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7 年末調整

青山君は年末調整のための申告書が配られたかと思うと、直ぐにハンコを押して事務担当に返しに行った。それを見ていたノムちゃんが青山君に声をかける。

「あれ?早いね。もう書き上げたの?」

「書くことがほぼないんです」

「配偶者控除とか扶養控除とかは?」

「あぁ、共働きですし、子どもは相方の扶養に入ってますから」

「相方さんの?」

子どもが生まれた時、その子どもは、両親どちらかの被扶養者になる。ただ男の人の扶養に入れるのが一般的だ。うちの会社だと、女の人が「子どもが生まれたから扶養親族に入れたい」と言うとシングルマザーじゃなかったら、夫の扶養に入ってないことや夫より所得が多いことの証明書を毎年出せと言われて実に面倒くさいと聞く。

「相方さん、お給料いいの?」

「自分よりは高級取りですよ」

「へぇ」

相方さんはバリバリのキャリアウーマンなのだろうか。そう言えば子どもの三者懇談青山君が行っていたなと思い出す。子どもの為に早く帰りたいと言っていた時は、すごい子煩悩なのかと思っていたけれど、相方さんがバリバリ働く為なのかも知れない。

「保険とか年金は入ってないの?控除があるでしょ?」

「団体扱いなので既に印字されています。便利ですね」

「・・・なるほど」


今日はもうすぐ産休に入るノムちゃんの壮行会っぽい女子会ランチをいつもの店でやっている。そこで気になったさっきの会話について聞いてみることにした。

「青山君の相方さんってバリバリのキャリアウーマンなのかな?」

「さっきの話からするとそんな感じやね。どんな人かなぁ」

ノムちゃんも同じようなことを考えていたようだ。ちょっと不満に思う。

「もうちょっと突っ込んで聞いてくれても良かったのに。相方さんの情報」

ノムちゃんは苦笑した。

「あれが精一杯なの!あれ以上突っ込んだら、もう何も喋ってくれなくなるんだから」

ノムちゃんによれば青山君は個人情報的なものを一切洩らさないらしい。

「住所どころか交通機関、何使ってるかすら教えてくれないし」

そう言えば美容院へ一緒に行った時も、何処かに寄って帰るとか言って、店の前で別れてしまったなと思い出す。

「青山君の個人的なことでわかってるのは、結婚してること、娘さんがいること、娘さんは相方さんの扶養に入っていること、最近、義理の姪が結婚したこと、くらいなもんよ。あ、食べ物の好みは聞いたことがあるような・・・忘れたけど」

「SNSで発信しちゃダメなやつは何一つ洩らさないって感じですね」

「なるほど」

「個人を特定されたくないってこと?」

「本人は本名で顔見せてるのに?」

みんなは顔を見合わせる。フォークを皿に置く音だけが微かに聞こえる静かない時間がほんの少しだけ訪れた。

「家族を特定されたくないってこと?」

「・・・もしかして相方さんが有名人だったりするんでしょうか?」

「それ、それだ!きっと!」

急に勢いこんでみんなが喋り出す。意外と娘さんが有名人?とか、相方さんが有名人なら歳の差姉さん女房も頷けるとか「青山君が有名人な家族を隠したい」説で大いに盛り上がった。


「たまちゃん、青山君の個人情報、暴いちゃダメだよ」

店を出たところでノムちゃんに釘をさされた。でもノムちゃんの目は悪戯っぽくキラキラしている。

「でも、青山君の新しい情報がわかったら、私にも教えてよね。産休入ったら置いてきぼりはヤダから」

凄いこと頼んでくるなノムちゃん。でもその気持ちわかるから情報提供してあげるよ。

肯定の意味を込めてノムちゃんににっこりと微笑んだ。

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