04-強敵
イアン用にカスタマイズされたゲゼルシャフト、クロムナイトの白熱剣が執拗にイスカを付け狙う。イスカは小刻みな後方ステップでそれを回避、だが避けた先には僚機の銃火が待っている。イスカもカウンター気味に何度かクロムナイトの表面装甲を傷つけるが、破壊には至らない。通常の機体よりも装甲が厚い。
(この装甲厚、かなりの重量があるのは間違いない。それでもこの軽快なステップ、こいつ並みの腕じゃない! 指揮官だってのに……!)
普通倒れてはいけないはずの指揮官が、こうして前線に出てくるなどイスカには信じられなかった。まるで三国志か、あるいは戦国時代か。
アスタルや島田からの援護は未だにない。見捨てられた気がした。
(くそっ、頼む! 頼む! 頼む! さっさと僕を助けに来いよ!)
祈りが通じたのか、視界の端が煌めいた。森の中から放たれた32mm弾がイスカを撃とうとしていたゲゼルシャフトのカメラアイに直撃、破壊したのだ。
ゲゼルシャフトの動きが止まる。その瞬間を見逃さず、イスカは大きく距離を取った。そして腰にマウントしていたアサルトライフルを抜き放ち、至近距離でクロムナイトに浴びせた。イアンは盾を掲げそれを受け止める。
「動きを止めたな、この野郎ーッ!」
『この声、子供か!?』
イスカはライフルを撃ちながら前進、左の刀を振りかざした。イアンは剣を斜めに構えて防御、刀身と刀身がぶつかり合い激しい金属音を立てた。いかな火星軍の新兵器、ヒートソードと言えど超硬度実体刀を溶断することは出来ない。
押し合いでは負ける。イスカは刀を引き、執拗に何度もクロムナイトに打ち付けた。イアンは防戦一方となり、また周囲を取り囲むゲゼルシャフトも攻撃を行うことが出来ない。イアンを撃つ危険があるからだ。
その左側面、森の中から島田が回り込むのをイスカは見た。島田は背負っていたバズーカをイアンの背に撃ち込んだ。やはり装甲を撃ち貫くことは出来なかったが、それでもクロムナイトの体勢が大きく崩れる。殺った。
『撃てェーッ、私ごと!』
イアンの叫びに呼応するように、周囲を守っていたゲゼルシャフトたちが一斉に射撃を開始した。さすがのイスカも面食らう、アサルトライフルの弾がキャバリアーを、クロムナイトを襲った。たまらずイスカはイアンから離れてしまう。一方のイアンも無傷ではない、それ以上イスカを追撃することはなかった。
『そのバトルウェア……子供が乗っているのか!?』
イアンは剣先をイスカに向け問うた。
周囲の機体は動かない。
「ッ……!? だったら何だって言うんだよ、お前は!」
イスカは周囲の状況を冷静に観察しながら答えた。一撃で殺し損ねたことで状況は膠着状態に陥った、カメラを損傷した機体は既に後方に下がっている。狙撃と奇襲への警戒度が跳ね上がったことで、助力を得るのは難しくなった。
『ぬうッ……噂には聞いていたが、国連は子供まで戦わせるのか』
イアンは呻いた。自分が戦っている相手が子供だと知って、動揺しているらしい。この人間らしい振る舞いを出来れば味方にしてほしかった。
『投降するんだ、少年。悪いことは言わない』
「なっ……いきなり何を言い出すんだよ、そんな都合のいいことを!」
『大勢は決している。オーストラリア大陸において、国連軍に勝利の目は存在しない。投降すれば国際条約に基づき公平な取り扱いをすると約束しよう』
条約破りの戦いが横行している中、いったい何を言っているのだ、とイスカは憤慨した。だがそれを言う前に、事態が動き出した。
イアンの後方から増援が現れたのだ。十機以上のゲゼルシャフト、それに加えてゲルダ。航空戦力もいくらか。オリバセウスをすり潰すには十分だった。
「こんなにッ……!」
『もう一度言う、投降せよ。森に隠れている者たちにも通達するぞ』
イアンはイスカの肩越しに森を見た。ブラフかもしれないが、その先に敵がいるのだとまるで分っているようだった。イスカは歯ぎしりした。
(これ以上戦って何になる? どうせ勝ち目なんてないんだ、だったらあいつらに従った方がいいんじゃないのか……?)
投降してオリバセウスをどうにかすればいまの状況よりはずっとマシになるのではないか。イスカは抵抗の意志を捨て、武器を下ろそうとした。
その時、森の中から煌々と光輝く照明弾が打ち上がった。
『むっ……国連軍の残党か! 性懲りもなく……』
木々の隙間が鈍く輝き、爆音とともに砲弾が放たれた。よく見てみると、夜間迷彩を施した戦車がそこにはいた。続けてバタバタと派手な音を立てて飛び上がるヘリコプター。山の向こうから航空機が飛び出しミサイルを撃ち込んだ。
砲弾をシールドでしのぎ、ステップでミサイルを避ける。誘導能力のない高速弾頭は彼らの背後に着弾、爆発。爆風は数十トンの鉄塊を揺らがせることも出来なかった。即座にゲゼルシャフトは反転、アサルトライフルを発砲。背中を見せた航空機の羽根に十字砲火が突き刺さり、黒煙を上げながら機体は地に落ちた。
『オーストラリア本隊と合流を果たしたか。少しばかりこれはホネだな』
イアンは剣を鞘に戻し、部下に撤退の指示を出した。後列のゲゼルシャフトが背負ったミサイルランチャーを発射。白煙を引きながら飛んで行ったミサイルの二割くらいが前触れもなく爆発したが、残ったものが着弾し国連軍を吹き飛ばした。
『今回はこの辺りで退いておくこととしよう。だが考えておいてくれ』
火星軍は撤退を開始。
イスカはただ呆然とそこに立ち尽くすのみだった。




