15-極限の集中
機動力に優れるドラッケンが前衛を受け持ち、ゲゼルシャフトが後方から砲撃を行う。理に適った布陣。誘導装置こそなくなったがミサイルの脅威はいまだ健在であり、弾幕を張られれば恐るべき威力を発揮する。
(シュナイダーはどこだ? どうしてレンが部隊の指揮を取っている?)
疑問は浮かぶが、それを解決している時間はない。親衛隊のドラッケンが迫って来たのだ。騎士盾と剣を携えたのが二機、アサルトライフルを装備したのが二機。計四機のドラッケンがイスカを討つべくして突撃して来た。
「ちっ!」
『そちらの機体はお任せしました。我々は後方部隊を叩きます』
ソルカとアーサーはそれぞれ別方向に分かれ、他隊の支援に回った。イスカとしてもここで四機を引きつけられるなら悪くない、と判断した。肩の補助アームに盾を任せ、二刀を構える。ドラッケン四機はイスカを中心とした円弧を描くように散開した。
正面を取った機体にリボルビングキャノンを撃ち込む。弾速と貫通力に優れたAT弾。受け止めたシールドが吹き飛ぶが、その奥にいた機体は無傷だった。左右の機体から撃ち込まれた弾丸がイスカの回避運動を制限する。逃げた先には剣を両手で構えた機体があり。イスカは力強く振り下ろされた一撃を受け流し、その背後に回る。
振り向きざまに刀をなぎ払い背中を狙った。バックパックを浅く切り裂くものの、致命傷には程遠い。皇帝親衛隊のパイロットが持つ技量は他の機動兵器部隊とは一線を画している。リカバリーが特にうまいのだ。
(こいつらを殺るより、周りを先に削った方がいいか?)
もちろん、敵はイスカが他所に行くことを許しはしない。後方から状況を観察していたレンが跳んだ。天高く跳び上がったレンは斬馬刀をクルクルと回転させ、イスカ目掛けて投げつけた。さすがのイスカもそれには目を剥く、重力加速を得た大質量の得物を弾くことも受け止めることも出来ない。イスカは大きく跳んで避けることを選んだ。
斬馬刀がアスファルトに突き刺さる。細かな残骸が周囲の建物に散弾の如く撃ち込まれる。レンは着地と同時に斬馬刀の柄を手に掛け、引き抜いた。無防備なレンに銃弾を撃ち込もうとするが、左右からドラッケンが妨害に入る。
(大した連携だ……! だがあいつはどこだ? どこに隠れている?)
イスカは奇襲を警戒し意識のすべてを目の前の敵に向けることが出来ない。もしかしたらアッシュは別のところにいるのではないか、とも考えるが、それを裏付ける証拠もない。不確かなことを疑い続けなければならないのだ。
『ここで沈めてやるぜ、キャバリアー!』
レンは力強く踏み込み斬馬刀を振り回す。キャバリアーが装備している実体刀の倍近い刀身を誇る斬馬刀、受け止めることは出来ない。しかも懐が深すぎてなかなか反撃に転じることが出来ない。無理に踏み込もうとすればドラッケンにやられてしまうだろう。
剣持ちを排除しようにも銃持ちが邪魔をする。敵が目の前の四機だけならまだやりようはあるが、後方からの狙撃や奇襲にも警戒しなければならない。レンが考案した、自分を抑えるための策だと分かっていても、対応出来ない。
『お前は一人だ! だが、俺たちは違う!』
「囲んで苛めて、それを誇らしげにいうか!」
『ライオンに集団で挑んでも誰も非難しやしないさ!』
猛獣扱いか、とイスカは内心で憤慨した。
(集中しろ、集中だ。敵に囲まれるなんて何度もあっただろう?)
イスカは呼吸を一つして、精神を落ち着けた。
思い出されるのは木更津基地での戦い。
アラビア半島での戦い。
地中海での戦い。
特にアラビア半島の戦いでは電磁装甲を失い、致命的な一撃を喰らい、本当に死にかけた。
だが、生きている。
なぜ生き残ることが出来たのか、考えたことがあった。
そしてそれは、普段とはまるで違う集中力のおかげだと結論づけた。
(相手の動きを読め。あいつらが何を考えているか考えろ。細かな動き、視線。体は所有者の意志を雄弁に語ってくれる)
極限の集中によってイスカの主観時間が鈍化する。
踏み込み、力任せに剣を叩きつけて来ようとするのが見える。イスカは冷静に刀を振り上げ、剣を握った手の人差し指を破壊した。指の一本も破壊すれば、握りは不完全になる。乱暴な振り方をすれば剣がすっぽ抜ける。
続けて、左側面から剣を突き立てようとして来る敵が見えた。だが踏み込みは浅く、本気で仕留める気があるようには見えない。イスカは更にその後ろに目を向ける。機体の影に隠れ、もう一機のライフルを持ったドラッケンが近付いて来ていたのだ。イスカは左腕を押し上げ、レールキャノンの照準を合わせた。
トリガーを引く。目の前にいたドラッケンの頭を素通りし、電磁加速弾がその後ろにいたドラッケンの胸部に命中。大きくのけ反る。
突きは左脇腹に命中したが、致命傷には程遠い。損傷を無視し、イスカは地を蹴った。目指すはレンの右側面、そこならば射線を重ね、最後のドラッケンから逃れることが出来る。レンの反応は早かったが、イスカのそれよりは遥かに遅かった。すれ違いざまに放った斬撃がドラッケンの右腕を深々と切り裂く。
背後に回ったイスカはその場で半回転、刃を素早く切り返しレンを切りつけた。レンは防御しようとしたが、果たせない。先の斬撃で右腕の伝送系が死んでいたのだ。イスカが振り下ろした刀はドラッケンの肩甲骨あたりに入り、右腕を完全に切断した。
『この、連携を破るか……!?』
「たった一人の力で立てないような奴に、一人の人間が殺せるかよ!」
とどめを刺すべく、イスカは左の刀を振り上げた。が、本能的な危機を感じ攻撃を中断。ステップを踏んだコンマ数秒後にビームが撃ち込まれた。
「隠れていたのが出て来たか……!」
振り向き、イスカは空を見た。ふわりと雪が舞い、風が吹いた。
『海東、イスカ!』
飛来するのはブリッツフント。
イスカは地を蹴り、アッシュを迎え撃った。




