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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第三章:熱砂の地獄編
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07-捕虜の取り扱い

 格納庫に武装した兵士が集まり、物々しい雰囲気が辺りを包み込んでいた。それもそのはず、敵軍の生きた兵士が乗った兵器を鹵獲したことなどオリバセウスの面々には、否、ほとんどの国連軍の兵士には経験がなかったからだ。


「大丈夫ですよね、ロナさん。ここまで弾飛んできませんよね?」

「大丈夫だろ、防弾されているから。っていうか、怖いならこんなところに来なければいいのに。アスタル少尉からは下がっていていいって言われたんだろ?」

「自分がどんな奴らを捕まえたのか、ちょっと気になっちゃって……」


 火星の人間がどんな姿をしているのか、少しだけイスカには興味があった。


「あんまりお勧めしないけどな。敵の姿をその目で見る、っていうのはさ」


 それ以上話は進まなかった。アスタルとアーサーが動き、コックピットの両脇へと向かったからだ。彼らは周辺を探り、緊急避難用のスイッチを探した。それはすぐに見つかり、ハッチが物々しい音を立てて開いた。全員が銃を構え、起こりうる最悪の状況に備えていた。

 だが、それは起こらなかった。アスタルとアーサーが内部を覗き込み、頷き合うとアスタルが中に入った。そこから宇宙服めいたスーツを着た人間が引きずり出されて来た。彼は床に横たえられ、服を脱がされた。


(……思っていたより華奢なんだな、火星人って)


 まず思ったのはそんなことだった。アスタルと比較して、恐らく身長は170cm以下。イスカよりもずっと小さいくらいだった。スーツで体格が隠れているから分かり辛いが、やはり彼ほどがっしりした体つきではあるまい。

 スーツを脱がされると、その華奢さがより一層際立った。


「っていうか、あいつ……子供(・・)か……!?」


 あどけなさを残すふっくらとした顔立ちを苦悶に歪ませたそれは、まさに子供の顔だった。身長も低く、体つきも華奢。自分でも勝てそうだなと思った。


(あのオッサン、自分たちはマトモみたいなことを言っておいて……アンタたちだってあんな子供を戦わせてるじゃあないか……!)


 オーストラリアで戦ったイアンの偉そうな言葉が思い出された。彼に期待していた分だけ、イスカの心の内には強い怒りが渦巻いた。

 彼らは敵兵の懐からパネルのようなものを取り出した。アスタルは彼を移送するように指示を出し、兵士の何人かが彼を担いで船体下部へと向かって行った。敵兵を収容するようなスペースがあっただろうか、とイスカは首を傾げる。


「使っていない倉庫か何かに押し込めるんだろうね。オリバセウスは乗員に割り振るリソースが最低限しかないから、捕虜を押し込めるようなスペースはない」

「とことん兵器のために作られた場所なんですね、これは」

「当たり前だろう? 軍じゃ人間の立場が一番低い、ってね」


 ロナは笑って言った。そうしているうちに警戒態勢が解除され、ロナは仕事に戻って行った。イスカはしばらくの間、考えた。


(あいつこれからどうなるんだろうな……僕には関係ないけど)


 国際法というものがあって、捕虜を虐待してはいけなかったはずだ、という漠然とした知識はイスカの頭の中にもあった。だがそうするとどうやって敵から情報を引き出すのか、という興味がイスカには湧いて来たのだ。

 追いかけてみようか、と思う自分と、いややめておけと止める自分がいる。好奇心と理性の天秤とが絶えず揺れ動き、イスカを翻弄した……


「何してんだよ、イスカ。ボーっとしてるなって」

「うわっひゃっはああ!?」


 いきなり後ろから話しかけられ、イスカは文字通り飛び上がるほど驚いた。整備員たちが不審そうな目でそちらの方を見て、『ああまたイスカか』と思って視線を戻した。イスカの驚きようには声をかけた島田の方が驚いていた。


「……どうしたんだよ、お前。変な奴だけど今日はいつにもまして変だ」

「いきなり人のことを貶さないでくださいよ、島田さん。どうしたんです?」

「警戒命令が解かれたから、担当の人間以外はとりあえず引き上げてもいいってさ。だからあんたは休憩に入っていいんだ。どうする?」

「とりあえず疲れてますから休みたいです。島田さんはこれからですか?」

「ああ、仕事だからな。どんだけ疲れていたって、やることやらないと」


 それだけ言うと島田は踵を返して仕事へと戻って行こうとした。


「すいません島田さん。聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」


 だが好奇心が押さえきれなくなりつい質問してしまった。


「ん、どうしたんだ? 私に答えられることなら答えるけど……」

「その、捕えた火星軍のパイロットっていったいどうなるんですか?」


 一瞬、島田の視線が鋭さを帯びたのをイスカは見逃さなかった。だがそれは一瞬のことで、彼女は困ったように視線を泳がせ後頭部をポリポリと掻いた。


「どうなるか、っていうのはな。私にはよく分からないよ」

「そうなんですか? こういう時、どういう対処をするかとか……」

「いや、本当に分からないんだよ。国際条約では敵軍の兵士を虐待したりしちゃいけないことにはなっているんだけど、火星軍は敵じゃない(・・・・・)からな」


 どういうことだ。イスカの頭の中を疑問符がグルグル回った。


「つまり、国連は火星を国家として承認していない(・・・・・・・)

「え? でも、国連は火星と戦争をしてるんじゃ」

「だから内乱扱いだよ、公的にはね。火星は国連の直轄地であり国家ではない。国連も火星も同じ集団の中で争っているだけ、だから捕虜に関する規定は適用されない(・・・・)。自軍への懲罰行為だからね」


 島田は大きめのため息を吐いた。


「だから火星軍に対してどんな取り扱いを成されるか、分からないんだ」

「……」

「まあ多分、大丈夫だよ。そう酷いことはしないだろうし。じゃね」


 バツの悪そうな顔をして島田は仕事に戻って行った。イスカはしばらくの間、動くことが出来ずにその場で立ち尽くした。


(あいつ、いったいどうなるんだ?)


 あどけない少年の顔をイスカは思い出した。白浜で国連と火星軍がしたことを思い出した。自分が何の躊躇もなく敵を殺してきたことを思い出した。


 スッと、自分の体から血の気が引いて行くのを感じた。

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