第108話 転魂前 その14 (終)
(あのマリエッテが裁かれた?マリエッテが……?)
衛兵たちに連れていかれるマリエッテを見送ったあと、レティは思わずぺたりと座り込んだ。
「ほら、だから言ったでしょう。マリエッテなんて怖くないって」
力なく座り込んでしまったレティシアに紗良が手を伸ばし、男性姿の紗良は微笑んだ。レティがその手を受け取る。
なぜ紗良は自分にここまでしてくれるのだろう?
こんな私なんかのために、城にまでのりこんできてくれて、そして物語にでてくる王子様のようにレティを救ってくれた。
もしかしたら自分も捕まってしまうかもしれない可能性だってあったのに、それでも会って間もない自分のために彼女は戦ってくれた。
「さ……」
レティが思わず紗良に質問しようとしたとき。
「レティシア」
別方向から声をかけられ、思わずレティと紗良はそちらに視線をうつす。
「クライム先生」
マリエッテが衛兵につれられて引きずられていったのを確認したクライムが、レティと紗良の前にたつ。
「ありがとうございます、先生のおかげです」
レティがクライムに礼を言うと、クライムは首を横にふって
「私は何もしていない。……そちらの方にお礼をいいなさい」
男性姿の紗良に視線を向けてクライムが言う。
「いえ、こちらこそ。あなたの援護のおかげで助かりました」
紗良が笑って言うと、クライムがおもむろに紗良に頭を下げた。
「え!?」「先生!?」
「この子は不器用だが真面目で勉学にとてもまじめに取り組んでいた、優秀な生徒です。
……どうかよろしくお願いします」
そう言って、レティにブローチを差し出した手に握らせる。
青い琥珀色の綺麗なブローチにレティはわけがわからず思わずクライムとブローチを見比べた。
「先生?」
「君があのような嫌がらせをされていたことに気づかなくて申し訳なかった。
学園をやめて国を出るということも聞いている。
……一教師としてはとても残念ではあるが、君の今の状況を考えれば他国に避難するのは賢明な判断だろう。このような事になってしまった以上、クランベルダ家に連なるものに嫌がらせを受けるのは避けられない。このブローチはランス家が身元を保証するものだ。これをもっていけば門を超えることもできる。これをもって逃げなさい」
「よ、よろしいのですか?」
レティは差し出されたブローチを見て驚く。
身元を保証するということは、クライムはレティの行動に関して一定の責任を負うことになる。クライムはそれだけレティを評価していてくれたということなのだ。
「ああ。君が真面目で、思慮深いのは誰よりもよく知っているつもりだ。
君の未来に幸あらんことを」
そう言ってクライムはレティにブローチを握らせると、紗良に視線をうつす。
「私が言える立場ではないかもしれないが、どうかこの子をお願いします」
「……はい、もちろん」
そういって、紗良が手を差し出すと、クライムが微笑んで紗良の手を握り返した。
その姿に、レティは涙がこぼれそうになる。
今まで、マリエッテの後を追うだけで――自分は誰にも認められていないと思っていた。
だからそれが寂しくて、さらにマリエッテにすがってしまっていたけれど。
自分が心を閉ざして周りを見ていなかっただけで、優しく見守って自分を認めてくれる人はちゃんと周りにいた。
孤立してしまっていたのは誰でもない。レティ自信のせいだった。
その事実に、嬉しくて泣きそうになるけれど、レティはぐっと涙をこらえる。
こんなところで泣いている時間はない。
「よかったね。レティ」
そう言って背をさすってくれた紗良の言葉にレティは涙をこらえて頷いた。
「はい、ありがとうございます。先生……紗良」
「さぁ、行こう。今度は貴方のお父さんを助けないと」
「はいっ!!」
そう言って紗良はレティの手をとって駆け出した。
レティはその手をしっかりにぎりだして一緒に走り出す。
いままではあきらめてしまっていたけれど、今世は違う。
ちゃんと信じよう、紗良やメリルさん、優しい人々を、そして何より自分自身を。
今度のループ――このループでこそ、父を助け出して幸せになると誓いながらレティは走る。
その先にある未来にあるものを知ることもなく。
~終わり~











