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機甲戦騎キャバリアー  作者: クロイモリ
第二章:オーストラリア縦断編
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04-戦う理由

 その後、駆け付けたオリバセウスによって事故機は回収、乗員も保護された。イスカもオリバセウスに戻ったが、しばらくの間シートに座り放心していた。


(なんで、戻ってきてしまったんだ? 簡単なことじゃないか、艦橋を狙って、バン。それで終わりじゃないか。そうすりゃこんな戦いを続けることも……)


 外付けスイッチでハッチが強制的に開かれる。


「イスカ、整備を始めるから出てくれ。邪魔だから」


 イスカは億劫がって立ち上がり、幽鬼のような足取りで外に出た。ふらふらと歩く彼をロナは不審げな表情で見送った。

 何か食べて、寝たい。そんなことを考えながら歩いていると目の前に大きな影が差した。視線を上げると、そこにはアスタルがいた。


「火星に投降しようとしていたな。何を考えている?」


 イスカは答えず鼻で笑った。直後、アスタルはイスカの襟首を掴んで彼の華奢な体を振り回した。背中から壁に叩きつけられ、息がつまる。


「忘れるな、キャバリアーはお前だけのものではない……俺の、俺の仲間たちのものでもある! お前が守っている妹や民間人たちを守る盾なんだぞ、イスカ! お前が投降すれば最大の障害を排除した火星は嬉々として奴らを殺すだろう!」

「それが、どうしたんですか……! あいつらは勝手について来て、勝手に巻き込まれただけだ! そんな連中の命まで僕に押し付けないでくださいよ!」

「泣き言を言っていれば事態が解決するとでも思っているのか!」


 アスタルはイスカの襟首から手を放し、今度はがっちりと肩を掴んだ。


「どんな理由であれ、お前はもう戦っているんだ。大いなる力には大いなる責任が伴う。お前が望もうと、望むまいと。それだけは忘れるな」


 そういうとアスタルはイスカを放し、格納庫の方に歩いて行った。


(なんてものを……なんてものを押し付けてくれたんだよ、父さん……!)


 己の恨みを晴らすためにキャバリアーを作った父。押し付けられた自分。彼の中に父親への敬意はもはやなく、ただ恨みだけがあった。

 よろよろと立ち上がり、背中をさする。痛むが、こんなところでうずくまっているわけにもいかなかった。ただ彼は、食べて休みたかった。ほとんど生気を失った顔で歩き、彼は食堂に向かって行った。


「あっ……」


 深夜だというのに、食堂には先客がいた。

 御堂弘太だ。


(あんたも何か僕に文句があるのかよ……頼むから、明日にしてくれ)


 御堂は無言で立ち上がり、カウンターに向かった。自動調理器を操作し食事を用意すると、イスカに一番近いテーブルにそれを置いた。


「えっ……」

「腹、減ってるだろイスカ? まあ、食えよ。これくらいしかないけど」


 やや困惑しながら、イスカは席に着いた。

 その隣に御堂も腰掛ける。


「想像も出来ないけどさ……お前、ここで戦ってるんだよな」

「……ええ。いつも、いつも、戦って、それで……」

「白浜であれが出てきた時から、お前は戦ってくれていたんだな」


 御堂はイスカの方に体を向けて、深々と頭を下げた。


「ありがとう、イスカ。俺たちのために、体を張って戦ってくれて」


 そんなことをされるなど、思ってもみなかった。

 困惑するイスカに彼は続ける。


「みんなにもちゃんと言っておいたよ。あいつはあんなに小さいのに、みんなを守るために戦ってくれているんだ、って。軍が酷いことをしたのは間違いねえし、俺だってあいつらを信じられない。でもイスカを責めるのは筋違いだろう?」

「それは……」

「それに、俺は親父さんからお前のことを託されたからな」


 弘太は良治が越してきた時交わした、短い会話を思い出しながら話し始めた。


「『私は仕事の関係でイスカの傍にいてあげることが出来ない。だから、あの子のことを気にかけてやってくれないか?』、ってさ。あの時は無責任な親父だな、とか思ったけどさ。でもこんなことになったから分かるんだよ。親父さんは自分がいなくなっちまった痕のことを考えていたんだな、って」


 勝手な話だ。自分で危ないことをしておいて、その後のことを他人に託すなど。けれども少なくとも、父の心が憎しみに染まり切っていなかったことだけは分かった。最後の最後まで、父親は子供のことを案じていた……


「例え誰がなんて言おうとも、俺はお前の味方でいたい。ずっと俺たちを守るために戦ってくれたんだ、それくらい軽いもんだ」


 胸が熱くなって、何かが溢れ出て来そうになる。イスカはそれが溢れないように気を引き締めた。そうなるともう、止められないだろうから。

 考えていると、扉が開いた。島田が食堂に入ってきたのだ。


「ああ、ここにいたかイスカ。ちょっと聞いてほしいことがあってね」

「何、ですか島田さん? 何かまた問題でもあったんですか?」

「いいや、別にそんなことはなかったよ。ただね……」


 そう言って島田はニッと、快活に笑った。


「あの飛行機に乗っていた人たちは、みんな無事だったそうだよ。それで、キミが守ってくれたことにみんな感謝していた。ありがとう、ってね」


 ほんの小さな、簡単なことでよかった。戦う意味を見つけるのは。

 何か小さなことでもいい。そうするだけの意味を見いだせればよかった。


 気付けばイスカは泣いていた。

 御堂も島田も、彼が泣き止むまでずっとそこにいた。

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