6
鼻から一気に吸い込む。甘ったるい、馬鹿みたいな味が広がっていく。体をめぐり巡ったら、その甘さに溶けて私も馬鹿になりそうだった。ジャン・ダンテも同じように吸い込んだ。そして、再びベッドの上に私を押し倒した。さっきよりも熱く、舌を噛みちぎりそうなくらい唇を奪い合った。ジャンの手はいつもより大きく私を食らいつくようで、私は恐怖を超えたエクスタシーを感じ、喘いだ。アンタの言う通りだった。私は、ベッドの上で何度も狂い死んだ。ジャンは、私の首を思い切り締めた。その時の顔は、死神のようだった。ああ、私の事をこのまま、本当に殺してくれ。
ジャンと私はぶっ飛んで、もうこの世にはいないのと同じだった。そして、二人はブルックボーイズの名の元に、果てた。
目が覚めたのは、朝だった。頭が痛くて、全身が痛い。それに怠くて重かった。私は何とか起き上がろうと、全神経を集中させた。やっと、上体を起こすと、ぐちゃぐちゃのベッドの上で、悪魔のような顔で眠っている男がいた。私は昨晩のことを思い出した。ああ、そうだ。やっちまったんだ。もうシェリーに、言い訳は出来ない。だけど、そんな事どうでもよかった。私はまんまとジャン・ダンテにはめられてしまった。忘れようと決心していた情事の前には、もう戻れない。
ベッドから起き上がり、タバコを燻らす。煙を吸っても、何だかいつも以上に虚しくて、味がなかった。ジャン・ダンテは、私の横で寝返りをうったかと思うと、伸びをしながら大きく欠伸をし、丸い大きな瞳を開いた。
「早いな」
ジャン・ダンテは当たり前のように、私に話しかけてきた。
「いや、もう13時」
だから私も、当たり前のように返した。
「13時だって?寝すぎた」
彼は飛び上がって、ベッドの上の上着を急いで羽織った。私はその様子を座ったまま眺めていた。
「何か用事でも?」
そう尋ねると、ジャン・ダンテの動きが一瞬止まり、顔が強ばった。
「友人に会いに行くんだよ。ドタバタして悪かった。また会えるか?」
彼の目はどこか泳いでいて、それが嘘だと言うことは直ぐに分かった。けど、私は何も言わずに、「うん」とだけ返事をした。すると、彼は私にキスをくれた。そして、レシートに書きなぐった電話番号も。
「俺に会いたくなったらここに電話して。愛してる」
彼はそう言って、部屋から出ていった。あっけなかった。彼がいなくなった部屋は、ネズミの這う下水路のようだった。私は、既にジャン・ダンテに会いたかった。だけどその前にけじめをつけなくちゃならない。それは、シェリーに対しての事だった。私は今日のアルバイトが終わったら、シェリーに会いに行って、自分の気持ちを話すことにした。シェリーはきっと怒るだろう。それでも、私の気持ちは変わらなかった。
洗面台の上の錆び付いたカミソリを手に取った。皮膚に宛てがうと冷たさが伝う。ふと、部屋の中にジャン・ダンテの香りが蘇ってきた。私は、そっとカミソリを置いて、栄光よ明日へを口ずさんだ。




