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初めて見た瞬間から親近感を覚えたのは何故だろう。その男は、伝説のロックバンドのボーカル、ジャン・ダンテに似ていた。顔や服装、髪型、ピアスの数も。彼は、私の方を見つめていた。私は一瞬、どきりと心臓の鼓動が跳ねた。

「せっかく、いい所だったのに邪魔しやがってよ」

金髪男は愚痴を垂らしながら、大人しく引き下がった。彼の容姿に半ば、臆病風に吹かれたのだろう。ここでは、半端な喧嘩はしない方が懸命だから、彼の行いは正しい。

私は、助けてくれた彼に礼を言った。

「ありがとう。助けてくれて」

「で、何?君ってレズビアンなの?」

唐突に、彼は尋ねた。私も特に否定せずにありのままを打ち明けた。

「まあね。恋人もいる。もう、白けたし帰るよ」

「もう帰るのか?一緒に面白い事しないか?」

ジャン・ダンテに似てる男は、私の歩く道を塞ぎながら言った。

「面白いこと?悪いけど、他としなよ」

私は、道を塞ぐ彼の胸をどついた。すると、彼は大げさに痛がって見せた。

「驚いた。力強いんだね。じゃあ、俺の名前だけ聞いていってよ」

「名前だけなら、別にいいよ。言ったら素直に退いてくれる?」

「もちろん。俺の名前は、ジャン・ダンテ」

私は彼の発言に、思わず顔を眺めた。すると、彼は約束通り大きく道を開けて私へ差し出してくれた。しかし、私は一歩も動かずに彼をずっと見つめていた。

「どうしたんだ?開けたぜ」

「嘘つき」

「何が」

「名前だよ。何?アンタ、コスプレでもしてるわけ?」

「いや、本名だよ。たまたま、あのロックバンドのジャン・ダンテとね」

「彼は死んだ」

「勿論俺は本人じゃない。死んだ彼のファンさ」

「ああ、そう。だから、そんなコスプレしてるんだね」

私は、ジャン・ダンテとそっくりな彼、自称ジャン・ダンテの格好を上から下まで眺めた。ふくらはぎまでの黒のベルト付きのレザーブーツ。私もジャン・ダンテとお揃いのを持ってるから、どこのブランドのものかすぐに分かる。

「だから親近感湧いたんだ。アンタのジャケット、ジャンとお揃いのだね。ほら、私も」

言いながら、彼に向かって黒い皮のジャケットを広げて見せた。

「本当だ。君もジャン・ダンテのファン?」

「うん。彼が死んだ時は、一晩中泣いた」

「そうと知ったら、もっと君と話したくなった。って、まだ君は俺と話したくないか……」

彼が、顎に手を当てて悩むように首を傾げるものだから、私は思わず吹き出した。

「いいよ。どうせ帰っても何もないし。その代わり、5時までには店に出ないと怖い人達がもっと来るよ」

「了解。それじゃあ、あっちの席に座ろう」

彼は奥の席を指さした。私は頷いて、カウンターで再び新しい酒を頼むことにした。

「そう言えば、君の名前は何て呼べばいい?」

「アンって呼んで」

私は、ジャン・ダンテに改めて名前を言った。


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