第十章 クッキーで人を釣る漁師になろうかという乙女達の夜会話
第十章 クッキーで人を釣る漁師になろうかという乙女達の夜会話
「……それで聖戦ですか」
十数分後の園長室。シスターは、なつきから神の国で起こった事のあらましを聞いて呟いた。
「ため息とか、つかんでもええやん。ああ、そんな呆れた顔せんといて!」
大量の言い訳まじりの報告を終えたなつきは、シスターの態度を見て慌てふためく。
「私の表情から気持ちを推察できるなんて、さすがなつきさんです。しかしどうしましょう?」
園の出納帳を見ながらシスターは盛んに首を傾げている。
「長い付き合いやものね。大まかな気持ちぐらいなら、そらわかるわ。で、そんなに悪い状況なん?」
なつきは分からないなりに手伝おうと出納帳を覗き込む。
「世知辛い世の中と申しましょうか。いえ、私達はいまだ試練の只中にいるということなのでしょう」
手を組んで神に祈りを捧げるシスター。
「寄付も足りへん状態なんやね。まあケチなのは市民マインドやし。大手を振って寄付する事も出来へん人も多いし」
悪い笑いをしながら帳面を眺めるなつき。
「いけません! 隣人を悪く言うなどとは! 反省してください!」
シスターの目が少し開く。
「ああ、悪かったわ。でも、その隣人の心と共になかったから、院の修理もままならへんのやと思うんです」
言いにくそうに口ごもりながら、なつきは発言した。
「おお、神よ。彼女を外の空気に触れさせたのは間違いであったというのでしょうか。このように悪口を振りまくような者になってしまうとは!」
なつきの為に神に祈りを捧げるシスター。
「ちゃうねん!」
なつきは叫ぶ。
「何がちゃうねんですか! さあ、あなたも祈りなさい」
シスターは、床に膝をつき、新たに祈り始める。
「わかりました」
この状況ではなつきも同じように祈らざるを得なかった。
その夜。なつきは、なかなか寝付けず深夜ラジオを聞いていた。
「コンコン」
なつきの寝室の扉を叩くノックの音。
「はいー、誰ー? 入ってきてー」
ラジオから流れる歌のメロディに合わせてなつきは答える。
「相変わらず下手ねえ」
苦笑しながらドアを開けたのは園子だった。
「うちの歌は玄人志向なんや。分かる人にしかわからへん」
口をとがらせるなつき。
「まあ、こんな時間に歌うのは、上手かろうと下手だろうと安眠妨害には変わりないけれどね!」
園子は、ニヤリと笑いながらベッドサイドにあるラジオの電源を切る。
「その、下手なのが結論みたいな言い方! 腹立つわ!」
なつきは、ラジオの電源を入れなおす。
「まあ、話をしに来ただけだから、ラジオ程度がついていようが構わないわ」
園子はラジオの件は諦めて、勉強机の前にあった椅子に座った。
「で、聖戦の話? いや、まいったわ。シスターに怒られたんやけどね」
ラジオから流れてくるブルーズに器用に鼻歌を合わせながら、なつきは今日シスターに襟を正された事を語った。
「へえ、あんたらしいというか、らしくないというか。まあ、ぶっちゃけ聖戦の話なんだけどね」
メガネの位置を正す園子。
「うちらしくないって、何?」
なんとなく気になったなつきは園子に尋ねた。
「あら、細かい事にも気が向くようになったのね。口が裂けてもここいら辺の流儀に合わせようなんて言わないでしょ」
嫣然と笑う園子。
「シスターは分かってくれへんかったけど、園子は分かるんか?」
ベッドから立ち上がり、園子に顔を近づけるなつき。
「あんたが何をしようとしているのかは知らないわ。理解できるのは、地元の隣人に寄り添うって所よ。シスターは、関東から来たから長年住んでいても理解できなくてもしようがないと思うのよね」
園子は、腕を組みながらうーんと唸る。
「まあ、何とかクッキーで利益出されへんかなと思ったんや」
園子に倣って腕組するなつき。
「ある意味シスターは正しかったかもね。わりと罰当たりな考えだと思うわ、それは」
園子は苦笑した。
「普通に募金活動してたらあかんと思うねん。でもチャリティクッキーやったらどうやろう?」
シスターに言いたかったことを、なつきはここで言った。
「なるほど。理にはかなっているかもしれないけれど。どうやってシスターを説得するのかしら。あんたは失敗しているし。それに説得が必要なのは、シスターだけじゃないわよ」
園子はいじわるそうに笑った。
「えっと、ああ、聖戦中やったな。少なくとも道代には動いてもらわんとあかんしなあ」
頭をボリボリと掻くなつき。
「あの子、飽食以外の神の教えには割と忠実よ?」
言い含めるようにして園子は囁いた。
「うーん確かに! それ以外でも、ジェーンは堅物やし、未央ちゃんに勝てるヴィジョンが見えへん!」
少し舌をだしておどけるなつき。
「ふーん、私は?」
少し唇をセクシーにとがらせて園子は不満をあらわにした。
「園子は、手伝ってくれる感じやん!?」
慌てながら園子の手をとるなつき。
「釣った魚に餌をあげなければどうなるか、知りたいようね」
勝利者の笑みを浮かべる園子。
「待ってや、うちにあげられるもんなんてない!」
なつきは、小動物的な目をウルウルさせる。
「まあ、いいわ。いきなり答えが返ってくるとは思ってなかったし。それがいきなり得られたのだから良しとしましょう。彼女達は、私が説得を試みるわ。だからあんたは分かってるわね?」
薄くつけられた照明が、園子の顔に影を落とす。
「シスターさんやな。ま、まかしとき!」
なつきは自分の胸をバーンと叩く。
「まあ、頑張って」
園子は自らの部屋に去って行った。
「仲間というもんは、ええもんや。よし、目的ができたならそこに進むだけや!」
なつきは、すっきりした気持ちで眠りにつく事ができた。




