第24話 「必要のない存在」
翌日曜日
隕石が落ちてからまだ4日目。
だが地球は活発な活動を見せ始めていた。
あの日以来、隕石が落ちたあの川原には、青、赤、緑、黄色、白と色とりどりに光り輝く新種の花がたくさん咲き乱れ、その生息地を徐々に広げていた。
ニュースでは、隕石がどこかの星から運んできた植物の種が開花したものではないかと専門家が論じていた。
隕石には、放射性物質など地球には無い危険な物質が運ばれてきた可能性もあるので、見物は自粛するようにとの警告もなされていた。
若葉は、この咲き乱れる色とりどりの光る花は、地球の歓喜の表れだと言った。
大会二日目のこの日も、陸上部員はスタジアムの観客席に集まっていた。
県央高校のメンバーは、昨日の蒼生の他には誰も目立った成績を上げていなかった。
何の競技にもエントリーしなかった紅緒は、観客席でスマホをいじりながら「合コン」というものに参加してみたいと言い出した。
陸上部の砂岡も、紅緒に認めてもらおうとこの大会では1500メートル走では決勝にまで進出してアピールしていたものの、そこは紅緒には関心がないらしく、紅緒がネットを見ながら気になっていたのは、精進料理を食べているお坊さんと、アマゾンの原住民らしい。地球で誰が一番ピュアなうん●をする男性なのかを、ネットで細かく探していた。
蒼生はまた一日で30センチほど身長が伸び、2m30センチほどになっていた。
ギネス世界記録は2m72センチなので、まだ人間としての範疇には収まっているのだが。
「でも蒼生が本当に5メートル、10メートルまで大きくなったら、どうしたらいいんでしょうか」
「ウチには住めないな…」
「どこかの洞窟とか探して住むとかかなー?」
「ちゃんと国に保護してもらって、居住地を用意してもらえないものですかね…」
「いったい一日にどれくらい食べ物が必要になるのだろう」
「ちゃんと体にいい食料を大量に用意できるものですかね…」
「着る服はあるのかな」
「そもそも物理的に二足歩行は可能なのでしょうか…」
先が見えない蒼生の将来を皆で先回りして色々想像してみるが、
これから蒼生がどのような進化を遂げるのか、もちろん誰にも分かりようがない。
「ただ」
紅緒が勇太を見つめた。
「このまま蒼生が一人で巨大化していくのなら、もう勇太は必要のない存在になっていくのかもしれないな」
内心思っていたことを指摘されて、俺はドキリとした。
あの日以降、俺の体は何も変わっていない。
かつては蒼生に切望された自分だったが、もうその位置にはいないことを悟っていた。
ほっとする気持ちもあるが、地球に選ばれていない事実に少し寂しい気持になっていた。
「もう俺の出る幕じゃないよ」
「そうかもしれないな」
冷静に紅緒は告げた。
「仮に蒼生が10メートルにまで成長したら、そんな新種の生命体と普通の地球の人間が、次世代を担う人間を誕生させるとは、到底考えにくいな」
仮に蒼生の気持ちがどうあれ、地球自体は、山吹勇太を必要としていない。
観客席に座る蒼生は、頭ひとつもふたつも皆から飛び出しているので、何も耳に届いていないのかグラウンドを見つめていた。
隕石が落下したことで、地球は地球自身の望みをかなえるチャンスを得た。
そして自らの願いをかなえるために、地球はこの先、どんな犠牲も厭わないはずだ。
超ドSな地球の陰謀が、静かにはじまっていた。
その夜、山吹勇太は物置からプールと釣り道具を取り出し、川をくだった。
隕石落下地点の正面まで流れて来ると、釣り竿を振り抜き、糸の先にくくりつけた網の中のタッパーを、その隕石の穴の中に沈めた。カコーンとタッパーの蓋の外れる感触が手に残った。
勇太は自分の作品を、まだこの穴に届けていなかったのだ。




