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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第三章:熱砂の地獄編
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幕間:石動羅門の苦悩

 ああ、忙しい。まったくもって忙しい。石動羅門は休憩中だろうがお構いなしに投げ込まれるメッセージをAR上で捌き、大きなため息を吐いた。

 石動はヘイゼルの副官であり、彼が些事に気を取られないように様々なことに対処する権限と責任を持っている。些事とはすなわち部下が喧嘩をしているだの、物資が足りそうにないだの、あるいは塩が足りなくなっただの、そういうことだ。現実として補給がない以上、いまあるものでどうにか対処していくしかない。


(整備資材はバトルウェア、AA、それ以外の順で使用せよ。オリバセウスは後方に控えているから滅多なことでは損傷を受けない。喧嘩をした両名は後でこちらに呼んでおけ。塩に関しては民間人に使用制限を掛けろ、特にあの工藤とかいう奴にな。説明の時に医者を同伴させておけ、あいつあのままだと高血圧になるぞ)


 メッセージを送信し飯を食べる。返信がすぐに来るがそれは一旦無視だ、どうせ大したことは書いていないし数分くらいは休ませてほしかった。


 どうしてこんなことになった、と石動は自問した。それもこれも、キャバリアー製造設計部に移されてからすべてが変わってしまった、と彼は思った。

 劣勢に陥った軍を支える新兵器を設計し、運用する。字面だけを見ればエリートコースのようだが、実際のところは左遷されたようなものだ。そもそもこれ自体が帝国の目を逸らすためのペーパープランであるとの噂さえある。


 バトルウェアは確かに強力な兵器だ。電磁装甲と装甲厚による強固な防御力、大出力バッテリーによるハイパワーとそれを用いた強力な兵装の運用。火星軍の場合は更なるパワー、国連の場合は運動性というオプションがつく。

 だが、それだけだ。バトルウェアを排除するには火砲の数を多くすればいい。数としては圧倒的に勝っているのだ。バトルウェアでも避けられないほどの、耐えられないほどの大火力で面攻撃を行えば事足りるのだから。


(囮にされている……そんなことは私にも分かっている。だが、それを拒んだとしてどうなるというのだ? 軍人にはそれを成し遂げる以外道は……)

「申し訳ありません、石動大尉。お休みのところ、お時間よろしいですか?」


 休憩中に話かけられて、石動は思わず飛び上がるほど驚いてしまった。AR展開中で、周囲への注意がおろそかになっていたのも原因だろう。

 石動が声のした方に振り返ると、そこには島田曹長がいた。


「しょ、食事中だって分かっているんなら声をかけるな馬鹿者!」

「申し訳ありません。ですが、折り入っての重要なお話なのです」


 石動は島田のことをよく知っている。快活で活発、裏を返せばがさつで能天気。階級意識がないことでも有名で、上官相手の無礼も平気で働く。

 その島田が、今日はこれほどまでにしおらしい。何かがあったのだ。石動はARを一旦切り、島田に隣に座るよう促した。


「どうした、何があった? そんなかしこまった態度を取って……」

「いえ、実は……お耳に入れておきたいことがありましたので」

「前置きは不要だ。お前の想像通り、こっちは忙しいのでな」


 島田はもごもごと口元を動かすだけで、本題へとなかなか入ろうとはしなかった。石動の疑念はさらに深まっていく。彼は辛抱強く待った。


「実は……この間捕虜に取った火星軍兵士の事なのですが」

「ああ、あの男のことか。それがどうしたんだ?」

「虐待を行われている可能性があるのです。その、捕えた捕虜に対して」


 石動は鼻根を寄せた。まさか、と思うが、しかし。


「何か証拠はあるのか? 私は何度かあの兵士に面会を行っているが、少なくとも外傷はなかった。誰かが……例えばお前がそれを目撃しているのか?」

「いえ、していません。海東イスカの証言だけです。それに、下部デッキの入り口にグランツ軍曹が控えていたのは事実です……誰も通さないようにしている」


 困ったことになったな、と石動は内心で思った。


(大問題だな、捕虜への虐待があったとなれば。確かに火星軍との間に捕虜に関する条項は適用されない、がこんなことが表に出れば私の立場は……)


 なにより、そんなことがこの船で行われていることに胸のムカつきが止まらなかった。石動羅門は小心な男であり、暴力的な事象に耐えられはしないのだ。


「よく、報告してくれた。その件に関しては私に任せてはくれないか?」

「えっ、ですが大尉。よろしいのですか、自分で言っておいてなんですが」

「物証はないし客観性にも乏しい案件だ。だが、それに具体性を与えるのが仕事だ。任せておいてくれ、悪いようにはしないからな」


 石動にも心当たりがないわけではなかった。例の火星の捕虜――彼はレン・グラウツ伍長だと名乗っていた――は石動を見て怯えた表情をしていた。尋問の手順は心得ているが、たった数日であれだけの怯えようは異常としか言いようがなかった。もしかしたら、本当に何かがあるのかもしれない。

 どう調べるべきか、考えていると端末から着信音が鳴った。


「島田曹長、キミは仕事に戻れ。恐らく近日中に結果が出るだろう」

「分かりました、大尉。お聞きいただき、ありがとうございます」


 島田はいままで見たことがないくらい背筋を伸ばし、真剣な表情で敬礼して部屋から出て行った。いつもああなら可愛げがあるのだが、と石動は思う。


(いや、私がナメられているだけの話か。それはそうだな、文官であって武官ではない。私は戦場に迷い込んだ子羊に過ぎない、と)


 石動はAR画面でスケジュールを確認、イスカが音を聞いたという時刻と自分のスケジュールとを照らし合わせ、空いている時間がないか探した。

 ああ、まったく忙しい。石動は自らに課せられた天命を呪った。

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