14-白熱の戦場
白の暴風が晴れた十二月二十二日早朝。機動兵器隊は格納庫に集結、既に発進準備は終わっている。隊長、アスタルは全員を見渡して檄を飛ばした。
「いいか、ここでフランスを取り戻し火星人どもをこの星の外に押し返す!」
アスタルの声には怒りが籠もっていた。ソルカのそれとは対照的だった。
「各員の働きが明日の地球の命運を、人類の命運を決定すると心得ろ! 無駄死にはするな、だが命を惜しむな! 我々一兵一兵が平和の礎となるのだ!」
『了解』、と全員が叫んだ。相手を全員殺せば平和になるのだろうか? 住んでいるところが違う人間を、考えが違う人間を。答えなど出るはずはない。
余計なことは考えない、イスカはそう決めていた。下手の考え休むに似たり、頭を悩ませているふりをして休んでいるだけだ。ならば確実に出来ることを、戦うことを。何の意味もないわけではない。この戦いには意味がある、
(優しい人に故郷を取り戻してやるのは……それはきっと善だよな?)
答えるものはいない。とりあえず、正しいのだと解釈することにした。
「キャバリアー、海東イスカ出ます。発進許可を……了解!」
キャバリアー、リフトアップ。続いてアスタル、御堂が。最後に島田たち三人がキャリアーの甲板へと昇る。空が白みかけている、夜明けは近い。
石動は百機以上のバトルウェアがいると言っていたが、イスカの目に映るのはそれ以上だ。防護柵の影に隠れたゲゼルシャフト、その身を晒したドラッケン。それ以外にも首都を覆う防壁の前に一際大きな箱型の物体がある。
『デカい!? なんだ、あいつは! ランドキャリアーですか!?』
『いや、多脚戦車か何かだろう。旧世代の産物だが、あのデカさはただハッタリじゃない。内燃機関を備えており発電能力はバトルウェアのそれとは桁違いに高い。それだけ電磁装甲の出力も高くなる、ってわけだ』
イスカは目を凝らしそれを見た。いまは猫の香箱座りのように両手足を畳んでいるが、立ち上がるとなればあれが伸びるのだろうか、とイスカは思う。見た目はほぼ完全な箱、機体上部には大口径の砲門。死角を消すためのロケット砲やミサイルランチャー、機銃がそこかしこに見える。キャバリアー以上の重装備だ。
イスカたちの襲来を察知し、戦車が動いた。前足を立てて傾斜を作ると、背負ったキャノン砲を発射した。砲弾は曲線を描いて国連軍に飛来する。
『各機、散開! 前衛のバトルウェア隊を片付けろ、後ろの戦車は壁さえなくなれば仲間がやってくれる! 俺たちにしか出来ないことをするんだ!』
遮蔽物の少ない平原、砲弾をかわせるのは機動力だけだ。イスカは横に跳びながらスラスターを吹かし、浮き上がった機体を横に押し出した。数メートル横に着弾、爆発。白煙と衝撃、破片だけでは電磁装甲を貫通出来ない。
イスカは両手のアサルトと砲を連射した。凄まじい鉄量が前面に集中、軌道上にいたものに食らい付いた。弾幕を受けて足を止めた機体を、ソルカとアーサーが撃ち抜く。
『イスカ、あんまり突っ込み過ぎるなよ! フォロー出来る範囲にいろ!』
「それならキッチリついて来てくださいよ、御堂さん」
『お前はまったく……俺の腕も考えろって言っているんだよ!』
御堂は手持ちの大型砲を腰だめに構え撃った。口径160mm、現時点でバトルウェアに搭載されている火器としては最大級。あまりにも巨大な砲弾を自動装填することは出来ず、手動のボルトアクションが採用されている。面倒な分、威力は折り紙付きだ。ゲゼルシャフトの右側面から撃ち込まれた砲弾は肘関節をグシャグシャに粉砕し脇腹を抜け、左腕を破壊して外へ抜けた。
行ける、そう思った時鈍色の空が光るのを見た。イスカは足を止め左の盾を頭上へ掲げる。大量の散弾が撃ち込まれ、足元にいくつもの雪柱を立てた。重力加速を得た散弾はキャバリアーの装甲にさえダメージを与えるだろう。
反撃か。否、防御だ。ゲゼルシャフトたちの影に隠れて接近してくる機体があった。肩にマーキングを施したドラッケン、皇帝親衛隊だ。肉切り包丁めいた肉厚のブレードを装備したドラッケンは一直線に飛び込み、鋭い一撃を繰り出して来た。左脇腹を狙って振るわれた一撃を、イスカは右の盾で受け止める。
(こいつらが火星軍の精鋭……なるほど、そこらのとは動きが違う)
切り返し再度切り込もうとするドラッケン。だがそれは島田の乱入によって遮られる。銃剣を右手で受け止めたドラッケンは後退。逃げる機体をロケットで追撃し、空中の機体にレールキャノンを撃ち込む。どちらもかわされるが時間は稼げた。
「ありがとうございます、助かりました島田さん」
『いいってことよ。それより、こいつら強いな。連携して殺ろうぜ』
もちろん、と言い掛けた時。西の空に光が瞬いた。ほんの数秒前、ドラッケンの攻撃を受けた時とは比べ物にならないほど強い光が。イスカは瞬間サイドステップを打ったが、島田の方は光に反応することすら出来なかった。
光の帯が空の彼方より飛来した。イスカと島田、双方を飲み込むほど強烈な光が。近くにいた二機をまとめて狙ったのだろう、光は胴体に吸い込まれた。ビームによってアクシスの上半身、右半分が溶解。支えを失った右腕が宙を舞い、ボトリと雪原に落ちた。
「ビーム、兵器! あの時盗まれたものから、作られたのか……!?」
また、自分のせいで人が死んだ。イスカは歯噛みした。
ビームを放ったのは青い機体。鳥のような機体は瞬時に人型へと変わった、ブリッツフントだ。右腕には身長に匹敵するほど長大なライフルが握られている。ビームライフルだ。
「アルス・シュナイダー……! また、僕の前に立ちはだかるのか!」
イスカはアサルトを戻し、ビームライフルを抜いた。アッシュもまたビームライフルを構える。両者は同時にトリガーを引いた。光と光がぶつかり合う。




