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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第二章:オーストラリア縦断編
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幕間:国連軍

 アーガイル湖に隣接する山岳地帯。旧オーストラリア軍の軍事基地を改修して作られた施設がそこにあった。オリバセウスは湖に着水、秘密ドックを経由して基地内へ。戦闘員たちは待機を命じられ、ヘイゼルと石動は基地指令室へと向かって行った。


「しかし、予想していたよりも何というか……その」


 石動はせわしなく視線を動かし基地を見渡した。モルタル造りの通路にはひび割れが目立ち、水がしみ出しているところもある。耐久性に問題があるだけでなく、衛生的にも劣悪な環境だ。鼠が歩き回っているのも彼は見た。

 国連軍、オーストラリア駐留軍。星間戦争最初期において侵攻を受けながらもその組織力を持ってして耐えていると彼は聞いていた。しかしこれでは。


「まるでゲリラの基地のようだな。そうは思わないかね、石動大尉」

「はっ!? い、言えそのようなことは……」

「正直に言え、ここには私とお前しかいないのだからな。国連はオーストラリアでの敗戦を認めたくないようだが、実態はこの程度なのだろう」


 ヘイゼルはフゥ、と息を吐いて石動の方に目を向けた。


「気力が萎えて来たか? このまま戦って火星に勝てるかと思ったか?」

「そ、そんなことはありません! 火星のテロリストたちには、断固ッ」

「分かった、分かった。私の前でそう気負われても困るのだがな」


 ヘイゼルは苦笑した。二人は指令室の前につき、石動が扉を叩いた。野太い男の声が了承を次げたのを聞いてから、二人は部屋の中に入った。

 痛みの激しい軍服を着た男が二人を待っていた。くすんだ金髪はほとんど手入れがされていない。日焼けした皺だらけの顔に刻まれた傷も生々しい。


「ジェイソン・ハーキュリー少佐。オーストラリア方面軍暫定司令官です」

「暫定? どういうことでしょうかな、ハーキュリー少佐」

「司令が八カ月前に戦死して以来、私が指揮を取っているのです」


 ハーキュリーは自嘲気味に笑った。

 二人は笑えなかった。


「本国からの……本国からの支援は、来ていないのですか?」

「四カ月前人員と物資を輸送しましたが、引き換えに来るはずの人員はまだこちらに到着していませんよ。軍の損耗率は三割を超えています。じり貧ですね」

「そんな、バカな……」


 石動は口の中で『バカな』と繰り返した。これほどまで激しく戦力を消耗しているならば撤退も、降伏も視野に入って来るのではないだろうか?


「あちらさんもなるべく民間人を巻き込まないようにしているようですが、なかなかそうはいかないようでして。せめて民間人だけでも逃がそうと航空機を飛ばしてみたものの、今回のような騒ぎに。あなた方のおかげで助かりました」

「味方と合流するためにやったことです。礼を言われることはない」


 ハーキュリーはそれを謙遜と受け取ったのだろう、ふっと笑った。石動はヘイゼルのそれが決して謙遜などではない、本心であることを知っていた。ヘイゼルの頭の中にあることは軍務を達成することだけ。それ以外は些事だ。


「我々はオーストラリアを経由してアラビア半島へと渡り、ドイツを目指す。我々は国連軍の行く末を占う重要なものを積んでいるのだ」

「出来ることなら、ここで一緒に戦ってほしいくらいなのですがね……しかし、軍の未来を占うとは。いったいどういう代物なのでしょう、あれは?」

「もし届かなければ、残されているのは核攻撃くらいしかありますまい」


 石動はギョッとしてヘイゼルを見た。ハーキュリーも怪訝な表情でヘイゼルを見る。だが、彼自身の表情にはほんの少しの変化も見られない。


「どうやら、あのバトルウェアは私が考えている以上に重要なようで」

「分かっていただけたようで何よりです、少佐」

「と、なればブルーム辺りから脱出するのがよいでしょう」


 そう言ってハーキュリーは地図を――それも物理的なものを――テーブルに広げた。アーガイル湖からブルームまでは400Km程度。


「市街地から離れており軍港も生きていて、補給を行うことも出来る」

「なるほど。敵の足を止められないのは不安ではありますが……」

「それは我々、オーストラリア方面軍が全力を持って止めてみせましょう」


 ハーキュリーは胸を叩いた。

 何となく、石動には信じ切れなかったが。


「分かりました、信じましょう。ご迷惑をおかけするが、頼みます」

「なに、仲間を助けるのに理由はいりますまい。それから……」


 今度は机をごそごそと弄り回し、紙束を取り出してみせた。


「面倒だと思われますか? ですが、ここは国連軍の勢力よりも遥かに火星軍が勝っていますからね。ハッキングの警戒は常にしなければなりません。そうなると、電子接続のしようがない紙媒体の情報管理は意外と有効なんです」

「ローテックがハイテックにあらゆる面で劣るわけではない、むしろそれにしかない利点がある……と。なるほど、理屈は分かります。そして賢い手段だ」


 ヘイゼルはそう言ったが、どれだけ本心で言っているか石動には甚だ疑問だった。ヘイゼルの下に付いた時から、どこか不信感がぬぐえないのだ。

 ともかく、紙束に視線を落とす。そこに書かれていたのは人型の金属骨格だった。


「これは……もしや、オーストラリア方面軍でもバトルウェアの開発を!?」


 叫ぶ石動。ハーキュリーは軽く笑いながら首を横に振った。


「幸運にも鹵獲することが出来た機体が一機あった、というだけです。急遽持ち帰り解析を始めたのですが、我々の技術班も匙を投げるほどの難題でね」


 ハーキュリーは大きなため息を一度吐いてから、話を続けた。


「どうすればあの重量の物体が両足で立っていられるのかが分からない。自重に骨格は絶えられないし、関節や駆動部の力は凄いけれどもそれ自体に全身を支える機能がついているわけではない。そこにいること自体がおかしいんですよ」

「それは、彼らの持つ重力制御ユニットが……」

「一番おかしいのはそこです。そもそも、重力を制御するほどの(・・・・・・・・・・)力を持つシステムとは(・・・・・・・・・・)いったい何なのでしょ(・・・・・・・・・・)うか(・・)? それに我々はゲルダを解体し、それを隅々まで調べました。ですが、該当する機能を持つパ(・・・・・・・・・・)ーツを発見することは(・・・・・・・・・・)出来なかったんです(・・・・・・・・・)


 さっぱりワケが分からなかった。

 悪い冗談でも言っているのかと思った。


(そこにあること自体が不自然な存在。いや、そもそもそこに存在し(・・・・・・・・・・)ないもの(・・・・)によってあれは動いていると?)


 バトルウェアは子の戦いが始まった時から存在していた。だが、バトルウェアとは何なのかという根本的な問いに答えられないことに石動は気付いた。


「もしかしたら、そこにあっても分からないだけかもしれませんね」


 ヘイゼルは流した。

 彼に対する不信感が、石動の中でまた高まった。


「こちらには実働するバトルウェアのデータと、海東博士が遺した設計データがあります。それを使えば、我々になら解析出来るかもしれません」

「現在こちらに存在するのは二機。一機はゲゼルシャフトを改造して組み立てたもの、もう一機は鹵獲機から得たデータを使って構築したものです。いずれも現地製造の粗造な品ではありますが、よろしくお願いします。少佐」


 ヘイゼルとハーキュリーは立ち上がり、互いの手を取った。石動はその光景をどこかぼんやりとした、遠くのものとして捉えていた。

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