5 結婚ラッシュと出産ラッシュ
「青山くん、髪型変えて良かったね」
ノムちゃんが青山くんに話かけている。それを見て間に割り込んだ。
「でしょ?」
「たまちゃん、ドヤ顔」
ノムちゃんに笑われてしまった。でも青山くんが格好良くなったのは事実だし、それは私が美容院に連れて行ったおかげなのだから、私の功績としてちょっとぐらい自慢してもいいと思う。
「青山くん、奥さんに髪型褒められたやろ?」
「あー、奥さんというか、相方は散髪したんやなって程度の感想でした。娘は似合ってると言ってくれましたけど」
青山くんは奥さんの事を相方と言うようだ、とはノムちゃんに聞いていた。面白い表現だと思う。
「相方って言うたら漫才コンビみたい」
「夫婦漫才ってのもあるやん」
ノムちゃんの意見にちょっと想像してみる。でも青山くんはどちらかと言うと無口な方だから、丁々発止なやり取りは想像できない。
「家で夫婦漫才よろしくボケ、ツッコミの会話してるん?相方さんがおしゃべりな感じ?」
「相方は自分より無口です」
なんだか暗そうな家だ。
「シーンとしてるん?」
「娘が一人で喋ってます」
「あぁ、何となく想像できる」
幼稚園の姪っ子が一生懸命いろいろ喋るのを思い出す。判っているのかいないのか不明な聞きかじったような言い回しをやたらと使いたがって面白い。簡単な相槌と話を促す合いの手でいつまでも喋っているが、それが無茶苦茶可愛いのだ。きっと青山くん家でも、娘さんの話を青山夫妻がウンウンと静かに聞いているのだろう。その微笑ましい光景が目に浮かぶようだ。
「子どもって可愛いやんな」
「野村さんももうすぐですね」
青山くんに言われてノムちゃんは大きくなったお腹を撫でた。
「予定日まであと2ヶ月。あとちょっとで産休に入るからね」
「働いている人は無理しがちで早産になる人も多いようですから気をつけて下さい」
青山くんは優しい表情でノムちゃんを見た。普段は無表情に近いから極たまにしか見れないそんな表情にドキッとしてしまう。きっと奥さんもコレで落とされたんだろうな。
初めてこの表情を見た時は青山くんがノムちゃんに横恋慕してるのかと思った。でもそのうちノムちゃんだけでなく他の人の赤ちゃんの話をしている時もそんな顔になる事に気がついた。
「青山くん、子ども好きやね」
「娘が小さい頃は・・・赤ちゃんの頃は何しても可愛かったですね。恐ろしく手がかかるので大変でしたが」
あぁもう間違いない。青山くんはかなりの子ども好きだ。でもって、きっとかなりのイクメンだ。
「あぁあ、可愛い娘さん、羨ましいなぁ。最近、友達の間で出産ラッシュでさ」
「ちょっと前は結婚ラッシュやったからね」
ノムちゃんが笑う。ブームに乗り遅れてないノムちゃんは良いけど、とちょっと卑屈な気分になる。
「そうそう、毎月のように結婚式やら二次会やら・・・今も多いし。祝儀貧乏もええとこやわ」
「ちなみに最近の披露宴って、どんな格好で行く人が多いんですか?・・・あの、女の人で・・・そんなに若くない人の場合は」
青山くんが珍しく会話を膨らませるような発言をする。
「スーツかな。ビジネス用じゃなくて子どもの入学式とかでも着れそうなやつ」
「式場で着物レンタルってのもあるよね。もうそろそろ涼しくなってきたし」
「それ、おばさんちゃう?まぁ、着付けも式場でやってくれるから、めっちゃ便利やろけど」
「着物か」
何か考えるような表情で呟いた青山くんを見てノムちゃんと目配せした。
「青山くん、相方さんと披露宴に招かれてるん?」
「ええ、まぁ」
「お友達?」
「親戚で。自分はそういうとこ、苦手なんですけど。仕方なく」
青山くんの眉間にちょっとシワが寄る。どうやら相当に嫌なようだ。
「妹さんか弟さんが結婚されるん?」
「相方の姉の子です」
衝撃の事実にノムちゃんと顔を見合わせた。ウチの親なんて還暦がもう直ぐそこに見えているような年齢だ。たとえ20歳で子どもを産んでその子が20歳で結婚したとしても40歳。その人の妹である相方さんは、一体、いくつなのだろう。かなりの姉さん女房?それとも子だくさんの長子と末子で10歳くらい離れているとか?
問い詰めようと思ったら青山くんが係長に呼ばれたので話はそこまでになり、そのまま聞こうと思っていた事も忘れてしまった。




