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名も無き星の冒険者  作者: 流水斎
第ニ章
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エキスマキナ

「何故止める?こいつが敵になるというのなら…」

「だから待てって。投影された情報を普通の手段で殴っても傷つきゃしねーよ」

「その通り。僕は物理的な手段で殺す事はできないよ?これがどう言う事か判るかなあ?」

 俺が止めた事に驚いて、予想した通りの答えが帰って来た。

 御蔭で反応が引き出し易い…。

 ここは暫く会話で情報を探って、対抗手段を探る構えだ。

 一時的に邪魔する手段はヒントがあった物の、本当の意味で倒す手段なんざ思いつきゃしねえ。


「俺達が対抗する手段が酷く限られるってことだろ?それも十分に用意してからの話だ」

「せいか~い。教えてはあげないけれどね。手段が皆無って訳じゃないんだ。だけれども…思いつかないなら、いいや。思いついてもその場で用意できななら……」

「まさしく無敵。貴様の介入をむざむざと許すほかないと言うのか」

 思った通りだ、こいつは造られて間もない為、人格に厚みが無い。

 奴が言って欲しそうな内容から、俺が言葉を少しだけ入れ変えて答えてやると、誘導に乗ってきた。

 確かに倒す事はできねーが、この場をやり過ごす事はできそうだぜ。

 まともに倒すんなら、効率重視のあいつが悔しがっているように、倒す手段なんて無いんだろうけどな。


「それで、ワザワザ顔見せに来てまで、何の御用なんだ?まさか本当にドラゴンの巣穴を教えてくれるって訳でもねえんだろ」

「ここまで来た勇者の顔を拝みに来たってのは本当なんだけど…。少しは頭が回る様だねぇ、もちろん何かあるに決まってるさ」

「何を考えていようが、貴様の思い通りには……」

 だから、余計な事をするなって。

 握っていた手ではそろそろ効果が無くなって来たので、肩を抱くようにして口出しを止めさせた。

 悪役がベラベラ自分から喋ってくれるのに、それを邪魔する理由は無い。

 このしのぎの嘘が大半だと判っちゃいるが、乗っておこうじゃないか。


「次の変動が早まっちゃってるようでねえ。せっかく用意したドラゴンの巣穴も、飲み込まれちゃいそうなんだね。ここは一つ、僕の書いた演出の為に頑張ってくれない?」

「ふっ、ふざけるな!」

「て言う事は、てめえが用意したバケモンと戦えば御宝ゲット。放っておけば脅威は自然に消えるが、御宝も消えちまうってって事か?随分と勝手な物言いだなあヲイ」

 全く嘘をつかないか、嘘の為に全てを動かしかねないアマデウスと違って、底の浅い嘘だ。

 さて、変動が起きる時期やら場所やら不明な情報もあるが…。

 どこからどこまでが嘘なのかねえ?

 用意された正解を口にした事で、上から目線の笑顔を浮かべやがったが、出し抜く為にも確認しとかないとな。

 まずは、ここから退かせたいのか、それとも単に思い通りに動かしたいのかを調べて見るか…。


「それだと此処を通って、向こう側へ急げば直ぐ終わる話だよな?どうせ何か別の内容とニ択か三択なんだろ?」

「アハハハっ!君は本当に頭が良いねぇ。その通り!!君らが苦労して集めた新天地の情報も形が変わっちゃうんだよ。少なくとも…伯爵が御執心の翼竜辺りは全滅だろうねぇ」

「貴様っ!我々と伯爵を仲違いさせる気か!」

 此処を通るのに反応を示さねえのは良い事が、狙いが少し露骨過ぎるな…。

 危機感を煽りたいのか、不仲を煽りたいのかしらねえが、ちょいとばかりバランスがおかしい。

 この手の情報を、俺達が自然に掴んでから、自分で選択させた方が御宝へのリスクなり、仲を引き裂くにしても有効なはずだ。

 明らかに目先の欲で釣ってやがるが、何をそんなに焦っているんだ?

 同じゲームマスターを気取って居ても、アマデウスほど達観してないからなのかもしれないが…。

 …待てよ、アマデウス?


「くっ。目の前に敵が居ながら、拳一つも浴びせてやれんとは…」

「止めとけっていったろ…。アマデウスに泣きつくとしても、交渉材料は何も無えだろう」

「本当に殴られても困るし、用件を伝え終わった以上は僕は失礼させてもらうよ。…次に会うのが何時か判らないのが残念だけどね」

 まだまだ離し足りなさそうな顔だったが、4番目は立ち去って行った。

 上から目線で色々と口出しをやりたそうなタイプに見えたが、アマデウスの名前を出した瞬間に帰ってくなんて、態度の定まらねえ奴だ。

 …やれやれ、あの御節介は俺達だけじゃなく、4番目に『も』ヒントを出してた訳だな。


「悔しいな。あんな奴に好き勝手にされるなんて。顔見知りを装っているだけに、余計に腹が立つ」

「手詰まりだから仕方ねえ。次に会う時は、準備万端で出迎えてやろうぜ」

 サバサバした俺の態度というよりは、対処手段がありそうな事に意外そうな顔が帰ってくる。

 そうさ、俺達にはその手段が揃ってたし、やろうと思えば…難しいが実行できてたかもしれねえ。

 俺が先に気がついときゃあ、この場でトドメがさせたかもしれねえってのに。

 我ながら迂闊な事だぜ。

「何か対抗手段があるのか?不死身なんだろう?」

 俺は頷くと、居住区目指して歩き出した。


「奴は星間通信ネットか何かにアップロードされてるが、その維持も行動も、モジュール干渉波で行ってるんだ。それも容易にコピー出来ねえ状態でな」

「…つまり、モジュール干渉波や情報の移動を制限すれば、あるいは減産してやれば…奴の存在力を減らせる?」

 多分、その方法しか無いんだろうな。

 現時点で、モジュール干渉波に逆干渉して攻撃する手段が確立されてねえ。

 となると、加算系を逆転させて、減産呪文を造り、枯渇させてやるしかないって事だ。

 気がついて居れば、情報の移動を停止した上で、時間を掛けて減産呪文を維持すれば良かった…んだろうな。

「会話の途中で気がつく間抜けさを発揮してなきゃあ、今頃あいつはデータカスになってたろうにな。次に会う時までにバックアップを用意するだろうから、厄介になるだろうな」

「…予備情報を何処かにスタンドアローンで保存というところか?本当に吸血鬼退治みたいになってきたな」

 その通りだと俺は肯定の意思を返して、千歳一隅のチャンスを取り逃がした事を悔しがる事にした。

 スタンドアローン……情報を隔離して何かに保存されたんじゃあ、探すのに一苦労だからである。

 吸血鬼は邪悪な土に魂の一部を残すというが、本気で面倒な作業になりそうだった。


「まあいいや。居住区に帰ったら、全員でドラゴン退治なり、翼竜回収なりを話し合おうぜ。新しいマスターナンバーを決めるのは、その後かねえ」

「そうだな。功績争いに興味は無いが…、正直な所、攻撃の通じない相手と会話していて…、ちょっとだけ疲れた」

 今後の方針を喋りながら歩いて居ると、少しだけ走る足音と、直ぐ近くに体温を感じる。

 ほんのりと、肩をぶつけて来るような距離で…、二人揃って居住区に帰還する事にした。


ゲーム風解説第25回


@イモタール対策と、新しいクエスト

 この話以降、情報体であるイモタールのクラスの存在と、対策が確立して行きます。

イモタールは物理的に不死身であるものの、対処手段を持つ者に対しては脆弱な一面を持ちます。

具体的に言うと、4番目が伯爵との対立を煽っているのは

伯爵のクラスである、聖職者の特典能力に非常に弱いからです。

聖別された壁は、モジュール呪文無しで優先権が聖職者側に移り通り抜け出来ず、聖別された剣は付与呪文など無しにイモタールを傷つけます。


もちろん、モジュールや情報への干渉波でも通じるので

MPへダメージを与える呪文が確立されて居なくとも

情報伝達を遮断する呪文を使った上で、MPを減らす呪文で時間を掛ければ倒す事も出来ます。


これに対するイモタール側の手段が、本来は不要な記録媒体を用意して

自分の一部をバックアップして置く事です。

これは見つけられたら、情報がバレてしまう欠点を持つ代わりに、行動している側のMPを削られて死ぬ事がなくなり、また、パーティで行動している場合は、情報移動の制限を受けにくくなります。


オマケ:追加クエスト

 4番目が口にした、新しい変動自体は本当の事です。

駆け引きが上手く無いので、直接口にしていますが・・・。

この事で、レッサードラゴン退治と翼竜回収の2つのクエストに時間制限がつきました。

 逆に、イモタールの存在が正式に確認された為

情報体への対策が、新しいクエストに追加されました。

呪文研究者は、どう言う方法なら特定し、倒せるようになるのかを研究し

探索者は、行動地域やバックアップの隠し場所を探す事が、任務と成ります。

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