09-切り開く閃光
突入作戦は失敗。待ち伏せをしていた敵によって突入部隊は壊滅。これから何が起こる? 血みどろの殲滅戦だとしか考えられなかった。
けたたましい炸裂音とともに弾丸が吐き出され、イスカを追う。ステップを繰り返しそれを避ける、手持ちのアサルトではこの距離で敵を撃ち抜くことが出来ない。グレネード弾の弾速では、この距離で撃っても当たらないだろう。
『これで終わりだ、キャバリアー!』
アスタル機の右腕を切り落としたアッシュは即座に反転、イスカの方に跳んだ。イスカは舌打ちし左の刀で刺突を受け流した。銃口を向けようとしたが、アッシュは目まぐるしく立ち位置を変え捕捉を許さない。
後方でも断続的な爆発音があった。挟撃を受けているのだろうか? アッシュが放った下段切りを跳んでかわし、イスカはアスタルたちと合流した。
「作戦失敗、ってことですよね。とっとと逃げなくていいんですか?」
『逃げられるものならとっくに逃げている。だが、背後も押さえられていてな』
やはり、そういうことか。後方のキャリアーから火の手が上がるのも見えた。どうやら、今回の襲撃作戦は敵に知られていたようだった。
イスカはハンドキャノンを取り出し、アッシュ目掛けて発砲。アスタルと御堂がそれに同調し、アサルトで彼を牽制した。アッシュは弾幕に晒されることを嫌い後退、後続のゲゼルシャフト隊と合流を果たした。やはり、うまくない。
(このままじゃ殺される。だが、前も後ろも押さえられた現状じゃ……)
どうすればいいか考えるが、考えがまとまらない。当然だ、この状況に答えを出すことなど、歴戦の兵士でさえも出来ていないのだから。
困惑するイスカ。そこにオリバセウスからの秘匿通信が入った。
『こちらヘイゼル・クルーガー。海東イスカ、応答せよ』
「ヘイゼルさん! どうするんですか、これから! このままじゃ……」
『余計なやり取りをしている時間はない。手短にやるぞ、海東。海東機はオリバセウスに帰還、換装を行え。アスタル以下機動兵器隊、死ぬ気で守れ』
実に簡潔な命令だった。
次々と疑問が浮かび上がって来るくらいには。
(換装ってなんだ? 取り換えられるような装備、キャバリアーにあったか? それに死守しろって、それじゃあ死ねって言ってるようなもんじゃないか。そうじゃ、そうじゃないだろう? ここから、どうにかして逃げないといけない)
イスカは迷った。だがアスタルは、御堂は、仲間たちは違った。
『アスタル了解。我々はこれよりオリバセウス防衛に移る』
『そういうわけだ、イスカ! 出来るなら俺たちが死ぬ前に戻って来い!』
アスタルと御堂は並び合い、リボルビングキャノンを連射した。放たれた圧倒的な質量を前にして、火星軍はたたらを踏んだ。後方ではAA隊が体勢を立て直し、側面から迫るバトルウェア隊へと無謀な攻撃を仕掛けていた。ヘリ隊も高射砲の射角ギリギリの低さで航行し、各方面への支援を行っている。
みんな戦っている。
生き残るために戦っている。
自分は、どうだ?
「……分かりました、ヘイゼルさん! 海東イスカ、帰還します!」
臆病風に吹かれたのだとは思いたくなかった。仲間を信じるために会えて戻ったのだと、イスカは自分に言い聞かせた。キャバリアーが甲板に飛び乗るのと同時にハッチが開き、イスカをその中に引き込む。一瞬の暗闇の後、広がったのは格納庫を照らす薄暗い光。入るなり整備班が一斉に出て来た。
「よし、お前たち! 正念場だ! 気合を入れてやるぞ、いいな!?」
ロナの号令に整備員たちは声を合わせた。訳も分からないままにイスカは期待の外に降ろされ、片隅に追いやられた。状況を飲み込めないでいるイスカに、夕菜が寄って来た。
「しばらく休んでいてください、兄さん。ビームライフルを使います」
「ビームライフルを!? でも、あれは完成していなかったはず……」
「試射を兼ねたテストです。実戦でやることではない、と私も、みんなも思っていますが。状況を打開するには、これくらいなければいけません」
武器一つで果たして状況が変わるのだろうか? 言いかけて、イスカは飲み込んだ。誰も信じてはいない、たった一つの要素で状況がひっくり返るなど。
ただ、ひっくり返すことが出来なければここで敗北することは確かだ。そうなれば、どうなる。少なくとも、自分の命を他人に預けなければならなくなる。生殺与奪件を敵に握らせることとなる。凄惨な虐殺を行ってきた相手に。
そんなことは嫌だ。
だったら、出来る限りのことをしなければならない。
「絶対成功させるよ、夕菜。お前の正しさをみんなに知らしめてやる」
「ええ、そうなることを祈っています。嘘つき呼ばわりされて死にたくない」
「……死なないさ。どんなことになっても、お前は絶対に死なない……!」
換装が終わるまでの時間は本当に僅かなものだったが、イスカにとっては永遠にも等しかった。キャバリアーの右手にビームライフルがセットされたのだ。
「本当に銃サイズの武器なんだな……あれが……」
「ビームライフル。線状がないから厳密にはライフルじゃあないんだけど、まあ形と規格からはライフルと言った方が通りがいいな。本体のジェネレーターから動力を引っ張って来るから、現状は右手で持っていないと使用出来ない」
使い勝手は銃と同じ、ということか。イスカはロナから簡単な説明を受けてから、機体に乗り込んだ。スピーカーからヘイゼルの声が聞こえる。
『海東くん、我々は現在全方位を火星軍によって包囲されている』
「そんな……そこまで追い詰められるまで、どうして分からなかったんです!」
『それについては現在調査中だし、ここにおいては特に意味があることではない。もっとも重要なことは、敵の包囲網の中で一番どこが薄いか、だ』
モニターに周辺の概略が表示された。当然ながら正面、北側が最も戦力が多く、続けて奇襲を受けた北東。南側もかなり多くおり、北西側が一番少ない。それぞれに一個か二個、大きな反応があり、その数も北西側が一番少ない。
『これは戦力配置図だ。大きな点は火星軍のランドキャリアー……海東くん、ビームライフルを使用し北西のキャリアーを狙撃せよ。敵の司令塔がなくなったことで残存兵力は終結。一点突破で欧州側に向かって撤退していく』
「前に向かって全力逃走、ってことですか。冗談みたいなことを言う」
しかもテストもしていない最初の射撃が遠距離狙撃だとは。本当に笑えない。失敗すれば死ぬ。本当に笑えない話だ。現実だからかもしれないが。
リフトアップし、再び戦場へ。アスタルのゲゼルシャフトは両腕を失っており、御堂機も左足に致命的な損傷を追っているようだ。このままではマズい。
(トチればみんな死ぬ、落ち着いて撃て海東イスカ……!)
イスカはビームライフルを構え、視界にギリギリ映ったランドキャリアーに銃口を向けた。イスカの攻撃を察知したわけではないだろうが、次々とミサイルや砲弾が飛来する。ほとんどはオリバセウスのCIWSによって防がれたが、イスカの周辺にも何発かが着弾。炎が機体を焼き、振動が照準を乱した。
照準を乱した?
否、イスカは乱れない。
死の旋風吹き荒れる戦場。
海東イスカは彫像の如く静止した。
その心は明鏡止水の如く。
(――死ね)
怒りも。
悲しみも。
義侠心も。
憎悪すらもなく。
その瞬間、海東イスカは人を殺すためのシステムと化した。
ビームライフルの銃口に光が収束。銃口を中心として白く輝く円と線の集合体が描かれ、幻想的な風景を作り上げる。円の中心から光が真っ直ぐ、敵に向かって伸びて行く。
矢のように放たれた光は段々と膨張していき、最終的には半径二十メートルほどの太矢となった。矢は軌道上にあったものを、風も、砂も、バトルウェアも、ランドキャリアーすら飲み込み、圧倒的な熱量で焼き尽くした。
「……こ、これは……」
現実感がなかった。
自分がこのようなことをしたとは、信じられなかった。
キャバリアーは確かに、単騎で逃走経路を切り開いてみせた。




