12-強襲
九月二日。
航海は順調に進み、一行はクレタ島周辺海域まで到達していた。
「きれいな海だけど、さすがに何日も同じものを見ていると飽きるなぁ……」
現在オリバセウスは海面航行モードを取っている。空中を飛べば対空システムに捕捉され、海中を航行すれば酸素とエネルギーの消耗が激しい。ソナーなどに探知される恐れはあるが、現状としてはこれがベストな選択肢だ。
数日間安定した航海を続けているためか、イスカの気には緩みが生じていた。整備班や艦橋の人員と違い来る日も来る日も訓練。ここ一月の間は気分が沈み込むことが多かったのも、それに拍車をかけていた。
「ダメですよ、イスカくん。そんなにだらけていた隊長に叱られる」
「叱ってくれるならそれもいいんですけど、あの人もねえ……」
海上での戦術プランをアーサー副長と練っているのだろうか、格納庫に顔を出さない日も多い。だからイスカとしては、だらけ放題なわけだ。
「国連軍の勢力圏に入ったんだし、敵もこちらにはそうそう攻めてはこないでしょう? 大丈夫ですよ、僕たちが頑張るべきタイミングは終わったんだ……」
「まったく、戦場はどこまでも広がっているんです。確実に安全な場所なんてありません。もし戦闘になったら、イスカくん。キミは一番危険なところにたつことになるんですよ? もうちょっと緊迫感を持ってですね……」
くどくどとソルカが説教をしていると、接近警報が鳴った。
「……ホントに来ましたね」
「来たね。それじゃあ、任せたよ!」
イスカはソルカと別れてキャバリアーへと向かった。
「出撃か。こいつのテストにもちょうどいい、暴れて来るんだよ」
「いや実戦がテストっておかしいでしょう。まあ仕方がないですけど」
ロナはグッと親指を立てる。イスカはため息交じりに機体を見上げた。
イスカの要望通り両手に盾が取り付けられた。右腕には二連装のガトリングガン、これまでのものよりも口径が大きい。左の盾にはやはり二門の砲身が付いていたが、裏面に取り付けられた機構は右のものよりも複雑だ。
「電磁加速装置、いわゆる電磁砲だ。ハンドキャノンより小型化しているけどその分重量は少なく、飛行能力にもそれほど影響を与えない」
「しかし自分で言っておいてなんですけど、盾二つは格闘戦の時邪魔ですね」
「そう言うと思ってた。両肩に補助アームが付いているのが見えるか? 白兵戦に移行する際はあそこに盾を持たせることが出来るように改造したんだ。別に腕をすぼめたり、そんな必要はない。取りやすいように盾も大型化しておいた」
事務所で休憩をしていた夕菜がイスカたちの方を見て、グッと親指を立てた。妹の発案だと考えると不思議と愛着も湧いてくるものだ。
一通りの説明を聞き終えて、イスカはハッチの中へ飛び込んだ。この機体に乗るのも、ほぼ二週間ぶり。だがシートに座ると、不思議と体に馴染んだ。
(こいつに乗るためだけに、いまの僕はここにいるんだろうな……)
イスカは深呼吸を一つした。バックパックユニットを含めた新装備は相変わらず未調整、ぶっつけ本番でやって行くしかない。
「キャバリアー、海東イスカ。いつでも行けます、発進許可を!」
『発進承認。上部ハッチ開きます、御武運を』
形式的なやり取りの後上部ハッチが開き、リフトが上昇した。強い風、ふわりと漂ってくる潮風の匂いさえ感じられるような錯覚をイスカは覚えた。
『六時、八時方向より飛来物を感知した。サイズと熱量、速度から考えて火星軍のドラッケンが六機。そしてその中で突出して速いものがある』
「ブリッツフントと同じくらい、ってことですか?」
『恐らくはそうだろう。敵をオリバセウスに近付けるな』
ザックリした説明だが不足はない。イスカはリフトを蹴って飛翔、背部ウィングユニットを作動させた。青白い炎が噴き出し機体が上昇、機体制御を行うウィングの動きを三対のブースターが助け、加速させる。
『イスカ、翼の調子はどうだ? ちゃんと飛べているか?』
「いまのところ、行きたいところに行ってくれます。仕様上は八時間の連続航行が可能なんでしたっけ?」
『噴射剤が保つのはそれくらいだ。温存しようとすれば二十四時間保つ』
「全力で動くから、もうちょっと減るとは考えた方が良さそうだな……!」
噴射剤が切れた時が、自分が死ぬ時だ。イスカは気を引き締め、目を凝らした。青空にいくつもの黒点が浮かび上がる。火星軍の襲撃者だ。
イスカは右のビームライフルと左の電磁砲を構えた。敵機に照準を合わせ、発砲。ほとんど無音で三つの弾頭が放たれた。弾速の速いレールキャノンは敵機に命中。ビームの光は彼方後方へと飛んで消えた。
(空気抵抗によって威力が落ちている。直撃させればドラッケンの電磁装甲だって一撃で貫く、ってロナさんは言っていたけど……所詮はカタログスペックか)
敵機が攻撃を行えない距離から削る。ドラッケンの装備は大方がシンプル、長距離攻撃を想定していない。エスピル基地で攻撃を受けた一部の機体を除けば。そう考え再度照準を行おうとしたイスカだが、その手が止まる。
なおも速度を上げる機体があるのだ。マッハ2か、3か。いずれにしろ目視による航行しか行えない現代においては自殺行為にも等しいスピードだ。進路に僅かな障害物でもあれば事故で死にかねないほどの。
「このスピード……ブリッツフントか!」
イスカは突出して来たブリッツフント――アッシュに照準を合わせた。だがアッシュはバレルロールめいた動きで攻撃を左右に揺さぶり回避。
そのままスピードを維持しながらイスカに向けて突進。その途中で機体を変形させ、勢いを殺さぬまま居合めいた剣の一撃をイスカに繰り出した。イスカは背部ブースターを全開にし、左の盾でアッシュの剣を受け止めようとした。
『長きにわたる因縁、ここで決着を付けるぞ! キャバリアー!』
重い金属音が響き渡り、キャバリアーは圧力に負けて吹っ飛ばされた。




