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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第三章:熱砂の地獄編
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08-果てしなき戦い

 あれから二日。御堂は目覚ましいほど腕を上げていた。シミュレーターでの訓練だけだったが、この分ならば実戦でも問題はないだろうとイスカも太鼓判を押さざるを得ないほど(・・・・・・・・・・)の実力になっていた。


(本音を言えば、御堂さんには戦ってほしくはないけれど……)


 本人が強く望んでいるのならば、そしてそれが自分のためであるというのならば、イスカにはなかなかやめろと言うことが出来なかった。軍の人とも打ち解けつつあったが、やはり自分との間には深い溝があるように感じていたのだ。そんな環境の中で信頼できる大人が現れたら、果たして誰が拒絶することが出来ようか?

 安心と不安、相反する感情の中でイスカは揺れ動いていた。考え事をしながら歩いていると、窓の外をやたらと黄昏た表情で見ている石動と出会った。


「お疲れ様です、石動大尉。どうしたんですか、何か……?」


 気を使って話しかけたら、石動はイスカを凄まじい形相で睨んだ。


「何かあったかだとぉ? あったに決まっているだろうがこのボンクラァ! お前た二人のせいでこっちは徹夜で書類を誤魔化すための作業をしとるのだ!」


 生気のない顔をしていたが、連日の徹夜作業でこんな風になっているのか、と少しだけイスカは石動のことが不憫になった。確かに自分や、アスタルに比べれば立場は上だが、絶対的上位者ではない。悲しい中間管理職なのだ。

 しかし、とも思う。御堂のことはともかく、イスカのことは完全な事故であり国連側の責任であり、そんなことをとやかく言われる筋合いはないだろう。


「はぁ……少佐も何を考えているか分からんし、お前らも好き勝手やってくれるし。頭が痛いわい。ここを切り抜ければ状況も変わるのだろうが……」


 しばらくすると、町が見えて来た。四方を高いフェンスで囲われた、いささか頼りないとも思える構造。町の見張り台で赤と白の光が不規則に明滅する。光通信によるパスワードのやり取りだろうか。何事もなく船は町へと向かう。

 紅海との交易の拠点となる都市、ビスキス。グラディウスが陥落し、交易路が立たれている現状、ビスキスは国連の重要拠点なのだという。


「あの町で補給を行い、地中海を越えて一気に欧州へと突破を行う」

「でも、そこまでの道のりには火星軍の連中が……」

「そんなことは分かっておる。だから破壊されたキャバリアーも含めて、ここで修繕作業を行うのだ。味方の拠点に入ったと言っても、危機的状況に変わりはないのだからな」


 国連軍が絶対的に不利な環境に置かれている以上、どんな場所でも危険なことには変わりはない。それは分かっていた。だから生き残るために、どんなことだってするつもりだった……少なくとも、自分の心が痛まない範囲で。


「よっ、イスカ。ビスキスじゃ自由行動になるみたいだけど、どうする?」


 そうしていると、島田が二人に声をかけて来た。


「島田曹長……上官がいるんだから少しくらい言葉遣いに気を付けたらどうだ?」

「たはは、勘弁して下さいよ大尉。私がそんなこと出来ないのは知ってるでしょ?」

「いいや、いい機会だから言っておくぞ。だいたい貴様はだなぁ……」


 石動は島田に対してグチグチと文句を言い始めた。言葉遣いに始まり姿勢の悪さ、命令無視に私生活まで。本当によく見ている、と思う。


「……石動大尉って、島田さんのことを本当によく知ってるんですね」

「やめろよ、イスカ。その表現はなんていうか、その、サブイボが立つ」

「やかましいわ、アホ。部下のことを把握しておくのは上官の務めだ」


 本当にそうなのだろうか。例えばヘイゼルなど、島田のプライベートに関してはまるで知らなさそうなイメージがある。もしかしたらそれは偏見で、本当は石動以上に島田のあんなことやこんなことまで知っているのかもしれないが。


「……イスカ、お前何を考えてる? 滅茶苦茶失礼なこと考えたな?」

「ンなわけないじゃないですか。考え過ぎですよ、島田さん。えーっと……」


 誤魔化しつつ、イスカは先ほど島田が言っていたことを思い出そうとした。


「ああ、そうそう。ビスキスで自由行動になるって、どういうことです?」

「どう言うことも何も、言葉通りの意味だよ。乗員がローテーションで休暇を取ることになったんだ、今回の停泊は三週間と長いからな。とはいっても、有事の際には呼び戻されることになるから純粋な休暇とは言い辛いんだけどなぁ」

「へえ、そうなんですか。休み、なんて本当に久しぶりだなぁ……」


 白浜から出て以来、休みらしい休みなどなかった。戦っているか、訓練しているか、もしくはキャバリアーの調整をしているか。ここ数カ月間、そんな生活を送っていただけなのに、まるで生まれてこの方こんな風に生きて来たのかと錯覚してしまうほど濃密な二か月間だった。


「そうですね。久しぶりに羽を伸ばせるんだ、何か考えておこう」

「休んでこい、休んでこい。私に休みという言葉は存在しないがな……」


 石動が悲し気な声を上げた。

 いたたまれなくなったのでそちらから目を逸らす。


「そういえば、白浜のみんなはどうなるんでしょうか?」

「難しいところだな……特に、外に出すのは。戦地だし、国連と火星軍の勢力圏が隣り合った激戦区だ。まかり間違って外に出たりしたら……」


 島田は首を掻き切るジェスチャーをした。


「少し不憫だが、彼らの安全のためにもこの船から出すわけにはいかん」

「でも、さすがに民間人を撃ったりするような真似は……」

「そう信じたいが、木更津でのこともあるからな。彼らは出せんよ」


 日本から逃れて地球のほとんど反対側まで来た。

 それでも……逃れられないものはある。

 生き残るために戦っているし、それ自体には後悔はない。


 だが、果たしていつまで続くのか。

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