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超ドSな地球の陰謀  作者: 新井S蓋
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第11話 「私が守ります」

7月第二週の木曜日。


夕方でもうだるような暑さが残る中、顧問の柑子先生は練習の手を緩めない。

週末の土日には学校内で毎年恒例の合宿、

そして翌週の土曜にはいよいよ陸上競技大会が控えている。


宇宙から来た少女たちは、積極的に練習にかかわろうとはしなかった。

見かねたのぞみが体育倉庫の整理をお願いすると、

倉庫の中に置いてあった円盤投げの円盤を見つけて大騒ぎし始め、

地面に複雑な計算式を書いて、どうやったらこれを大気圏外まで飛ばせるのかと

真面目に議論を戦わせた。


それだけ運動が嫌いなら別に陸上部に入らなくてもいいのではと思うのだが、

「記録というより体調管理」のためにやっているのだという。

すべては健康なうん●のため、らしい。


そして練習後、週末に行う1泊2日の校内合宿の連絡事項が柑子先生から伝えられた。

大会一週間前に校内の合宿所に泊まり込み、みっちりと練習を行う陸上部の伝統。

とくに跳躍、投てき系の競技はOBも参加して技術をしっかり教わるので、有意義な練習が出来る。


「へぇー学校に泊まれるんだ」

蒼生と紅緒は嬉しそうに目を輝かせ、正門前のコンビニの紙パック牛乳で乾杯した。


「でも、大会に出ない選手は合宿に参加しなくていいんだぞ」

つまり蒼生と紅緒は学校に泊まる必要はないのだ、と俺が水を差すと、


「絶対に合宿に参加させて下さい」

「練習はしないけど手伝いはするからさ」

二人は合宿参加を猛烈にアピールしてきた。


そんな彼女たちを、のぞみはあきれた表情で見つめた。

「二人ともあんなに練習嫌いなのに珍しいね。遊びじゃないんだよ」

分かってます、と力強く答える蒼生。


「私は合宿でちゃんとした料理を作って、皆さんをサポートしたいんです」

確かにスポーツに栄養のある食べ物は大切だしな、それは助かるかも。


「でも紅緒は、料理なんてガラじゃなさそうだな。合宿に参加して何するんだ」

「私には、ある極秘計画があるのさ」

極秘計画って…大丈夫か?


「紅緒、何のこと?教えてよ」

「いや、極秘だ」

「地球や人類に多大なる損害を与えるような事じゃないんだよね?」

「そこは大丈夫だ、心配するな」

「本当?」

信じたいのは山々だが、どうにも信用できない。


「紅緒、念のために何をするのか教えてくれよ。地球の人間として、聞いておく責任があるから」

「それはダメだ。教えたら山吹に反対される事は明らかだからな」


紅緒は謎めいた笑いを浮かべたまま口を閉ざした。

こんな奴、絶対に参加させるわけにいかないだろ…。


だが、顧問の柑子先生が、二人の合宿参加を認めてしまった。

料理や掃除、洗濯をしてくれるマネージャーがいないので助かる、というのがその理由だった。


そして2日後の土曜日、校内合宿がスタートした。

朝9時前に集合して練習開始、

お昼に休憩をはさみ日中の日差しが強い時間は体育館で筋力トレーニング、

夕方からグラウンドで専門的な練習を再開し、

日没までは筋トレやストレッチという、

1日中、ビッシリと練習メニューが詰め込まれていた。


長距離チームの俺と砂岡は、

初日の午前中から400mのインターバル走10本という過酷なメニューを強いられた。

顧問の柑子先生のピストルも絶好調で、校庭にバンバン鳴り響く。


のぞみは棒高跳び用の厚いマットを校庭の端に運んで、3m以上あるバーを担いで跳躍を始めた。

蒼生も下に落ちたバーを戻す作業を手伝っていた。

3mを超える高さまで垂直にしなった棒の先端に人間がいて、

そこで倒立している光景は学校の校庭には不似合いな景観でもあり、壮観だった。

 

昼食はカレーライス。

食堂の広間で各自がジャーからご飯をよそい、カレーをかけるスタイルになっていた。


あの2人が作るカレーって大丈夫なのか、という物凄い不安が頭をよぎる。

鍋を覗くと定番のじゃがいも、人参、玉ねぎなどが入っていた。


見た目も香りも確かにカレーなのだが、

これまでの2人を知っていると、「ある不安」を払拭できずにいた。


俺は、失礼を承知で厨房に向かい、洗い物をしている蒼生と紅緒に尋ねた。

「これ本当にカレーだよな」

「えっどういう意味ですか」

「私たちだって勉強したんだせ。カレーライスくらい作れるさ」


得意げに二人から反論されると、なかなか言い出しにくい。

だが部員の安全のためだ。


「いやあの…、間違ったもの使ってないよな。

 一応確認するけどまさか、その…うん●…じゃないよな」

「何、失礼なこと言ってるんですか!」

「山吹、うんこは人間なんかが食べていいものじゃねえよ、勘違いするな!」


ものスゴイ剣幕で二人に怒られた。

アレは人間が口にするなど、おこがましいほどの高貴なものなのだ、と。


機嫌を損ねた二人に頭を下げ、必死でなだめていると、

食堂から、いただきます!の声が聞こえた。


そもそもこのカレー、味は大丈夫なのか?

食堂に急いで戻ると、美味い!と口走りながら先輩たちがカレーを頬張っていた。

どうやら心配は杞憂だったらしい。


「美味いな、食べた事ない旨さだ」

「何が入ってるんだろうな、スゴイ具だくさんだよ」


ちょっと不安になる会話が飛び交っていた。

本当に大丈夫なのかコレ。

鍋からカレーをすくうと、人参、玉ねぎ、ジャガイモ等ごく普通の食材が入っていた。


不安を抱えながらも、空腹に負けてカレーをよそい、席に着いてスプーンで口に運ぶ。

確かに美味しいカレーなのだが、その奥に何とも表現しにくいスパイシーで濃厚な味が隠されている。

正体不明のかたまりも、特に味は無くイカのような食感。でもイカではない。

これは確かに今まで食べたことの無いカレーなのだが、不思議な事にちゃんと美味しいのだ。


食堂に二人の調理担当が顔を出すと、男子部員が拍手喝采で迎え入れた。

「美味しい!」「最高!」「いい奥さんになるよ!」

あらん限りの賛辞を贈られ、蒼生と紅緒は照れ笑いをした。


「こんな美味いカレー、初めて食べたよ。これ何が入ってるの?」

二人は顔を見合わせると、

「私たちの愛情です!」

そんなベタなギャグを飛ばした。男子部員たちは大喜び。


昼休みをはさんで、午後からはOBの指導の下で気の抜けない厳しい練習が再開、

日没を迎えて、合宿一日目の練習は終了になった。

 

夕食のよせ鍋も、二人の宇宙人が作ったとは思えないくらい美味しく出来ていた。


「銭湯に行く人は30分後に合宿所入口に集合してください」

夕食を終えた食堂で、女子キャプテンの飛鳥先輩から部員全員に呼びかけがあった。


合宿所にシャワーは付いているのだが、陸上部では伝統的に近くの銭湯に行くことになっているらしい。

大きい浴槽に浸かった方が疲れの取れ方が全然違うし、

裸の付き合いを通じて部員同士の親睦が深められるということで、参加は半ば強制だった。


「銭湯かぁ。スーパー銭湯なら言った事あるけど、商店街にある本物の銭湯だよね」

のぞみは嬉しそうだった。

砂岡もとっくに洗面道具を抱えていて、

「俺も銭湯は1回しか行った事ないんだよ。なんか憧れだよな」

と心浮かれていた。


もちろん宇宙少女二人も銭湯には行ったことはなく、

「そんな場所があるんですね!これはチャンスです」と蒼生、

「堂々と地球人の裸がみられるんだろ、楽しみだな」

紅緒に至っては、すっかりいかがわしい欲望を膨らましていた。


部員全員で商店街の中を歩き、細い路地に入った所に建つ銭湯に到着した。

入り口で男湯、女湯に別れると、

えぇっ別々なの、と紅緒は男子と一緒ではないことに不満をもらした。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


蒼生は脱衣所で服を脱ぎ、そっと前をタオルで隠すと、

隣で服を脱いでいる紅緒を見て、愕然とした。


あわてて紅緒の胸にタオルを当てて隠し、蒼生はそっと耳打ちする。

「紅緒さんの星では、母乳で赤ちゃんを育てるという習慣はないんですか」

「母乳って、なんだそれは」

「あの…周りの人の胸を良く見てください」


紅緒は、浴室に向かう陸上部員たちの裸を凝視した。

「あの胸の先に、なんかポチッとついているものは何だ」

「紅緒さんには、ないですよね」


そうだなと答え、紅緒の顔が青くなった。

地球人にはあるものが自分には無い。

「お前にはあるのか、ちょっと見せろ」

「いやダメですよ」

紅緒は蒼生のタオルを無理やりはがそうとしたのだが、激しい抵抗を受けた。


「こんな所で胸を見せ合いっこしたら、変に思われるじゃないですか。

 浴室に行く時に自分から自然にタオルを外しますので、その時にでもチラッと確認してくださいよ」

「どうせ見せるんだったら、いつでも一緒じゃないか」

「そういう所が不勉強だって言うんです」

 不勉強と言われ、紅緒はしぶしぶ攻撃の手を緩めた。


「それより周りをよく見て下さい。胸のポチ以外に自分と違う所はないですか」

紅緒は周囲にいる女子の体を無遠慮に、じろじろと観察した。

「そうか。地球の女子はそうなっているんだな」

すっかり感心していた。


「紅緒さん、テキストで勉強して来なかったんですか?」

「生で見るのは初めてだな」

「まぁ私も女子は初めてですけど」

「えっ男子はあるのか?」

「いえいえいえいえ…」

両手をパタパタさせて強く否定する蒼生。

アクシデントです、と小さくつぶやいて、その場を何とかごまかした。


だが紅緒は、そんな蒼生の失言より、地球の女子と自分との違いに愕然としていた。

「何ヶ所か異なるな」


胸以外にも、地球人と違う部分があるらしい。

「紅緒さん、何でちゃんと勉強して来ていないんですか」

「私の星のテキストには、地球人のエッチなビデオとかあったんだが、興味がなくてな」

「そういう問題じゃないです。ちゃんと勉強して来て下さい」

「画質が悪くて、はっきり見えなかったってのもある」

「VHSだったんですか?」

「ダビングしまくりのテープだったみたいだな。モザイクも入ってたし」

「意味ないじゃないですか!」


意気消沈する紅緒に蒼生は、

「ビデオじゃなくても、写真とかイラストとか色々あったでしょ。試験に出なかったんですか?」

と問い詰められると、

「本は読んでいたのだがうっかりしていた。こういう事態は全く想定していなくて…」

と苦しい弁解をした。


「蒼生、それでは私の裸を地球の人間に見られたらマズイ、ということだよな」

「それはもう、大変な事になりますよ」

「ちなみに蒼生は大丈夫なのか」

「キャッ!」


油断していた蒼生のタオルを引っ張り、紅緒は胸元から中を覗いた。

「ほう、地球人と同じに作られてるんだな。大きさはずいぶん違うけどな」

「失礼ですよ」

胸元を押さえ、真っ赤になって怒る蒼生。


「たまたま67C星人は外見上の機能が地球人と一緒なんです。違うのは体の中の機能」

「私は外見が違うから、裸を見られたら宇宙人だと一発でバレるな」

「宇宙人だとバレるかどうかは分かりませんけど、ものすごいパニックを引き起こしますから、

 絶対にタオルは外さないようにして下さい」


蒼生は、そう伝えると、

「私が守ります」と言いながら、紅緒と一緒に浴室のガラス扉を開けて、中に入った。


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