12-撃墜
(くそっ、なんてスピード! なんて迷いのない突撃! これがブリッツフント、これがあのパイロットか!)
体勢を立て直しつつガトリングでアッシュを牽制。30mm連装ガトリング砲の弾幕に晒され、さしものブリッツフントも回避を余儀なくされた。イスカの予想通り、装甲強度はこれまでのものよりも低いようだ。
更なる追撃を行おうとしたが、断念した。ある程度まで接近したところでドラッケン隊が加速したのだ。一気にイスカたちとの距離を詰めて来る。
(これまでとは動きが違う……慣れたところで動きを変えて来たか!)
加速を終えたドラッケンたちは背負った大きなドラムをバックパックからパージした。増設ブースターユニット、戦闘機などにも使われる装備だ。ジェットエンジンの出力はバトルウェアに音速を越えるスピードを与える。
ドラッケン隊は三機ずつに分かれた左右に散り、十字砲火を展開してくる。イスカはシールドを肩の補助アームに取り付け、刀を抜く。アームによって固定された盾はアサルトの弾を効果的に防ぐ。低下した前面防御力は自分の腕で補う。人型とは思えないほどの俊敏さでジグザグ飛行を行うアッシュをイスカは撃った。
『この前は倒せなかったが……今度こそ私は!』
「そう言って何度仕損じて来た! いい加減諦めろよ、無理なんだ!」
『諦めぬ限り、この命ある限り、何度だって挑むことは出来る! やり直せるんだ!』
ビームライフルを連射、しかし一発としてアッシュには届かない。再び距離を詰めて来たアッシュは真正面から袈裟懸けに剣を振り上げた。イスカは左の刀でそれを受け止める。先ほどの一撃よりも当たりは弱い。スピードを求めて軽量化を行った結果、重みが足りないのだ。キャバリアーの力で十分止められる。
そう思った瞬間、カメラにノイズが走り衝撃が機体を駆け巡った。
「パンチ……!?」
無手の右で打撃を行って来るとは思っていなかったので、イスカはパンチを真っ向から受け止めてしまった。関節の柔軟性を考えれば、火星製のバトルウェアではパンチの衝撃で自損する可能性が高い。だからイスカはそれを考慮の外に置いていた。しかし。
(金と時間をかけた新型、そこの問題点を解決しているのか!?)
出力や機動力だけではない。サスペンションやセンサーなど、細部に渡って改良を加えているのだろう。恐るべき火星の技術力。
目潰しを受け混乱したイスカ。アッシュは冷静剣を振るい、右腕の関節部に刀身を滑り込ませた。命中部分が圧潰、破片を撒き散らし電流を迸らせながらライフルを握っていた右手が吹っ飛んだ。これ以上の追撃を受けるわけにはいかない、イスカは左腕でコックピットを守りながら後退した。アッシュが追撃の弾丸を撃ち込む。衝撃が機体を貫いた。
『海東! 海東、無事か! どうなっている!』
「僕は大丈夫です! けど、腕を落とされて……くそっ、回収された!」
『なにっ!? ライフルを!』
落ちて行く腕をドラッケンの一機が空中でキャッチ、離脱しようとする。左の補助アームが動き、足元の機体にレールキャノンの照準を合わせた。だがそれをアッシュが、僚機が許さない。ドラッケンの張った弾幕がイスカの攻撃を妨害。その隙にアッシュが組み付く。オリバセウス隊の砲火がドラッケンたちを狙うものの、牽制程度の役割しか果たせていない。
「あれを火星が手に入れたらどうなるのか、考えたことはないのか!」
『……両軍が滅びの火を手に入れるよりはよっぽどマシだ!』
「大人しく滅ぼされろっていうのか! やっぱりお前は火星人だよッ!」
アッシュは特に反論せず双剣を振り上げた。イスカはスラスター操作で機体を持ち上げ回避し脚部ロケットランチャーを発射。至近距離で放った攻撃だったが、アッシュは容易にそれを回避した。
(孤立無援の状況……誰か、どうにか手助けが欲しい!)
現実は無慈悲だ。
助けなど来ない。
そして一番欲しくないものが来た。
『接近警報! 7時方向から高速で飛行する物体を確認! これは……』
「何なんだ! クソ、次から次へと!」
アッシュの銃撃をシールドで受け止めながら、イスカは6時方向を確認した。更に迫り来るドラッケン。そして戦闘に立つ別の機体。
「まさか、新型!? 次から次へと、どうなってるんだよ!」
『遅くなりましたな、アルス大尉! これより参戦いたします!』
黒金の機体――ベタラ・ラハムが吼える。
顔立ちはブリッツフントによく似ていた。
尖ったショルダーアーマー、鋭角を多用したデザイン。ブリッツフントと同様の設計者が作ったことは明らかだが、ブリッツよりも一回りがっしりした体格をしている。背部スラスターユニットも大型で、円筒状の筐体から吐き出される青白い噴射炎はより力強い。重量級の機体を飛ばすためのパワーだ。
『新型を、クリンゲフントを任された以上、使命は果たす! そして俺を信じ、俺を取り立てた大尉への恩義に報いるためにも、貴様はここで討つ!』
「どいつもこいつも……そんなに僕を殺したいのかよ!」
レールキャノンを向け、放つ。音速をゆうに超えるスピードを持ってしても、クリンゲフントを捉えることは出来なかった。ラハムは肩越しに剣を掴んだ。それは通常使われる剣よりも遥かに長大な片刃剣だった。鍔のない長ドスめいた長剣を、ラハムは勢いよく振り下ろす。単純で、そして効果的な一撃。
攻撃を逸らすのが精いっぱいだった。ラハムが振り下ろした剣はシールドを固定していた左の補助アームを一刀両断に切り落とした。
『これで、終わりだ! キャバリアー!』
アッシュがスラスターを全開にして突撃してくる。
右の剣を突き出しながら。
刀身がキャバリアーの胸にめり込み、背中まで突き貫いた。




