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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第三章:熱砂の地獄編
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09-変わる状況と変わらぬ人間

 イスカの端末からもたらされた情報に基づき、整備班は開発に取り掛かった。元々海東良治の頭と図面の中にしかない計画であり、実際にそれが実用性のあるものか、あるいは単なる空論に過ぎないのかさえもまだ分からない。

 ただ彼らの、良治に比べれば乏しい知識と経験の中において実現性が高いとされるものからまずスタートすることになった。科学とは実験と実証の繰り返し、それのみによってしか結論を得ることは出来ないのだから。


 ビスキスに停泊してから十日。折り返し地点に立ったその日、イスカたち機動兵器パイロットたちはブリーフィングルームに呼び出された。


「全員集まったな? では、これより合同会議を行う」


 合同会議というだけあって、室内には様々な人がいた。石動、ヘイゼルらキャバリアー移送チームはもちろんのこと、アラビア商人めいた格好をしたビスキス司令、それにモデルのような体型をした銀髪の男、アハマドがいた。アハマドの隣にはビア樽めいた体型のがっちりとした、護衛らしき男が控えている。

 それだけではない。謹慎処分を受けていたアスタルとグランツ、それ以外の兵士たちの姿もある。イスカは思わず、彼の方に寄って行った。


「謹慎、解けたんですね。アスタルさん」

「俺がいない間に、随分厳しい状況に陥ってしまったようだな。すまない」


 アスタルは謝罪したが、結局イスカの方を見ることはなかった。


「今回集まってもらったのは他でもない。我々がアラビア半島から脱出するためには必ず乗り越えなければならない障害がある。ベタラ・ラハム率いる火星帝国軍グラディウス方面軍だ」


 モニター上にベタラ・ラハムと呼ばれた男の顔写真が映し出された。凶悪な人相をしている。鋭いナイフのようにつり上がったまなじりと三白眼。棘のように逆立った黒い髪。への字に曲がり、きつく閉じられた口元。引き締まった表情をしており、いかにも有能そうだが、しかし決して信用出来ない。そんな風体だった。

 それにしても、なぜ敵軍大将の顔写真を持っているのだろうか? イスカは疑問に思ったが、すぐにその理由は明らかになった。


「ベタラ・ラハムはかつてグラディウス王国騎士団……すなわち、王国の持つ軍に属する人間だった。しかし、王家が滅亡したのを境に火星帝国へと亡命。以後、その技量とグラディウス王国国内に対する豊富な知識と求心力を持ってして火星軍内でもひとかどの地位を築いている、ということだ。我々の前に立ちはだかるもっとも大きな障害と言える」


 いままでの敵は、確かに誰も彼も凄まじい実力を持っていた。だが、結局のところは外様だった。だから力押しの攻撃しかしてこなかったわけだ。

 しかし、ベタラ・ラハムは違う。グラディウスのことをよく知っている。だから砂に潜り敵を釣り出すような、そんな作戦を取ることが出来るのだろう。イスカがこれまで戦ってきた相手とは、まったく異質な力を持っている。


「それで、どう敵に対処するのです?」


 アスタルが口を開いた。謹慎明けながら、いままでと変わらない態度だ。


「アラビア半島のおよそ四割程度は火星軍の支配下にあると聞いています。また、ビスキスは孤立している。この状況でどう打って出るのでしょうか? まさか、アフリカ大陸まで逃れて彼らの追跡をかわすなどとは言いますまい?」

「もちろんだ、アスタル大尉。キミの懸念ももっともなことだがね」


 モニターに別の図が映し出された。アラビア半島の鳥瞰図だ。


「火星軍はアラビア半島の東部を掌握し、ここをアフリカ、東南アジア、欧州攻略への足掛かりとしている。その支配地域は徐々に拡大して行っている」

「こんなに……!」


 隣に座っていた御堂が呻いた。青が国連軍の勢力圏、赤が火星帝国の勢力圏として表示されており、あからさまに火星の手に落ちている場所の方が多かった。


「このままでは我々も孤立し、壊滅を待つばかりでした。しかし……」


 行商人めいた格好をしたウーガル司令が立ち上がり、こちらを見た。


「あなた方の、そしてキャバリアーの突破力があれば、この状況を潜り抜けることも可能であると考えています。我々は北方にある火星基地に対して強襲を仕掛け、一点突破の火力を持ってして火星軍を打ち破る所存であります」


 握り拳を作り、彼は力強く宣言した。オオ、と感嘆の声が漏れる。


「本作戦には我々、『グラディウス解放同盟』も協力させていただきます」

「正規の軍人でないあなた方に、失礼ですが何が出来るのでしょうか?」

「ご心配なく、アスタル少尉。我々グラディウス王国軍を母体とする解放同盟は武勇に長けるものが多く、またこの地の内情にも精通しておりますゆえ……敵もまたこちらの内情に聡いものです。我々の助力があった方が、スムーズに作戦行動を進められるのでは?」


 なるほど、とだけ言ってアスタルは黙った。


「作戦決行は八月六日、○四○○。夜明けとともに火星帝国軍軍事拠点『メダイア』を強襲し、殲滅する。しかる後我々は欧州方面へと離脱を行う!」

「我々は惜しむことなく物資を供与いたします。ともに生き残り、この地から脱出しましょう! そして来たるべき時、この地を取り戻すのです!」


 ブリーフィングは決起集会めいた雰囲気になった。この地を故郷としないイスカにとって、それはどこか別世界で繰り広げられているような空虚さがあった。


(僕は……ここまで真剣に故郷を取り戻そうって考えたことがあるか?)


 白浜に帰りたいとは思っていた。だが、武力を持って他者を制圧し、すべてを駆逐してまで戻りたいかと言われれば、それは否と言わざるを得ない。


「休んでいた分、俺は俺のやるべきことをやる」


 隣に座っていたアスタルが唐突にそう言った。イスカが目をやると、そこには獰猛な獣のように笑う男の姿があった。イスカは戦慄した。

 そうだ、変わらない。檻に閉じ込められ、矯正を受けたとしても。たった数日で人間が変わるはずがない。アスタル・ペンウッドは何一つ変わらない。

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