第109話 閑話(グレン視点)
世界なんて腐っている。
不条理でそれでいて理不尽だ。
どんなに才能があろうとも、魔力が巨大であろうとも出自が卑しければ学ことも、職につくことすら敵わない。
自分は魔力が高く、魔法を扱う技術も秀でていた。それでも、身元が保証されていない孤児など雇う事はできないと、働き先すらなく、兄弟のように育ったリカルドと浮浪者のような生活を送ることを余儀なくされた。
センテンシア領の孤児院にいたころはそれでもまだ幸せだった。
自分たちを孤児院にひきとってくれた大神官様に家族のように育った妹たち。
彼らのためならばどんな苦労をしても厭わなかった。
けれど幸せな孤児院生活も領主様に新しい奥方がきた頃から、歯車は狂い始めた。
孤児院の世話をしていてくれていた大神官であるラディウス様が奇病にかかり、神官職を解任され、グレンたち含む孤児院の子どもともども神殿を追い出されたのである。
そこからはグレンの人生は転落するばかりだった。
ラディウスやリンやロロ達のためにと、ラディウスと仲がいい他領にある商会に働きに出てしばらくしたのち、ラディウスやリンやロロが領主様を殺そうとしたという罪で死刑になったと知らせがはいったのだ。
グレンやリカルドも犯罪者の紹介の子をそのまま雇うわけにはいかないと働き先で解雇されることになる。
いくらラディウスがそんなことをするわけがないと訴えても、孤児院の子の言う事などと誰も耳をかしてくれる者はいない。
それどころかかつて同僚だったはずの何人かがグレンとリカルドをセンテンシア領に犯罪者として引き渡し報奨金をもらおうとしていたのだ。
グレンとリカルドは結局働いて少しばかり慣れてきた領地からも逃げるしかなかった。
身分を証明してくれていたラディウスの死によって、グレンやリカルドはまともな職につくことすらできず、浮浪者として各地を転々とすることになった。
そしてやがて、裏の仕事にまで身を沈めてしまうようになる。
そんな中――。
王都で仕事する際に学園で勉学をする子供たちの魔法訓練を見かける事ができた。
あこがれの魔術学校での魔法訓練。
その様子が見れるとグレンは心躍らせた。
犯罪に手をそめてはいたが、このころのグレンはまだ学園に対する敬意は残っていたのかもしれない。
けれど、その夢も敬意も学園の訓練を見たことで、失望へとかわってしまう。
(なんであの程度で、学校にはいれるんだ?僕のほうがすごいじゃないか)
エリートクラスといわれる貴族の生徒たちの野外訓練は、グレンから見ると子供だましの魔法にしか見えなかったのだ。
なんであんなレベルで魔術学園のエリートなんだろう?
あの程度のレベルなら、僕だってはいれたはずだ。
氷魔法だってあの程度のことはできるじゃないか。
才能も魔力も僕の方がずっと上。
なのになんで認めてもらえない?
もし学園にはいれていれば、いいところに就職ができて、王都にラディウス達を招くこともできたはず。ラディウスもリンもロロも死ぬことなく、リカルドにだってこんな苦労をさせることはなかった。
なんで学園に入れなかった?
身分。そうだ身分だ。
僕とリカルドがいまこんな不幸なのも。
誰もラディウス様やリンやロロ達の無実を信じてくれないのも。
ただ生まれが平民で貧しかっただけでこんな事になっているんだ。
この瞬間、グレンの中で魔術学園にたいする羨望はやがて憎しみへと変わった。
グレンの中で渦巻いていたどす黒い感情だけがどんどん大きくなっていってしまう。
だから引き受けた。
学園の子供たちを誘拐して、盗賊団に引き渡す裏仕事を。
ろくな末路が待っていないということがわかっていながら、彼ら(学園の生徒)の命を金にする仕事に手をだしたのだ。
そう。間違っていない。
間違ってなんかいないはずだ。
チャンスは一度。
野外活動で馬車で移動中の子供たちを森の中で襲う。
自分の氷魔法なら複数の相手でも問題ない。グレンにはそれだけの才能がある。
学園の子供たちを捕まえて、盗賊に渡すだけだ。
自分は何も悪くない、貴族というだけで、のうのうと学園生活をおくっているやつらなんて苦労すればいいんだ。
震える手を抑えながら、学園の子供たちが乗る馬車の列を襲撃しようとしたその瞬間。
「グレンっっ!!!」
がばっと肩を抑えて揺さぶられそこで目を覚ました。
「え?」
グレンが目を覚ますと、そこは学園の生徒が寝泊まりするいつもの宿舎だった。
ルームメイトの友達が心配そうにグレンの顔を覗き込む。
「大丈夫か?だいぶうなされてたぞ?」
友達にそう言われて、グレンは全身にものすごい汗をかいていた事に気づき、あわてて汗をぬぐう。
「うん、大丈夫、なにか怖い夢を見ていたみたいだ」
「どんな夢だよ」
友達に言われてグレンは考え込む。
「すごく嫌な夢だったのは覚えているけれど、内容までは覚えてない」
そう言って、友達にごめんという仕草をすると、友達はやれやれとため息をついて
「将来有望の学園一のエリート様でも悪夢にうなされる事があるんだな」
「すぐそうやって茶化すなよ」
友達の頭をぽすんと枕で叩けば、友達はにししと笑う。
「お前が頑張った研究結果が国に認められて、就職先ひっぱりだこでプレッシャーがあるのはわかるけど、グレンがいままで頑張った結果だろ。
大丈夫、お前ならやれるよ」
友達は枕をぽすんっとグレンの頭にぶつけると、じゃぁなと笑って自分のベッドにかえっていく。
その姿を見送ったあと、グレンは視線を窓に移した。
レティのおかげで学園に入学してから、グレンはひたすら氷魔法や他の魔法の研究にいそしんだ。
塩と水を分離させるという着眼点。
あるものを嘆くのではなく最大限に利用するというレティの言葉。
幼少時のあの時の彼女の言葉がいまでもグレンの行動の原点であり教訓でもある。
センテンシア領の孤児院の子供にすぎなかったグレンに道を指示してくれたのは間違いなく彼女のおかげだ。
世界は希望にあふれてる。
やればやっただけの努力は実って、こうやって形になる。
たとえ身分が低くても、才能があれば認めてもらえるのだから。
何か嫌な夢を見た気もするけれど、きっとプレッシャーからだろう。
大丈夫、今の自分の歩む道は何も間違っていない。
未来はいつも希望に満ち溢れているのだから。
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