついに動き出す
車窓から覗く駅の階段には誰もいない
誰かが駆け上がってくることもない
私は緊張を解いて
深く安堵の息をつく
気分は明るい
私は心に残る“未練”に勝った
あの人への未練が残っていたのだ
けれど──“あの人は来なかった”
それが彼の答え それだけのこと
◇
流れゆく車窓を眺める
見慣れた田園風景が
遠ざかっていく
切符を握りしめる
今から私は
自分のために生きる
田舎の因習と
親や親戚のしがらみに
虐げられ利用され
顔だけが美しい妹と
散々比べられ差別されて
すべてを奪われた
恋人だったあの人さえも
でもそれは
あの人の優柔不断さが
招いたことだけど
愛していたのは確かだったから
唯一あの人にだけ
私は“出かける”ことを告げた
どうやらそのことを
私の両親や妹 親戚衆には
伝えなかったらしい
だから駅には
誰も来なかったのだ
向こうは今頃大騒ぎだろうけど
彼の罪滅ぼしか知らないが
もう私には関係のないこと
建物が多くなっていく
そう都会へ
でも私が選ぶ先は都会ではない
国を出たその先だ
本来の自分らしさや自由を求めて
……
……
……
あれから五年が経った
私はとある王国にいる
伯爵家の令嬢専属メイドとして
お嬢様の教育も兼ねた
世話役を務めている
お嬢様はなかなかの
おませな子だけど
可愛くてたまらない
あの頃の私には到底
考えられなかった
自分の将来──
毎日が大変で忙しいけれど
とても充実して楽しい!




