リミット
どこかで区切りを付けないと、絶対倒れる。
「……」
私が中々動かないでいると、根負けしたのか、ヒロシさんが言った。
「……ダメやな、一旦やめや。 そこのカーペットで1時間だけ休憩や」
1時間……
たったのそれだけ?
休みが終わったら、また1日働かされるの?
それでも、私はヒロシさんの後に続いて、既に仕上がっている室内に入って、敷かれているカーペットに横になった。
ヒロシさんも横になって、明日までの仕事内容を説明する。
「残り2フロアやで。 検査が始まるのは8時やから、8時間である程度終わらせなあかん。 俺なら1時間で1面はいけるから、終わるかどうかはホンマにお前次第や」
「……無理、ですよ」
それってつまり、ヒロシさんと同じペースで作業しろって話だ。
無理に決まってるじゃない。
「明日の検査は35階から、ワンフロア1時間弱で、午前中かけて30階まで下りてくる。 だから、検査が始まるまでの8時間と、検査中のプラスαの時間がある訳や」
ヒロシさんが32階を8時までに終わらせて、その間に私が出来るだけ31階を進めておく。
プラスαが約3時間とすると、11時間で4面以上を終わらせておけば、時間までに間に合う予定。
それでも、私のメンタルはもう限界だ。
つい、思っている言葉が口からこぼれで出た。
「こんなの、絶対無理ですよ……」
「……」
私の目には涙が滲み、とうとう溢れた。
苦しくて涙が出るなんて、今まで生きてきた中で初めての経験だ。
「中学高校の期末テストやないんや。 諦めるなんて選択肢、あらへん。 諦めたら会社潰れてまう」
突然、学校のテストを例えに出して、私は思わず噴き出した。
何か、急に親近感が沸いてくる。
確かに、学校のテスト勉強も1週間前から始める人が多いけど、本当はそれじゃ全然時間が足らないんだ。
ヒロシさんは続けた。
「俺だってな、好きでこんなんやってる訳ちゃうで。 今まで何回辞めようと思ったか分からん。 それでも、現場始まるたび、こう言われんのや。 お前がいなかったら現場回らん、だから、今回も頼むで! ってな」
「……」
そうなんだ。
ヒロシさんは、社長に現場を任されているんだ。
本意かは分からないけど、やらなきゃいけない。
それが仕事なんだ。
ヒロシさんは会社を背負って、ここにいるんだ。
「俺、こんな喋るキャラちゃうねんけどな。 あと55分しかあらへん。 休んどき」
「……はい」
色んな人の人生が、この仕事にかかっている。
私は、ようやく自分のやる気スイッチを見つけた。




