表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第三章:熱砂の地獄編
54/121

09-切り開く閃光

 突入作戦は失敗。待ち伏せをしていた敵によって突入部隊は壊滅。これから何が起こる? 血みどろの殲滅戦だとしか考えられなかった。

 けたたましい炸裂音とともに弾丸が吐き出され、イスカを追う。ステップを繰り返しそれを避ける、手持ちのアサルトではこの距離で敵を撃ち抜くことが出来ない。グレネード弾の弾速では、この距離で撃っても当たらないだろう。


『これで終わりだ、キャバリアー!』


 アスタル機の右腕を切り落としたアッシュは即座に反転、イスカの方に跳んだ。イスカは舌打ちし左の刀で刺突を受け流した。銃口を向けようとしたが、アッシュは目まぐるしく立ち位置を変え捕捉を許さない。

 後方でも断続的な爆発音があった。挟撃を受けているのだろうか? アッシュが放った下段切りを跳んでかわし、イスカはアスタルたちと合流した。


「作戦失敗、ってことですよね。とっとと逃げなくていいんですか?」

『逃げられるものならとっくに逃げている。だが、背後も押さえられていてな』


 やはり、そういうことか。後方のキャリアーから火の手が上がるのも見えた。どうやら、今回の襲撃作戦は敵に知られていたようだった。

 イスカはハンドキャノンを取り出し、アッシュ目掛けて発砲。アスタルと御堂がそれに同調し、アサルトで彼を牽制した。アッシュは弾幕に晒されることを嫌い後退、後続のゲゼルシャフト隊と合流を果たした。やはり、うまくない。


(このままじゃ殺される。だが、前も後ろも押さえられた現状じゃ……)


 どうすればいいか考えるが、考えがまとまらない。当然だ、この状況に答えを出すことなど、歴戦の兵士でさえも出来ていないのだから。

 困惑するイスカ。そこにオリバセウスからの秘匿通信が入った。


『こちらヘイゼル・クルーガー。海東イスカ、応答せよ』

「ヘイゼルさん! どうするんですか、これから! このままじゃ……」

『余計なやり取りをしている時間はない。手短にやるぞ、海東。海東機はオリバセウスに帰還、換装を行え。アスタル以下機動兵器隊、死ぬ気で守れ』


 実に簡潔な命令だった。

 次々と疑問が浮かび上がって来るくらいには。


(換装ってなんだ? 取り換えられるような装備、キャバリアーにあったか? それに死守しろって、それじゃあ死ねって言ってるようなもんじゃないか。そうじゃ、そうじゃないだろう? ここから、どうにかして逃げないといけない)


 イスカは迷った。だがアスタルは、御堂は、仲間たちは違った。


『アスタル了解。我々はこれよりオリバセウス防衛に移る』

『そういうわけだ、イスカ! 出来るなら俺たちが死ぬ前に戻って来い!』


 アスタルと御堂は並び合い、リボルビングキャノンを連射した。放たれた圧倒的な質量を前にして、火星軍はたたらを踏んだ。後方ではAA隊が体勢を立て直し、側面から迫るバトルウェア隊へと無謀な攻撃を仕掛けていた。ヘリ隊も高射砲の射角ギリギリの低さで航行し、各方面への支援を行っている。


 みんな戦っている。

 生き残るために戦っている。

 自分は、どうだ?


「……分かりました、ヘイゼルさん! 海東イスカ、帰還します!」


 臆病風に吹かれたのだとは思いたくなかった。仲間を信じるために会えて戻ったのだと、イスカは自分に言い聞かせた。キャバリアーが甲板に飛び乗るのと同時にハッチが開き、イスカをその中に引き込む。一瞬の暗闇の後、広がったのは格納庫を照らす薄暗い光。入るなり整備班が一斉に出て来た。


「よし、お前たち! 正念場だ! 気合を入れてやるぞ、いいな!?」


 ロナの号令に整備員たちは声を合わせた。訳も分からないままにイスカは期待の外に降ろされ、片隅に追いやられた。状況を飲み込めないでいるイスカに、夕菜が寄って来た。


「しばらく休んでいてください、兄さん。ビームライフルを使います」

「ビームライフルを!? でも、あれは完成していなかったはず……」

「試射を兼ねたテストです。実戦でやることではない、と私も、みんなも思っていますが。状況を打開するには、これくらいなければいけません」


 武器一つで果たして状況が変わるのだろうか? 言いかけて、イスカは飲み込んだ。誰も信じてはいない、たった一つの要素で状況がひっくり返るなど。

 ただ、ひっくり返すことが出来なければここで敗北することは確かだ。そうなれば、どうなる。少なくとも、自分の命を他人に預けなければならなくなる。生殺与奪件を敵に握らせることとなる。凄惨な虐殺を行ってきた相手に。


 そんなことは嫌だ。

 だったら、出来る限りのことをしなければならない。


「絶対成功させるよ、夕菜。お前の正しさをみんなに知らしめてやる」

「ええ、そうなることを祈っています。嘘つき呼ばわりされて死にたくない」

「……死なないさ。どんなことになっても、お前は絶対に死なない……!」


 換装が終わるまでの時間は本当に僅かなものだったが、イスカにとっては永遠にも等しかった。キャバリアーの右手にビームライフルがセットされたのだ。


「本当に銃サイズの武器なんだな……あれが……」

「ビームライフル。線状(ライフリング)がないから厳密にはライフルじゃあないんだけど、まあ形と規格からはライフルと言った方が通りがいいな。本体のジェネレーターから動力を引っ張って来るから、現状は右手で持っていないと使用出来ない」


 使い勝手は銃と同じ、ということか。イスカはロナから簡単な説明を受けてから、機体に乗り込んだ。スピーカーからヘイゼルの声が聞こえる。


『海東くん、我々は現在全方位を火星軍によって包囲されている』

「そんな……そこまで追い詰められるまで、どうして分からなかったんです!」

『それについては現在調査中だし、ここにおいては特に意味があることではない。もっとも重要なことは、敵の包囲網の中で一番どこが薄いか、だ』


 モニターに周辺の概略が表示された。当然ながら正面、北側が最も戦力が多く、続けて奇襲を受けた北東。南側もかなり多くおり、北西側が一番少ない。それぞれに一個か二個、大きな反応があり、その数も北西側が一番少ない。


『これは戦力配置図だ。大きな点は火星軍のランドキャリアー……海東くん、ビームライフルを使用し北西のキャリアーを狙撃せよ。敵の司令塔がなくなったことで残存兵力は終結。一点突破で欧州側に向かって撤退していく』

「前に向かって全力逃走、ってことですか。冗談みたいなことを言う」


 しかもテストもしていない最初の射撃が遠距離狙撃だとは。本当に笑えない。失敗すれば死ぬ。本当に笑えない話だ。現実だからかもしれないが。

 リフトアップし、再び戦場へ。アスタルのゲゼルシャフトは両腕を失っており、御堂機も左足に致命的な損傷を追っているようだ。このままではマズい。


(トチればみんな死ぬ、落ち着いて撃て海東イスカ……!)


 イスカはビームライフルを構え、視界にギリギリ映ったランドキャリアーに銃口を向けた。イスカの攻撃を察知したわけではないだろうが、次々とミサイルや砲弾が飛来する。ほとんどはオリバセウスのCIWSによって防がれたが、イスカの周辺にも何発かが着弾。炎が機体を焼き、振動が照準を乱した。


 照準を乱した?

 否、イスカは乱れない。

 死の旋風吹き荒れる戦場。

 海東イスカは彫像の如く静止した。

 その心は明鏡止水の如く。


(――死ね)


 怒りも。

 悲しみも。

 義侠心も。

 憎悪すらもなく。


 その瞬間、海東イスカは人を殺すためのシステムと化した。


 ビームライフルの銃口に光が収束。銃口を中心として白く輝く円と線の集合体が描かれ、幻想的な風景を作り上げる。円の中心から光が真っ直ぐ、敵に向かって伸びて行く。

 矢のように放たれた光は段々と膨張していき、最終的には半径二十メートルほどの太矢(ボルト)となった。矢は軌道上にあったものを、風も、砂も、バトルウェアも、ランドキャリアーすら飲み込み、圧倒的な熱量で焼き尽くした。


「……こ、これは……」


 現実感がなかった。

 自分がこのようなことをしたとは、信じられなかった。

 キャバリアーは確かに、単騎で逃走経路を切り開いてみせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ