07-キャバリアー、快進撃
イスカは背部スラスターを操作し減速、落ちながらアサルトライフルで敵機を狙い撃った。風と砂が作り上げた複雑怪奇な砂の迷路、その頂点に火星軍のゲゼルシャフトが陣取っていた。黄土色と白の砂漠仕様迷彩を施した機体には、ほとんどと言っていいほどオプションパーツが取り付けられていなかった。
ゲゼルシャフトに50mm弾が命中。が、装甲を貫いたものは一つもなかった。オプションがない代わりに基礎装甲がかなり厚めにされているようで、至近距離であっても貫通できるかどうかは分からないほどだった。
「ライフルが効かないなら、こいつはどうだ!」
イスカは左手をバレルの下、そこに取り付けられたグレネードランチャーにやった。トリガーを引くと砲弾が高速で撃ち出され、ゲゼルシャフトに命中し爆発した。バトルウェアの防御力を前に、散弾は余程至近距離で撃たなければ効果が薄い。熟慮の結果散弾や榴散弾は廃止され、炸裂弾をメインに運用することになった。
今回が初めての使用だったが、対バトルウェア用炸裂弾は想定した戦果を上げることが出来たようだ。命中したゲゼルシャフトの胸部装甲は焼け焦げ、ひしゃげていた。直撃弾を喰らわせれば十分な威力を発揮する。
『イスカ、前線で敵を引っかき回せ! AA隊、前進!』
オリバセウスの甲板から三機のマルテが飛び出した。両肩には小型のミサイルランチャーを背負い、手には大型の狙撃ライフル。対バトルウェア戦を想定した重装備だが、特徴は何より足下にあった。
ふくらはぎの部分がニッカポッカめいて膨らんでいた。AA駆動用のランニングギアを砂漠用に改修したパーツであり、砂をすって目詰まりをするようなことがないように厳重なフィルタリングが成されているのだ。
『ホビット2、3! 事前に教えておいた通りだ、死ぬ気でやれ!』
突進して来たAA隊をゲゼルシャフトたちは迎撃しようとした。島田、グランツ、ソルカのAA隊は砂上を滑り攻撃を回避。いくつもの砂柱が上がった。彼らは速度を緩めずに砂丘に昇り、そして、飛んだ。
「スキージャンプみたいなものか……! 砂のコブを利用して!」
AA隊は飛びながら狙撃銃を発砲。バトルウェアたちのカメラアイを潰しにかかった。AAの軽量さと高速機動であるからこそ実現可能な三次元アクションだ。もちろん、これ単体ならいい的になるのは間違いないだろう。
その穴を埋めるのが左右から攻め立てる攻撃ヘリ隊。そして真正面から攻撃を仕掛けてくるアスタルのゲゼルシャフトだ。
『各機、一斉に撃ち込むぞ! タイミングを合わせて……ってえ!』
アスタルの両手にはヘリ用のミサイルランチャーを改良したガンポッドがあった。戦場に数十発のミサイルが殺到し、爆発。敵のゲゼルシャフトを牽制、あるいは仕留めた。ヘリ隊は後退し反撃を避け、代わりにアスタルが進む。彼はホルスターに撃ち尽くしたミサイルランチャーを戻し、腰のライフルを抜く。
イスカは爆炎に紛れて敵陣へと突撃して行った。砂に足を取られるが、キャバリアーの操縦系は優秀だ。砂による機体の沈み込みを即座に感知し、対策を行う。不整地での走破性、それがキャバリアーの持つ強みの一つだ。
『イスカ! 事前に打ち合わせておいた通りだ、一機は残せよ!』
「分かっていますよ! 出来る限りのことはやるつもりです、っと!」
イスカは砂を蹴り前方に跳躍。右足を損傷し膝をついたバトルウェアのコックピットに跳び蹴りを喰らわせた。背中から倒れた機体を足場に再度跳躍、ベリーロールの要領で横にいた機体の上を取り、頭部に砲弾を撃ち込んだ。
頭部を失いふらふらと立ち尽くすゲゼルシャフトを無視し、イスカは猫のようにしなやかに着地。横合いからゲゼルシャフトが切りかかって来るが、AA隊のミサイルによって阻まれる。足を止めた瞬間を見計らいシールドの先端を敵機のコックピットに突き込み、ほぼゼロ距離で内蔵ガトリングガンを発砲した。
『鬼気迫る、というべきか……味方ながらに恐ろしいぞ』
アスタルがリボルビング弾倉を回転させながら呻いた。
「みんなが助けてくれるから、こうして無茶苦茶することが出来る!」
ガトリングを受けたたらを踏んだ機体を無視し、刀を抜いて次の機体へ突進。背後を見せたイスカに反撃をしようとしたが、その機体はアスタルの放った高速徹鋼弾によって動力系を撃ち抜かれて停止した。コックピットブロックが分離し、機体の関節部が爆発。火星の機体に搭載された自爆装置が作動したのだ。
イスカはその後も常識外れの働きを見せ、火星軍を圧倒した。戦力の多くを失った火星軍の斥候部隊は早々に撤退を開始、その背を狙い打たれ数を減らした。
『ご苦労だったな、イスカ。それから、お前のおかげで仮説が証明された』
あとに残ったのはほぼ無傷のゲゼルシャフト一機、イスカが最初に蹴りを叩き込んだ機体だ。いままでコックピットを潰し、パイロットを殺傷した機体は例外なく自爆した。行動不能にまで追い込んだ機体も同様。だが、今回パイロットを気絶させたゲゼルシャフトは自爆することなく残っていた。
『やはり、パイロットの生体信号をキャッチして自爆装置を作動しているようですね。気絶したパイロットが自爆に巻き込まれてしまっては堪りません』
後方から合流して来たオリバセウスからアーサー副長が声を上げた。相棒であったアスタルがヘリから降りてしまったため、彼はいま所在がない。
『ゲゼルシャフトを機体に運び込むぞ。機体そのものも、パイロットも有用な資源だ。現在のアラビア半島の状況を掴むことが出来るかもしれん』
「了解しました、アスタルさん。まあ、ちょっと不安だから」
イスカはつかつかとゲゼルシャフトに歩み寄ると、もう一度踏みつけた。




