妖刀と、異世界に旅立つ話
お母さんが居なくなって3日。
ようやく落ち着いた俺は、あやかし丸お姉ちゃんと和室で向かい合って座る。
この三日間、全力で世話を焼かれていた俺は、お姉ちゃんに対する警戒心を完全に失っていた。
「では、色々と説明しようかの」
お姉ちゃんがお茶と煎餅を用意する。お茶を啜ってから、
「まず、お主の母が何であんな事をしたか、からだの」
俺は煎餅を一枚取って噛りながら聞く。
「清十郎、お主は心臓の病気であり、死の縁にいた。そんなお主を救おうと、燐……お主の母は、妾、妖刀あやかし丸を使わせる事にした」
ふんふん。
「だが、妾を使う為には生贄がいる。妾と使い手の間に繋がりを作る為に、親しき者の魂を使うのじゃ。」
「それが、お母さん?」
「うむ、妾との繋がりの強さは、生贄にした魂との繋がりの強さで決まる。今、妾と清十郎の繋がりは、かつて無いほど強い物になっておる。それだけ燐に愛されておったんじゃな。……憎んでくれて、よいぞ。
今は落ち着いたようじゃが、辛いじゃろう。妾のこの性質のせいで、お主の母は死んだのだ。言いたい事が有れば、好きに言うといい」
お姉ちゃんが顔を曇らせる。何を言われても仕方ない、そう思ってるのだろうか。
「憎くなんて、無いよ」
お姉ちゃんは、キョトンとした顔をして、
「そうなのか?」
「うん、だって……お姉ちゃんは、妖刀、道具、なんだよね」
失礼かな、とも思ったけど、言いたい事を言えとのことなので、言ってみる。
「道具は、使った人に責任が有る。お姉ちゃんを使うと決めたのはお母さんで、責めるならお母さんで、俺は、お母さんを責める気は無い。
だから、お姉ちゃんも憎くないよ。
泣いてる時に、一緒にいてくれて、好きなくらい」
俺の言葉を聞くと、何がおかしいのか、お姉ちゃんが優しく笑う。
「ふふ、そうか、そうか。どうやら妾は、良い主に恵まれたらしいの。妖刀と使い手の関係を正しく捉えた、良き主に」
どうやら、俺は言うべきことを間違えなかったらしい。お姉ちゃんは嬉しそうだ。
「それよりも、 俺は、母さんに、愛されてた?」
「そうじゃ。愛されておった。じゃから、自暴自棄になって自殺など考えるなよ。母に救ってもらった命じゃ」
「うん、母さんも、生きてほしいって言ってた」
「よろしい」
お姉ちゃんがポンポンと頭を撫でてくれる。
「それで、じゃ。今のままだと、お主は10年後に死ぬ。燐がそれだけしか生命力を持っておらんかったからな。だから……」
ちょっとだけ、言うのを迷って、お茶を啜って喉を潤す。そして続ける。
「だからお主は、人を斬らねばならん。人を斬ってその生命力を吸収する。それが、寿命を延ばす唯一の方法じゃ」
「犯罪だよね、それ」
「ああ、犯罪じゃ。例え斬るのが悪人でもな。この世界でそんな事したら、警察に追われて、二度と安息の日は来ない。だから、その鍵を使う」
俺の首に掛けられた、母さんの鍵が指さされる。
「母さんは、これで異世界に行けって言ってたけど」
「ああ、そうじゃ。その鍵があれば、異世界への扉を開ける。ちょっとばかし治安の悪い世界でな。そこでなら、問題無く悪人を斬れる。お主が生きて行こうと思うなら、そこへ行くしかない」
異世界……異世界かぁ。
今いるこの家から離れるのは、不安だ。
だけど、期待もある。
「ドラゴンとか、いる?」
「おるぞ」
最初に出てくるのがドラゴンだなんて、やはり子供じゃな、とお姉ちゃんが笑う。
「ゴーレムは?」
「おる、丸くて可愛いのから、線が多くてかっこいいのまで」
「魔法は?」
「ある。お主が使えるかは分からんが、魔女とかおる」
「獣人奴隷少女は?」
「どこでそんな言葉を覚えてきたんじゃ」
軽く叩かれた。
「まあ、妾は見たことはないが、居るところにはいるそうじゃ。買っちゃいかんぞ」
「は~い」
獣人奴隷はさて置いて、それは、母さんが言ってたように、俺の好きな漫画のような世界で
「楽しそう……うん、じゃあ行こう!」
「うむ、どうせなら前向きにいかんとな。さあ、準備が出来たら出発するぞ!」
○
色々と必要そうな物を詰めたリュックサックを背負って、俺達は蔵に戻ってきた。
蔵の隅に置いてある古ぼけた薪ストーブ。
お姉ちゃんの指示に従って、これを退かして下の石材の床を見ると、四角く切り込みが入れてあった。
切り込みに工具をねじ込んで床を持ち上げると、地下への隠し階段が現れる。
「セイジュウロウ は 地面を調べた。
なんと 階段が 見つかった!」
階段を下ろうとすると、お姉ちゃんが突然そんな事を言い出した。
「ゲーム、好きなの?」
俺もゲーム好きなので、そうだと嬉しいな、と思い話しかける。
「応、こんな所に閉じ込められての、暇すぎるから何か寄越せと燐に要求したら色々とゲームを置いていきよった」
辺りを見渡すと、古い蔵に似合わずテレビやゲーム機が色々と置いてある。最初に入った時は不気味な雰囲気に感じていたが、気のせいだったらしい。
更によく見ると、PCにゲーム実況用の機材まで繋がっているのが見える。
俺の想像以上にこの妖刀は現代に馴染んでいた。
階段を降りながら、話題を続ける。
「なんかいっつも3TSのすれ違い通信圏内に同じ人がいたんだけど、もしかしてお姉ちゃん?
なんか、補助職オンリーパーティーのギルドカードとか届いてたんだけど」
「ああ、妾じゃな。縛りプレイしてた時期のじゃ」
俺達のファーストコンタクトは思ってたより早かったようだ。
全然運命的ではないけど。
「向こうに行くと、こういうの遊べなくなるのかな」
ちょっと寂しいな、と思う。
剣と魔法の世界もきっと楽しいだろうが、何だかんだでゲームも楽しいのだ。
「……断言は出来んがの、もしかしたら、あるかもしれんぞ、ゲーム」
「え?」
「これから行く世界はな、かなり混沌とした世界なんじゃ。あらゆる世界から人材や物を召喚し続けてるせいで、文明の闇鍋が出来上がっておる。だから、あってもおかしくない」
どうしよう、いいニュースの筈なのに、なんか行くのが怖くなってきた。
「安心せい。妾と清十郎なら、きっと上手くやっていける。さ、着いたぞ」
結構長かった階段が終わり、鍵付きの扉が見つかる。
母さんから貰った鍵を挿して、回す。
扉を開けた先は、とても狭い部屋だった。
一辺が1メートル程度で、人が二人入るとギリギリになる。
床一面に、輝く魔法陣が存在した。
「この魔法陣は片道じゃ。基本的には、行ったら帰れないと思え」
足を踏み出し、魔法陣にのせる。ここまで来たなら、躊躇わない。
魔法陣から光が溢れ出し、俺達は、異世界へと旅立つのだった。




